第二十七話「みんなの覚悟がうまれちゃって・・・」
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第二十七話「みんなの覚悟がうまれちゃって・・・」
道行く者たちが「鐘」をならす。
兵が、将が、庶人が。
空けやらぬ闇の中で「鐘」を鳴らす。
大人が、子供が、老人が。
天に届けと、夜闇を晴らせと「鐘が」鳴る。
そこにあるモノは大いなる希望の想い。
赤壁で、老婆たちの狩り場で「鐘」が鳴ったことは恐ろしい早さで伝わった。
どのような結果があるかとか、どんな風に終わったとか言う話など有るはずもない。
始まった、その事だけが重要なのだ、と。
北へ東へ西へ南へ、あらゆる方面へ西涼騎馬が走った。
明日の朱空を切り開かんと、今日のすべてを置き去りに。
時差はあるだろう。
でも、今、立ち上がったことが伝播する。
でも、今、愛が生まれたことが伝わった。
いま、そう、今こそ立ち上がるときだと。
「鐘」が鳴る。手に持てるほどの「鐘」が鳴る。
「鐘」が鳴る。支え切れぬほどの「鐘」が鳴る。
「鐘」が鳴る。天を切り裂くほどの「鐘」が鳴る。
目の前で、鐘が鳴った。
何度も何度も注意されていた「払暁夜襲」。
まったく聞いていたものとは違っていたが、これこそが「鐘」なんだろう。
官民構わぬ人気の「三頭龍姉妹」が三女、桃竜こそが「天河の歌姫姉妹」筆頭だったとは!!
驚きよりも、その歌を直接聞ける喜びを感じるのはダメかもしれない。
「「「「「鐘をならせ!!」」」」」
舞台の声に会わせるように、周辺部隊でも鐘が掻き鳴らされる。
今日の夜明け前が、すでにそこにある。
旅立ちの大地はそこにある。
取り戻すべき、今日がそこに!!
「そうだ、立ち上がれ!!」
「そうだ、信じるんだ!!」
声が挙がり、腰があがり、武器を構える。
向かう先は、赤壁に有らず!!
歌う恋姫無双物語
第二十七話「みんなの覚悟がうまれちゃって・・・」
「GONG」を歌っている最中、冥琳から囁かれた。
どうやら、劉玄徳と桃竜の存在が混乱を生んでいるという。
士気は高いけど、その混乱を収めて欲しいと言うことがあったので、次の曲を決めた。
舞台の上で歌いながらみんなの周りを巡って次の曲を伝えると、視線で了解をもらえた。
~「弾丸ソウル」FIRE BOMBER
うねるような演奏。
叩きつけるような楽器。
激しい心の内が表現されている。
でも、歌い出しは、こう変える。
「お前達のために、帰ってきた・・・・・・」
そう、その場所こそが・・・・
「はるか、孫呉!!!」
筆頭の欠けた歌姫姉妹、かの筆頭に匹敵するほどの歌唱力の三頭龍姉妹。
歌合戦自体は大きな問題ではなかったが、歌の「孫呉」を自称していた兵達には大きな問題であった。
が、その姉妹達が合流して歌われた「鐘」は、その瞬間であることが知らされた事を兵達に知らせた。
そう、「鐘」を鳴らしたのだ。
この朱空前の、この時間に。
官職を持たぬ「楽士」が。
この意味に気づかぬモノなど、この孫呉にはいない。
そして、続いた曲の意味を知る。
~お前たちの為に帰ってきた、この孫呉に。
瞬間、我らの心は一つになった。
いや、今まででも一つであったが、大きな力の波の一つになったといえる。
「眼前の部隊をみよ! 武器は我らに向いていない!!」
「すすめ、すすめ! 意志を持つ者たちよ進め!! 我らが孫呉の至宝を奪わんとする老婆達にその罪を数えさせろ!!」
「呉王の名に於いて、未来をともにする者たちよ、進め。天子様を老婆達から救うのは我らなり!!」
高速の小舟が走る。
大量の兵を乗せた戦艦が走る。
目指すは対岸。
未だ出航すらしていない船は無視。
横撃など気にしない。
今こそは、攻め、そして守るとき、と。
「老婆達の偽勅踊らされし者たちよ
道をあけよ! 我らは救国の使者なり!!」「道があかぬならともに走れ! その先にいらっしゃる天子様を御救いするのだ!!」
孫呉の兵とともに、都の兵達も走り始めた。
武器の向く先を差し替えて。
「曹軍、前へ! 孫呉の花道を固める!!」「公孫家、併走しろ!! 後方に合流する流れだ!!」
「西涼騎兵走れ! 今を広めるのよ!!」
