第二十一話 突き止められちゃって・・・
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原作やSSでもあまり見ません「袁」「蝶」コンビ。
どこまでいくのやらw
第二十一話 突き止められちゃって・・・
袁本初殿がまずしたことは、噂を集めることだった。
いや、どこにいるとか、どの方面にいる、ではなく、歌の巧い楽士がどこにいるか、というモノだった。
単純に考えれば、どのような目的かすら解らない。
しかし、何らかの目的があろうと思い、聞いてみると、実に論理的だった。
「巧い楽士さんは、それなりに教養があるはずです。歌の意味、内容を把握して、その上で自分で理解しているそんな人です」
「ほう、それで?」
「こと芸能は下手に教わると下手になるものです。ならば巧い人間の旅してきた道のりをさかのぼれば・・・」
実に分かりやすく、直感的で、それでいて論理的に納得のいくモノだった。
そんな旅をする中で、彼女は一筋の道のりを見つけた。
彼女の感覚で「すばらしい詩文である」歌を歌うモノが、必ず通る道程があったのだ。
そして本初殿は確信する。
「西涼、ですわ」
「・・・うむ、おもしろそうな話ですな」
おもわず二人で笑ってしまった。
子龍さんとたどり着いた町、そこの酒場にいるという「偽」姉妹の歌が絶品で、それを皆がまねている、という情報が最新でした。
今、大陸全土に広がった偽姉妹。
楽士達のせめての抵抗とばかりに歌われる「友よ」。
血を吐くような思いを込められた歌も素敵でしたが、それよりも気になるのが、この町の偽姉妹。
この偽姉妹、全く「友よ」を歌わないと言う。
加えて「あの鐘を鳴らすのはあなた」すら歌わないと言う。
この二曲を歌わない偽姉妹など、大陸全土を探しても見つかりはしないでしょう。
この町以外では。
「ふむ、つまり、本命にもっとも近い、と?」
「ええ、私の勘がそう答えを出していますわ」
私と子龍さんは、風変わりな酒場の扉をくぐりました。
そこは、みたこともない間取りでした。
舞台小屋のようでありつつも、舞台は床とほぼ同じ高さ。
そして広さも人が5人ほど立てば一杯程度。
しかし、そこは舞台。
間違う事なき、歌の舞台です。
舞台を取り囲む席には、多くの人々が座っていました。
「お客様、初めてで?」
「ええ、噂を聞いてやってきました」
では、と、なぜか一番舞台に近い席を勧められました。
「なぜ?」
「ここのシキタリです。初見の方にこそ、舞台袖でみてほしいという」
店員の言葉に、ほかの客たちが頷いて見せた。
なるほど、と私たちは感心して席に着きました。
飲み物とツマミを頼み、しばらくした頃にそれが始まりました。
白き外套に身を包んだまま、すらりと出したのは奇妙な楽器。
月琴のようで月琴ではない何か。
片手で持った何かで、楽器をつま弾く。
歌もなく、しばらく伴奏を続けたその人が、声を響かせる。
「偽姉妹のウキントウです」
酒場の背後曲としてすばらしい旋律の中、楽士が名乗ったところで本初殿が硬直した。
「・・・本初殿?」
私の問いかけに目だけで私に沈黙を指示する。
およそ想定できる以上の何かが起きたのだろう。
ここは酒とツマミと歌に没頭・・・
~「CrimsonCalling」Rita
歌詞は、そう、楽士があこがれた何かに出会い、そして神のものともいえる曲をかなでんとする、そんな歌だった。
しかし、私にはそれが我が事のように響いた。
これは、私が、かの主に出会うべくして出会う、その歌だったのだ。
ああ、なんて幸運だろう。
まるでこれは運命のようではないか。
この歌を奏でる楽士に、聞かねばならない。
この歌は誰が作ったのか、と。
これを作ったのが彼者ならば、私が仕える者は、劉備玄徳ではなく、この楽士に違いないとすら思ってしまった。
後に続いた曲がどんな曲だったかなんて覚えてはいない。
気づけば酒場の外で呆然と立っていたところだったから。
「ほ、本初殿」
「やっと正気に戻りましたのね?」
「・・・まことに申し訳ない」
「いいえ、あなたの衝撃はもっともですわ。私も思索に耽らなければ、同じようになっていたでしょう」
少し青白い本初殿は、かの楽士との面会を約束していた。
「・・・本初殿。場合によっては、このたびはここで仕舞ですな」
「ふふふ、子龍さんも理解なさっていますのね」
ほぉ、と思わず声が漏れた。
まさか、本初殿が偽姉妹で満足するとは。
いや、あれが偽というのなら、本物は、と疑問に思うほどであった。
そういう意味では本初殿にとっての本物であったのかもしれない。
そんなやくたいもないことを考えていると、どうやら楽屋に通されたようだった。
そこには未だ外套をかぶったまま楽器を調整する「ウキントウ」殿。
「あ、どもども、はじめましてウキントウです」
「初めまして、ウキン殿。いえ、劉玄徳殿ですね」
思わず私は驚いてしまった。
いや、ウキン殿も固まっている。
劉玄徳といえば、天河の歌姫姉妹筆頭にして都の官軍が最優先で捜索している人物その人ではないか!
