あぶくま抄・論説

論説

  • Check

【漁業の試験操業】再生は一体的仕組みで(11月1日)

 いわき沖で始まった漁業の試験操業は31日、2回目を行った。本格的な再開につなげるには、安全な水産物を消費者に安定して届ける仕組みづくりが欠かせない。放射性物質の検査や魚種の拡大に加え、魚介類の資源管理、生産・加工・流通の施設整備や人材の確保、消費回復までの幅広い対策に一体的に取り組むべきだ。
 いわき市内で漁業に就いているのは東日本大震災前の平成22年に約600人で、5年前に比べて約26%減っていた。担い手の高齢化も進む。漁港や魚市場などの施設、漁船や漁具は震災で打撃を受けた。操業自粛や風評が長引けば、後継者の育成や関連産業への影響は大きい。
 着工した新しい小名浜魚市場や冷凍・冷蔵施設は来年秋の完成を目指している。県は後継者の操船・漁労技術の習得に向けた研修や、共同利用の漁船建造費用の支援、ヒラメやアワビなどの種苗研究・生産施設の整備などを進めている。関係者の漁業離れを食い止めるために各事業の加速が求められよう。
 震災前から続く消費者の「魚離れ」も課題だ。国の調査によると、国民1人当たりの1日の魚介類と肉類の摂取量は、18年に初めて肉類が上回った。その一方で、日本は多くの国から魚介類を輸入している。流通業者は、成田空港を通じて輸入される現実を「成田漁港」と呼ぶ。国は食用魚介類の自給率を22年度の60%から、34年度には70%に高める目標を掲げている。達成には、日本の水産業の大きな基地である東北地方の太平洋沿岸地域の復興が重要だ。
 漁村は漁業を支える生産・生活の拠点と同時に、自然景観、祭礼や信仰などの文化・伝統を受け継ぐ役割を担う。震災を教訓にした防災・減災対策を充実させ、快適で安心して暮らせる地域への再生が大切だ。
 日本と太平洋の島しょ国・地域の首脳が集まる太平洋・島サミットは、27(2015)年にいわき市での開催が決まった。また、ユネスコの無形文化遺産に和食が登録される見通しとなった。いずれも海や漁業と深く関わる。生産・加工・流通・小売りの各関係者、消費者、行政が連携し、サミットの受け入れや、魚食を中心にした郷土料理のPRなどの準備に取り掛かってほしい。
 サミットは本県の復興を示すだけではなく、海の恵みを受けている漁業や漁村の将来像、魚食など和食文化の奥深さを国内外に知らせる機会といえよう。(安田 信二)

カテゴリー:論説

論説

>>一覧