「それじゃ、なにか?俺は、これからもずっと君のそばについてなきゃいけないのか?」

タイトル
タイム・リープ [下]
作者 出版社
高畑京一郎 電撃文庫
絵師 発行
衣谷 遊 1/25.1997
アラスジ
タイム・リープ現象。その特殊な現象にも原因はある。

「意識と体が、一致した時間の流れに無い―それが君が体感している現象の正体だ。体は確かに正常な時間軸上にある。だが、君の意識・精神とよぶべきものはこの1週間のどこかをさまよっている。その原因は何か?それは君に、命の危険があるからだよ。君の精神は危機から逃避するために、誰かに自分の危険を知らせるためにある特殊な方法を採った。それがこの『タイム・リープ』現象さ」

『危険な原因』とは何なのか?鹿島翔香は何故、命を狙われているのか?
未来の自分が送ってくるいくつかのメッセージ。最後にならないと完成しないパズルゲーム。
ただの凡人である翔香だけではたどり着けない、一番良い結末。
だが、彼女の隣には今や学園一の秀才、若島和彦がいる。彼女を救うのは、紛れも無く彼。

融通が利かなくて自分中心で言い方が冷たくて協調性がないけれど。
彼女を救ってくれるのは彼しかいない。……ちょっと、慣れてくると可愛いとこあるし。
解説
前巻『タイム・リープ』の次巻、そして完結となります。

いやほんとに、温故知新ってのはこのことだと。昨今の小説はひたすら凝ることが多くなって設定が複雑になっていますが、この作品を読むと「やっぱり物語はシンプル・イズ・ベストだなぁ」と感じることしきりです。しっかりしたテーマのもと物語が進んでいる。短編だからできることでもあるんですが、短編だからこそ短編のいいところを活かしている良い作品だと思います。やっぱり高畑先生は安心して読めるなあ。

で、今巻は前巻の物語の後半。いよいよタイム・リープ現象の原因に入ってきます。
前巻でひたすら説明を繰り返してただけあって、今巻はいきなりのトップスピードで入っていきます。そして十分な準備のあと、決戦を迎えるのです。ファンタジー的ではないけれど、すごく現実的な話。人が死ぬような話ではないけれど、ある意味それ以上に悲劇的な原因で、主人公の鹿島翔香はタイム・リープ現象に目覚めてしまった。でもよかったよ……ほんと、ほんとに良かった。ナイスな働きを見せました若松和彦。前巻の無機質なキャラから一転、今巻では縦横無尽、八面六臂の活躍を見せるナイスガイ。自分の言葉の嘘を許さない男若松。「前向きに善処します」は不意打ちで笑ってしまった。

作品の最後もすごいハッピーエンドで笑ってしまうんだ。
<おまけ>を見た瞬間は「……ん?何だこれ?」と思ったんですが、思い返してみればすぐに繋がりました。『タイム・リープ』上巻のプロローグがここに繋がってくるとは……!そういう風に繋げてみれば、すいぶんと翔香さんに振り回されてるな若松。せがまれたのにこの仕打ち。若松の気持ち推して知るべしですね(笑)。いやいやでも <あとがきがわりに> もすごく美味しい話でした。奥さん話な若松はかなり面白かったです。ナイスな尻の敷かれっぷりです。この<あとがきがわりに> は別作品『クリス・クロス』の世界ともクロスしているようで、なかなかに興味深い話です。が、なにぶんどこまで本気で書いているのかわからない資料。
あとがきで遊ぶっていう発想を最初に持ってきたのは実はこの人ではなかろーか。
……この後に出てくる作家さんとかがその芸を発展させてきたのはいうまでもありません。

ここまで言っといてなんですが、作品自体の良さをここでどうこう語ったところで伝わりづらなぁと思います。それはどの作品にも言えることなのですが、特にこの『タイム・リープ』上下巻は是非買っていただきたい。この解説読んでる方はほとんど読了の方ばかりだと思うので効果は薄いですねこの主張(笑)。でもいいや。言っときたいから。別に高畑ファンとしての布教というわけではないですが、これは本当にお値段以上の作品です。古典として勉強になる部分いっぱいある。今では刷ってないのかな……刷っているのだとしたら、新刊でも買う価値ありますよ。すごく洗練されているのが読んでてわかります。

今の電撃文庫の流れの原型を作った一人がこの高畑さんです。みんなよく読んどこう。


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