「金曜日、金曜日……若松君は必ず来てくれる……金曜日、金曜日……」
| タイトル | ||
| タイム・リープ あしたはきのう [上] | ||
| 作者 | 出版社 | |
| 高畑京一郎 | 電撃文庫 | |
| 絵師 | 発行 | |
| 衣谷 遊 | 1/25.1997 | |
| アラスジ | ||
| 気がついた時、私は男の人とキスしていた。 そもそもの問題点は、『私がなぜこの状況にいるのかを私が理解できていない』ということだ。別に前後不覚な状態にあったとは思えないし、男の人にホイホイついていくなんて普通の私の精神状態であれば考えられない。それよりもまず、言葉通りの意味で、『キス以前の記憶が無い』ことが最大の問題なのだ。 そしてその相手もある意味では問題だった。彼の名は若松和彦。秀才で名を馳せ、目立ちはしないが一角の存在感を放つクラスのご意見番みたいな存在である。人と積極的に話をする方ではなく(実際人と好んで話しているところをクラスメイトでみたことがない)、相手が女性であればなおのこと話さない。話しかけても彼の放つ圧力に負けて、会話は自然と切れてしまう。一言で言うと『女嫌い』。もちろん私だってロクに話した事もない。ましてやこんなシチュエーションになるような布石は何一つないはずなのだ。 なぜ、見知らぬ場所(そこは彼の部屋だった)で、私は彼とキスしているのだろう? 困惑と羞恥とふつふつと湧きあがる怒りで、私は彼に詰め寄った。これは一体どういうことなのか、と。 しかし、彼は一言こう言ったのだ。悪意からではなく、親しいものに向ける純粋なイタズラみたいに。 本当に楽しそうに笑いながら。 「それは駄目だよ、鹿島。君には、今はまだ、教えられない」 そこから私は『次の一週間』に移ることになる。『時間』を『飛び越える』、奇妙な一週間に。 |
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| 解説 | ||
| 温故知新、ってすげー大事だなとすごく感じます。故きを温め新しきを知る。 この記事を書いているのは2007年4月だったりするので、この小説自体はもう10年前に刊行されたものになります。電撃文庫のなかでも結構初期の作品だったりするこの『タイム・リープ』。もう新刊ではどこにもないでしょうし、古本屋でも探すのはちょっと骨が折れるかもしれません。結構売れてる作品だと思うので、『まったくない』ってことはないと思いますが。まぁそれはおいといて、上巻だけはもっていたんですが、この度下巻がようやく見つかったので読んでみました。 やっぱ面白いわ。 まず最初にそう思いました。先に何が待っているかわからない純粋なドキドキ感。発想は奇抜なんだけど、進め方は至ってシンプルかつ丁寧。SFではよくあるタイムトラベルものに自分の発想で色分けして、そのうえでボーイ・ミーツ・ガール的な要素も盛り込んでいます。展開もコンパクトに纏めてくれてて、でも息を呑むような緊張感のあるシーンとかもあって飽きさせません。本当に時を忘れて下感まで一気に読んでしまいました。いつの間にか読み終わってた。読んでるこっちがタイムリープですよほんと。あ、先にしか進んでないからトラベルか。読み始めから4〜5時間後にタイムスリップです。そんくらい面白い。 最初は謎だらけなんだけど、読んでいく内に謎が解きほぐされていって、物語の核心の部分に段々と近づいていく。上巻では「一体何が起こっているのか」という現状把握と、タイム・リープ現象を解明してくれる若松君とのふれあいに終始しています。若松君の疑り深い性格はとても素敵だ(笑)。というか、若松君の簡単にファンタジーを信じない性格のおかげでこの作品のリアリティが生まれているのだと思います。「そういうものなんだ」で終わってしまわないところが高畑さんの作品の特徴ですね。 巻末のラストまでに、タイム・リープ現象の特徴は説明されます。でも、肝心の「なぜタイムリープが起こったのか」という部分に関しては下巻でのお話。物理現象として、ではなく、「鹿島翔香がタイムリープ現象を引き起こさなければならなかった理由」の説明があるのです。上巻の設定をよーく覚えておいてください。色んな伏線が上手く使われているので、できるなら一気に読んだほうがいいです。 良いものはやっぱ10年20年経ってもいいなぁ、と思わせてくれます。良作です。 |
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