第十七話 誤解されちゃって・・・
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第十七話 誤解されちゃって・・・
馬一族の領内に、久しく帰還してみると、様々な旅芸人が集まっていた。
何でも、馬騰様、琥珀さんが芸人保護的な政策を打ち出したそうな。
それって、なんで?
翠ちゃんってば、頭を抱えていた。
何か思い当たるのかな?
「たぶん、母上は桃香様の滞在自体を迷彩したいんだと思います」
「ああ、木を隠すなら森の中ってわけね?」
「はい」
うんうん、連日の勉強の成果が出ていてお姉さんはうれしいなぁ。
「じゃ、鳴り物入りで帰るってのは・・・」
「さすがに勘弁してください」
ですよねーw
地味に視察帰りという感じで入場してみると、なぜか月ちゃんと詠ちゃんがいた。
「久しぶりね、桃香」
「桃香さん、お久しぶりです」
聞けば、旅芸人捕縛の命令を都から受けたので、自由自在に動き回れるとか。
そんなわけで、この城まできたそうな。
「ちゃんと遊牧民の気持ちは掴んできた?」
「なにいってるの、詠様。桃香様が楽器片手で行ったんでしょ? 掴まないわけ無いじゃないですか。わっしと直握りですよ」
シャオちゃん、よけいなこと言わない。
「そうそう、だったら巧く行くかしらね?」
そう微笑みながら、詠ちゃんってば怖いことを言い出した。
なんと西涼の独立、というものだった。
盟主は琥珀様、連合国方式で運営とか、細かいとこまで計画してやんの。
「あのさぁ、詠ちゃん。それ、たぶん失敗する」
「なんでよ!!!」
「だって、西涼の南東が余りにも都に近すぎて、絶対に討伐令がでるし、そうなったら大陸の敵だよ?」
「でも、この計画は完璧!!」
「・・・じゃなくて、計画に入っていない要素が多すぎて失敗するって言ってるの」
この計画には庶人の事が入っていないんだもの。
あの人達だって物言わない存在じゃないんだし。
私のその言葉に、真っ青になる詠ちゃん。
そう、風評とか気にするくせに、風評の元になる庶人を軽視しすぎなんだよね、この世界の人たちって。
「・・・わかったわ、計画を修正する」
「じゃなくて、なんで対立で進めるかな」
「桃香、あなただって都の腐敗は分かっているはずよ!」
「そう、腐敗。腐ってる。でもそれを切り捨てても、権力や特権に対して、精神的な骨格がしっかりしていない人しかいなければ、同じ事の繰り返しだと思わない?」
「でも!!!」
だから、考え方を変えてみましょう。
そう、精神的骨格がグズグズな老婆達。
彼女たちは宮廷以外の場所には興味が無く、出ていくことすらしない。
だったら、宮廷から見える風景と情報だけで満足してもらいましょう。
「と、とうか?」
饅頭がおいしいという情報を、竹簡でしか知らないんだから、実際に作る必要なんか無い。
竹簡でおいしかったという情報だけ教えればいい。
誰々が悪いことをしている、討伐せよ、討伐されました。
この動きの中で、彼らが分かるのは竹簡の情報だけ。
だったら、竹簡だけで生きてもらえばいい。
お金が儲かりました、何々銭です。
あなたは何々銭持ってます。
先日の賄賂工作で何々銭減りました。
誰々から何々銭もらました。
そんな竹簡の情報だけで生きてもらえばいいだけなのだ。
ははは、自分達から能動的ニートになったのだから、それを洗練させてしまってもいいはずだ、うん!
・・・・
・・・・・・・え? なんでみなさん青白い顔なんですか?
「桃香、あんた、すごいこと考えるわね」
「・・・確かに、あいつ等には竹簡の話だけで生きてもらえりゃ、わざわざ独立の必要性はないかな?」
「あー、桃香様、あとで詳しい説明よろしく」
そんなわけで、西涼連合王国の樹立は延期になりましたが、さすが曹操の筆頭軍師補佐だっていうことで、私の腹黒評価が高まってしまいました。
あれぇ・・・?
詳しい説明を聞いて、あたしは背筋が寒くなった。
見える風景が王宮の中だけで、そして得られる情報が竹簡だけだったなら、その情報の精査なんてできない。
だって、竹簡しかみることができないのだから。
そして、その書簡に書かれている情報が嘘ばかりで、そして命令も実行されなかったら、それは単に妄言を吐く人たちとしてしか扱われなくなるんだ。
それを実行すればいいという桃香様も怖かったけど、それを自分がされたらと思った瞬間に目の前が真っ暗になった。
「そんなわけで、翠ちゃん。情報は自分で考えないとだめですよ?」
「・・・ああ、身にしみた」
本気で文官になるんだったら、自分の目で確かめろ、これが私の指針になった瞬間だった。
桃香の話を聞いて、私はどれだけ危ない橋を渡ろうとしていたかに気づいた。
いや、それを気づかせるために、桃香は老婆達の締め出しの話をしたのだ。
そう、私の手元に集まっている話だって、色よいものばかりではないはずなのに、視界が奪われていたとしか言いようがない。
軍師って人間は、上手の相手の上を、自分の策でいけたと感じるだけで快感を覚えてしまうある種の変態だ。
打った手数と返ってきた反応で有頂天になりすぎていた。
そう、反応の精査が出来ていなかったのだ。
良好な反応の中でどれだけの裏切り者がいるのか、どれだけの離反者が出るのか、全く考慮していなかった。
本当に寝ぼけていたとしか言いようがない。
色々と調べてみれば、よい反応の半数は離反計画も同時に立てていたし、残りも正直良いとはいいがたい反応だったことが分かった。
・・・心底桃香に感謝だわ。
月のためにって思ったけど、最大の罠に自分ではまるところだったわ。
こうなったら、呼びかけたという事自体を偽装として、足下に火をつけちゃおうかしら・・・。
危ない危ない、こういう反応がまずいんだったわね。
気をつけよう。
帰郷記念と月ちゃん達の歓迎用に宴が開かれたんだけど、やっぱり歌は歌うことになった。
月ちゃん用に「笑顔」を歌った後、リクエストがあったので「ガンダーラ」を歌ったら、全員で合唱になってしまった。
それでもみんな飽きないらしくて、笑顔で歌ってる。
うんうん、歌声喫茶かフォークゲリラかってかんじだね・・・。
あ、そういうのもありかな?
~「友よ」岡林信康
思いの外、受けが悪いのかな?
歌いきってみたら、もの凄い静寂になってしまった。
あれー、ということで周囲をみてみると・・・
「桃香さま・・・・」翠ちゃん号泣。
「と、桃香・・・」詠ちゃんも号泣。
「・・・・」月ちゃん滂沱。
ってなかんじで、猛烈な感動を呼んでしまった模様。
うーん、反戦曲、威力でかい。うん。
「・・・そうか、桃香。夜明けは近いか」
「・・・えーっと、一応、歌詞ですよ?」
「ガンダーラと併せて聞けば、どんな企みなのかしれるな」
「いえいえ、琥珀様。企みなんか・・・ねぇ?」
「「「「「またまたぁ」」」」」
ちょっ!
私は陰謀や策動には縁が遠いのですよ!!
「「「「「またまたぁ」」」」」
えーーーーー!?
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