歌から逃げるように、声から逃げるように敗走する禁軍。
その中心で呻くような叫ぶような怒声を発する老婆達。
屈強なる都兵。
無敗たる禁軍。
すべてが紙のように縮れてゆく。
「なぜじゃ、なにがおこっておるのじゃ!!!」
「わからぬ、全くわからぬ!!」
「くそ、庶人ごときがなまいきな!!」
「この戦に関わった無礼者すべてを打ち首にせねばなるまい!!」
「「「「「然り然り!!」」」」」
逃げたはずの歌が、なぜか正面から聞こえてきた。
それは禁止曲「ガンダーラ」。
禁軍に向けて歌う曲ではなかった。
しかし、正面から聞こえるそれは、荘厳にして重厚なモノだった。
知れず聞き入ったため、行軍が遅くなる。 無視をするには美しすぎる旋律だった。
「伝令! 正面、『劉』の牙門旗!!」
「「「「「おおお!」」」」」
老婆達は喜んだ。
都の天子自らの出陣だ、と。
「これで我らの負けはない」
「くかかかか、あの無礼な小娘どもを殺し尽くすぞ」
「おいおい、あの男は味見せんとな」
「「「「「然り然り!!」」」」」
げらげらと笑う老婆の一人の眉間に、なぜか矢が現れた。
「「「「「なっ!!」」」」」
みれば雨かのごとくに矢が降り注ぐ。
「な、なぜじゃ、なぜわれらを!!」
「我らなくして都が動かぬ事もわからぬのか!?」
「天子よ、我らを裏切るか!?」
「黄漢升、弓矢やめ」
「は」
指示に答える美女は、自らの弓もしまい、剣を出す。
「魏文長、先頭を任せる。天意に逆らう老婆達を刈り取れ。罪状は偽勅の乱造なり」
「承知しました!!」
武器を背負い、戦地へ走る。
「厳顔!」
「ここに、お嬢」
少女は視線だけ向け、頷く。
「われら劉の家名を弄んだ者たちへ、その意味を示せ」
「ははっ」
すでに臨戦態勢の兵達へ少女は叫ぶ。
「叛意なき兵達は殺すな。死にあたがう者たちだけを刈り取れ。兵前進!!」
頂点を越えた戦意が巻き起こる。
背後で演奏される歌は「異邦人」。
郷愁を誘われつつ、自分達の国元にいる家族を一族を思い出させる。
「いまこそ故郷を、大陸を、天子の真意を守るぞ!! 突撃!!!」
騎馬が走る、兵が走る。
武器を手にし、希望を胸に、勇気を力に変えて。
思いは遙かなその故郷。
得るべきは僅かな平穏なり。
鐘が鳴る。
視界の範囲全部から。
鐘が鳴り響く。
まるで風に巻き込まれたかのように。
鐘が鳴る。
耳に、耳の奥に絡みつくように。
「ちくしょう、なんでこんなに鐘が鳴ってやがるんだ!!」
「くそぉ、おれたちは天子様の軍じゃなかったのかよ!!」
「だれか、隊長はどこだ?」
「いち早く逃げやがったよ!!」
丘から、川から、背後から。
騎馬が兵が、牙門旗を携えて走る。
「「「「「うわぁぁぁ!!!」」」」」
背後から黒い波のように襲いかかられ、絶命を意識したが、したが、なぜか意識があった。
座り込んだ者たちを通り過ぎる黒い波、いや赤い波や白い波もあった。
囂々と流れる人の流れに呆然としつつ、兵達は気づく。
武器を構えていないモノや、ただ逃げていた者たちを襲っていなかった事実に。
襲われていなかった真実に。
「・・・なんでだ?」
その問いに答えるように、背後から歌が聞こえた。
~「カナシミレンサ」MARIA
我知らず、兵達は泣いていた。
武器を手から落とし、膝をついた。
もう、前が見えなかった。
泣き伏せたかった。
でも、前を向かなければならなかった。
そう、連鎖のような、呪いのような悪夢に立ち向かうため。
ぐっと力を込めて立ち上がる。
周囲を見回し確認する。
一歩踏み出したのは誰だったのか?
誰か、だったなどは関係ない。
いま踏み出した一歩にすべてがあるのだから。
幾度も幾度も繰り返されるその曲を聴いているうちに、誰もが走った。
武器は手にしていない。
希望なんかない。
しかし、無限に力がわいてくる。
走るための力がわいてくる。
進め進め、と狂ったように。
進め進めと、沸き上がる想い。
進め進めと狂おしく燃え盛る、思い。
振りあげた拳が。
叫びあげたその声が。
闇を打ち払う力となると信じて。
じつは、途中で戦隊もののOPを使いたかったんですが、タイトルそのままの曲だったので断念しました。
くぅTT
(3,248文字)