第十四話 逃げちゃって・・・
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第十四話 逃げちゃって・・・
とりあえず、私とシャオちゃんは華琳さんの私兵扱いだったことを利用して、一時的に軍役解除してもらって、流浪になることにしました。
まぁ都からすれば、華琳さんの管理能力不足ということになるかもしれませんが、都のばばあの慰みものになるぐらいなら・・・と許可してくれました。
もちろん、劉の関係者はやばそうなので、西方面に逃げることにした。
頼るのは賈駆殿こと詠ちゃんと董卓こと月ちゃん。
お里に帰る行列に加えてもらって旅芸人としてお供しているわけです。
「あ~、次なに歌います?」
じゃかじゃん、と、休憩時間の都度、せがまれる歌といえば・・・、異邦人だったりする。
これがまた、本格的に人気。
曲調や節回しが彼らの琴線に触れた様です。
、「おいらは淋しいスペースマン」も恐ろしいほど大人気。
まぁ、練度が上がるからいいけど。
とはいえ別の歌も歌いたいなーということで、新曲を入れてみた。
~「ビッグバン」 FIRE BOMBER
カタカナな曲名でありながら、思いの外、作詞が物語りしている。
だから、ほとんど手を入れる必要がない。
というわけで、シャオちゃんとちょっと練習するだけで歌えるようになったんだけど、これが、かなり引き込まれたらしい。
明るい未来とか愛とかを歌った訳じゃなくて、いろいろな応援歌な訳なんだけど、詠ちゃんは恐ろしいまでにヒットしていた。
月ちゃんは「笑顔」にヒットしたらしい。
最近、好き勝手に歌っていなかったから、結構ストレスがたまっていたんだけど、この蒼天の下、思い切り歌えるのは快感だった。
「桃香様、楽しいですね!」
「うん、たのしいね、シャオちゃん」
ぱーんとハイタッチの後、私たちの休憩は終わり。
ふたたび馬上の人となったのであった。
目指すのは黄砂の向こうの武領な世界。
さぁ、がんがん歌っちゃうよ!!
桃香が帰郷についてきてくれたのは計算外だったけど、それ以上の恐ろしい話は、桃香が男だったことだ。
立ち歩き自由、思考明瞭、文武に通じて優れ足る才覚のある男。
正直、このまま都に献上すれば、どんな栄誉だって思いのまま。
・・・ま、そんなもったいない真似しないけど。
なにしろ、あの政務能力!!
あの政務能力!!
絶対手放さないわよ!!
・・・あー、一応、一時逃亡の受け口ということで仕事は手伝ってもらえる事になってるけど、まぁ、ほら、ね?
正直、あの「手」、桂花と一緒に進めていたあの政務、のどから手がでてはなさないほどほしい!!
都の方も、桃香の正体に薄々気がついているらしく、禁軍の出動準備すら視野に入っているとか。
どんだけの価値があると思われているやら。
ともあれ、うちに落ち延びたことはすぐに知られてしまうだろう。
だから、一刻も早く、一刻も早く城に戻って、あの倉をも埋める書類を整理させなくちゃ!
わずかな時間だけでも、かなり処理できるはずよ!!
あ? 歌?
いいわよいいわよ、政務しながらどんどん歌いなさい。
~「宇宙恋愛」中原めいこ
もちろん、歌詞は宇宙ではなくて天河。
もしくは黄河。
英語部分はテキトー。
恋愛ものの歌詞って色々とあるけど、即物的じゃなくて遠回しにすればするほどいい感じになるので、仏教の一節とかを組み込んだりしているわけ。
あれもほら、わりといい感じだし。
サンスクリットな発音は難しいけどね。
そんなわけで、シャオちゃんと練習していた荒野。
なぜか砂塵が西の遙か彼方から立ち上がっていた。
いやな感じでもないけど、何かあってはいやなので詠ちゃんのところまでゆくと、彼女も気づいていたらしく偵察に一部隊出していた。
「どんなかんじ?」
「さすがに敵対勢力じゃないわよ」
とはいえ、この時代。
ちょっと前に反乱が起きて、友好勢力がそのまま敵に、なんてこともままあるので、心底安心できないのが泣ける。
「賈駆様、狼煙あがりました」
「何色?」
「白、単色です」
「・・・そう」
じつはこの狼煙、私があげたお裾分け。
ちょっと燃やすと、えらい勢いで煙がでる木屑の玉で、赤、黒、白の煙がでる。
で、それを伝令代わりに使うと、敵からも味方からも見えるけど、ちょっとした情報伝達に使えると説明すると、詠ちゃんは非常に喜んだ。
偵察の片道だけで、断片的な情報が得られるんだから、確かに有用。
激しいものじゃないけど、確実にチートだね。
この煙玉、華琳さんはあまり使いたがらない。
何故かっていうと、欺瞞情報も簡単に流せるから。
もっと権力基盤がしっかりとして、大勢力となった後なら使えるけど、いま、この状況では使わない方がまし、というのが彼女の意見。
要するに、この技術が早い時間で広まり、逆手に取られることを視野に入れているという事だろう。
あの人は本当に天才だなぁ。
そうこうしているうちに、選考した部隊が、一部隊をつれてやってきた。
牙門旗には「馬」の一文字。
