第二十九話洛陽をまえにしちゃって(OTR)(歌う
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超お待たせしました。
おひさしぶりの歌う、です。
その逃走では、何も持てていなかった。
今までの権勢も、栄華も、栄光も。
帝国の中枢を掌握し、全てを思うがままに出来るほどの力を得ているはずだったのに。
いまの自分は、泥に塗れ地に伏していた。
肝脳地にまみれ、という言葉もあるが、今の自分を踏みしだく存在すらなかった。
力尽き倒れ、そして地に伏して、禁軍兵士に何度か踏まれたまでは覚えていたが、気がついてみれば大河のような人の流れの中で立ち止まっているだけだった。
視線を這わせてみれば、人の流れの中にいくつもの穴がある。
その穴のひとつの自分、そして誰かなのだろう。
まるで遠くから指示されているかのように、どこか天から見て操作されているかのように、人の流れは、反乱軍の流れは自分を避けて通っていた。
いや、自分など相手にするまでもない、と意識されているようだった。
この十常侍たる、自分を、この郭勝を!!
赤く爆ぜるほどの赤熱の思いだったが、不意に視線を感じて冷えた。
そう、いまの自分は、何の害もないからこそ生かされているのだと実感したのだった。
滝のような背中の汗を自覚しつつ固まっていると、いつの間にか視線は消え、正面に見知った人物が現れる。
「張讓、殿・・・」
「生きておったか、郭勝」
飄々とした老婆にして、この決戦前に姿をくらませた十常侍の筆頭にして恥さらし。
最後までこの戦を止めようとしていたが・・・
「敵に通じておったか、この恥知らず!!」
「それはこっちの科白(せりふ)だぞ、郭勝。何度も天子の御心に合わぬ所業だと忠告したではないか?」
「だからといって、あんな下賎なる諸侯にぃ!!」
「阿呆ぅ、その諸侯と庶人に逆撃を受けたのであろう?」
どんなに事実に則していても、それが天の理に反しているのだから、それは誤りだ!!
「・・・どんな理だ?」
「われらが天子様の代弁者であるという、この真実を覆すことなど出来まい!」
高らかなる真実の開示に、張讓殿はため息をついた。
「本当に、阿呆じゃなぁ、お主等」
聞いていて頭痛を感じる意見を、聞いてしまった。
張讓殿の手引きによる都軍の瓦解作戦は非常に順調に進んだ。
いや進みすぎた。
さすがにほぼ全員が逃げ出すとは思っても見なかった。
が、それを見越した張讓殿の策には、ウチの軍師も驚いている。
まるで、あらかじめ撤退を織り込んで教導したかのようだ、と。
もちろん、このような敗走が教導されているわけもないのであり得ないが。
「公孫伯珪様、あの者をどうしますか?」
「それとなく兵をつけておけ」
「御意」
すでにこの兵の流れを支えているのは祭りのような狂乱だ。
殺すとか倒すとか言う殺伐とした空気ではなく、明日をみたい、切り開かれた道をみたいという欲求だ。
「公孫伯珪様、まるで歌姫姉妹の歌のようですな」
「ああ、桃香たちの歌が聞こえるようだよ」
友よ見上げよ、あの夜虹が降りてくる。
舞い上がれ、けして諦めずに。
あの命が輝く空を目指し、目を逸らさずに。
「公孫伯珪様、それは?」
「桃香の詩文の引用さ」
歌え、歌え、このセカイを歌え。
歌え、歌え、この大地を歌え。
鳴りモノを鳴らせ、楽器を鳴らせ、武器を鳴らせ。
大地をたたけ、手をたたけ、宙をたたけ。
声を上げろ、喜びの声を。
声を上げろ、希望の声を。
声を上げろ、望みの声を。
締め切られた門の向こうから聞こえを声を聞け。
町を囲む軍勢の声を聞け。
集まりくる庶人の思いの丈を聞け。
老婆たちの絶望の深さを反するように、洛陽を囲む人々の意気が上がる。
その最中、少女の集団が一歩前にでた。
誰も彼もがわかるわけではない。
しかし、その先頭に立つモノ、その存在を人々は察した。
風に流れる桃色の髪。
肩から吊された特殊な楽器。