そして、そのかたこそ、私の主たるべき人!!
「あ、あはははは、またー、偽物なのにそういう扱いはいやですよ~」
「偽物ならば、もう少し違う名を名乗るべきですわ。卯、金、刀、すべて劉姓を分解したもの」
なるほど、それで本初殿は驚いてなさったか。
これが教養の違いと言うものかもしれないな。
「あ、あはははは・・・・、まじでばれちゃった」
苦笑いで外套をとると、そこには輝くような容貌の方、劉玄徳殿がいらした。
「で、何のご用ですか、袁本初殿」
「あら、私をご存じで?」
「はい。以前、領内の町で歌っていたときに、大層誉めていただき、お捻りをいただきました」
「・・・へ? ほんとうですの!?」
「はい」
思わず真っ白になった本初殿はさておき、私は懐の書状を渡した。
「お初にお目にかかる。私は趙子龍ともうします」
「ああ、常山の登り龍さんですね」
「ほほぉ、わが二つ名をよくご存じで」
「あははは」
朗らかな笑顔に心暖かくなったが、書状の方が先だ。
「先日孫呉に立ち寄った際、もし出会うことがあればと渡されたものでございます」
一緒に仕官嘆願も渡したところ、何も考えず仕官嘆願から読んでいただいた。
んー、と宙をにらんだ後、劉玄徳殿はにっこりほほえんで了解してくださった。
なんたる幸せ、と思わず膝をついたが、もう一つの書状を見たところで表情の硬さが加わった。
「・・・これは、まずいかも、だねぇ・・・」
復帰した本初殿にはごまかしたが、何が意味深な事が書いてあったらしい。
ふむ、もっとも新しい家臣としては、それなりに働きを見せられることを祈りますぞ。
本初さん、いや麗羽さんは、どうやら私の曲に感動して、仕事も領地も放り投げて会いに来たそうだ。
というか、放り投げちゃだめでしょ。
「いいえ、白蓮さんに預けましたのよ?安心でしょ」
「あー」
思わず同意した私なんだけど、子龍さん、いいえ、星ちゃんは首を傾げる。
「伯珪殿にそのような才覚がございましたかな?」
その台詞を聞いて、私と麗羽さんは苦笑い。
基本、白蓮ちゃんは堅実な手しか打てない。
だから領地の規模や制作の規模が小さいと全く巧く行っていないようにしか見えない。
が、その規模が袁家全体にまで拡大したらどうなるか?
「白蓮さんの才覚なら、爆発的に増えませんけど絶対に減りませんわ」
「そうだねぇ、白蓮ちゃんなら、こう、自分の常識の範囲で切り盛りして、なぜかうまくいってるんだろうねぇ」
そう、白蓮ちゃんはそういう希有の才能を持っているのだ。
だから都や役所でも大人気で、かなりの頻度で呼ばれているんだよねー。
「ほぉ、それとは気づきませんでしたな」
さも残念そうに、それでもおもしろそうに笑う星ちゃん。
「して主。何がありましたかな?」
あはははは、ごまかせませーん。
いろいろと皆さんに推薦していただいている曲をちゃんと使えなくてごめんなさい。
いろいろと脱線していますが、主人公を出さないことには曲も出せない流れなので勘弁してください。
さー、話もそろそろ佳境になってきました。
もうちょっとつづくんじゃよ、とはならない予定ですのでお楽しみに
20120507 いろいろ修正
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