「馬・・・、馬騰?」
「・・・娘の方じゃないかしら?」
「娘?」
「馬超よ」
ああ、錦馬超。
「ほえ? なんですか、桃香様。その『錦馬超』って」
「馬術、武術に優れ足る、遊牧の民の英雄。その有名はまさに『錦』。ゆえに、その名は『錦馬超』って・・・」
「や、やめてくれーーーー!」
不意に現れたのは、ポニテ長身の美少女。
「なんで、あんたがそんなこと詳しいんだよ!!そんな呼び方、有名なわけ無いじゃないか!!へんだろ、そうだろぉ!?」
顔を真っ赤にして怒鳴ってるけど、明らかに恥ずかしがっているのがよくわかる。
隣のショートな女の子も、嬉しそうににやにやしてるところをみると、普段の関係がしれる。
純情な姉、小悪魔な妹。
「もう、お姉さま。誉められてるんだから、その無駄に大きい胸を張らないと」
「無駄って何だ無駄って!」
「だって、その胸がいくら大きくても、誰にもふれさせ無いんでしょ? だったら無駄巨乳もいいところだよ」
「ば、ば、ば、ばかいうな!! 女のからだってもんは、たとえ同性でも気軽に許すもんじゃないだろうが! 心も体も、これと決めたあるじにしかゆるしちゃだめだろ、それがじょうしきってもん・・・・」
と、だんだん怪しい口調になってきたところで、自分のいるところに気づいた模様。
「あ、あ、あ、あのぉ・・・・」
「いいわよ、馬超。一応、見なかったことにするから」
「・・・すまん、賈駆」
というわけで、しきり直し。
どこから聞いた話かわからないけど、月の帰郷一行に私たちが混ざっているのを知った馬超さんは、居ても立ってもいられず、全速力でやってきたらしい。
さすがに単騎駆けはまずいので、追々で部隊編成して馬岱ちゃんが追ってきたそうな。
「ほら、音に聞こえた天河の歌姫姉妹の筆頭がくるなんて、もう、こんな幸運なんて一生無いって叫んで、お姉さまってば・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
にやにや笑いのまま語る馬岱ちゃんの横で、真っ赤になったまま俯く馬超さん。
先ほどの自己紹介で、私が劉玄徳だと言った以降、ずうっとこんな感じ。
歌は直接聞いたことはないだろうから、噂だけでファンになってくれるって、どんだけ、とか思わなくもないけど、こんな風に反応されちゃうとがんばっちゃうのが私なのです。
そんなわけで!
歌姫セットな「異邦人」「上を向いて歩こう」「翼をください」を流して歌ったところ、馬超さん、目をきらきらさせて聞いてくれた。
やっぱりこの手方向性だ、というわけで、「おいらは淋しいスペースマン」に繋いだところでボロ泣き。
どうやら直撃したらしい。
いやー、声を上げて鳴き始めたときはどうしようかとお思ったけど、馬岱ちゃんも、彼女が連れてきた部隊も大泣きで、故郷的にヒットする歌だったらしい。
こちらが歌いきって、どうにか向こうも収まったところで、もう一曲いれた。
これは、愛紗をボーカルにして歌っていた曲だけど、これぞ「歌姫姉妹」って曲だから、どうしても彼女に聞いてほしかった。
だから、一人の曲だとちょっとパワーに欠けるけど、でも、歌いたかった。
~「闘艶結義~トウエンノチカイ」片桐烈火
それは、心に響く郷愁。
それは、魂をふるわせる叫び。
それは、羨望を思える誓いの歌。
私は、私たちは涙を流すことも止められず、呆然と聞き入っていた。
音に聞こえる天河の歌姫姉妹と言えば、神楽音曲に優れ、そして人々を慰撫する存在と聞いていた。
時々聞こえる武勇は、偽物か護衛の仕事だと素等思っていた。
だけど違っていた。
実際に出会った天河の歌姫姉妹筆頭は、噂を肯定できる武を備え、そしてその歌は優しいばかりのものじゃなかった。
自分たちを、自分の姉妹を、義姉妹のつながりを、世界を敵に回しても信じ戦い続け、そして命を捧げあう誓いの歌。
血の繋がりでも親族の繋がりでも何でもない、そう、信頼がつながる姉妹の絆。
なんて気高く美しい、心の底から羨ましい関係だった。
そんな羨望は蒲公英、馬岱からも溢れだしていた。
なんでもかんでも力半分な蒲公英から、全力で何かを成したいという力の漲りを感じる。
武術も政務も手を抜いて、力半分だった蒲公英だったけど、たぶん、今日、今から変わるだろう。
ああ、私のワガママでやってきたこの場所だったけど、何かが変わった。
みんなの心の何かが、蒲公英の心の何かが、そして私の心の何かが。
「どうでした、馬超さん」
「・・・翠って呼んでくれ、劉玄徳殿」
「では、私は桃香、と」
うひゃーーーー!!!
あの天河の歌姫姉妹筆頭に、真名を許された、ゆるされちゃった!!!!
これはもう、嫁になるしか、よめになるしかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
「お、お姉さま!!!!」
いい感じで壊れているのは仕様ですw
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