腰に据えられた華美な宝剣。
そして、輝いているかのように力の気配を背負うもの、その名は・・・
劉 備 玄 徳
仲山靖王の末裔にして、この大陸を孵すとうたわれる天河の歌い手。
けして武器を構えることなく前線に立つ姿を、眩しそうに誰もが見つめていた。
「誰もが思う幸せがあります。
けして誰もが貧しさを望んでいるわけではありません。
喜びはあります、楽しみもあります、そして思いの丈があります。
みな、今を不満に思いながら、それを起床する手段がありませんでした。
誰もが明るい明日を求めているだけなんです。」
流れるように、劉玄徳の腕が楽器をなでる。
すると人々のざわめきとともに音が広がった。
空に、大地に、人々に。
「贅沢、それ自体は否定しません。己の力の範囲ですればいいでしょう。
賄賂だって本人たちが納得しているのならば気にしません。
ですが、貴女たちは、貴女たちの立場でもっともやってはいけない罪を犯しています。」
再び降りおろした腕とともに、堅い弦の音が響きゆく。
「偽勅。政治を預かるモノが、これに手を出した時点で、貴女たちの存在価値はないのですよ?」
真っ青になり、それでも譲れない一線なのか、様々に声を上げる老婆たち。
力つきて倒れていたモノたちですら、口から泡を立てて言い募る。
「あー、言い訳や言い逃れを尽くしても無駄ですよ? 皇族に連なる劉家には劉家の口伝がありましてね・・・」
ゆっくりと、ゆっくりとメロディーを鳴らし始める劉玄徳。
「その口伝から見れば、偽勅であるかないかなんて簡単にわかるんですよ」
にこやかな笑みを浮かべる劉玄徳。
しばらく無言だった老婆の一人が、人影から劉玄徳に向けて動いた。
瞬間、歌姫姉妹が動こうとしたのを劉玄徳
が止める。
放たれた矢は、まっすぐに、劉玄徳の胸に突き刺さった。
「・・・は、ははははは、はははははははは!!!やったぞ、やったぞぉ!! 天子への反逆者、劉玄徳を、私が、私が、段珪がうちとったわよぉーーーー!!!」
正気を失ったかのような笑い声。
あまりの空気に気を失いそうになっている他の老婆。
もう、自分たちは死ぬ、そう思った。
が、未だ、楽器の音は鳴りやまぬ。
「・・・、倒れないよ、死なないよ、みんなを残して倒れるもんか」
再び放たれた矢を今度はよける。
楽器はかきならされたまま。
胸に刺さった矢はそのままに、流れる曲をそのままに。
「何度だって、何度だって、どんなことがあっても、立ち上がってやる」
それは矢を受けた人間の動きではなかった。
それは降り注ぐ矢の雨の中にいる人間の表情ではなかった。
「歌うよ、私は歌うよ。この歌にすべてを込めて歌うよ」
明らかに激しく動いている劉玄徳の口から紡がれる言葉は、なぜか周囲全体に響きわたっていた。
「強く、強く、私は願って歌うよ!!」
~「ロックンロール イズ ノットデット」サンボマスター
それは、詩作してそのままに、まったく推考しないで歌にしてしまったかのような、そんな思いのままの歌。
桃竜、いえ、劉玄徳様は歌いあげる。
戦争の愚かしさを、そしてその中で落とされる命の無念さを。
自分がその一つの命であると自覚して、そしてその立場からの歌が私(わたくし)たちの胸に叩きつけられていた。
降り注ぐ矢の雨がまるで光の洪水のよう。
あまりのことに流星の歌い手、そんな言葉が浮かんだ。
「金竜姉者、我らも参りましょう」
「・・・そうですね、あの動きにあわせられるのは私(わたくし)達姉妹だけでしょう」
私は金の剣を構える。
そして白竜さんは、朱の槍を構える。
「いきますわよ、ロックンロール!!」
「「「「「ひゃっはーーー!」」」」」
なぜか周囲の兵たちが私たちに続きましたが、何となくノリですわよね?
えー、天河の歌姫姉妹は「ぺたん」が多いのですが、三頭竜姉妹の舞台では逆なので・・・
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