第十三話 たぶん、きっとバレちゃって・・・
友情よりも愛をとられた割には、翌日も同じ部屋で仕事をしているのはどうかと思う。
「はい」「ほい」「はい」「ほい」「はい」「ほい」「はい」「ほい」「はい」「ほい」「はい」「ほい」「はい」「ほい」「はい」「ほい」
こんな流れで仕事をしているのですが、なぜか見学に来た賈駆さんが驚きで目を丸くしている。
「「なにか?」」
「なにか、じゃないわよ! なんなのよ、その処理の速さは!!」
思わず桂花さんと視線を合わせますが、同時に肩をすくめてしまいました。
何かおかしいところでも、ありますかね?
「桃香が来てから、ずっとこの早さよね?」
思わず疑問の私たちでしたが、賈駆さんは、こんな流れは今までみたことがないとか。
「・・・あー、確かに桃香のおかげでちょっと早くなったかしら?」
「そうなんですか? 桂花さん、前から早かったじゃないですか」
「それでも、担当者が理解できなくて出戻りって言うのもあったのよ」
「あー、確かにありましたねぇ」
「桃香が調整してくれてるから、出戻りが一切ないの。これって高速化の主原因よ」
「ほえー」
「・・・状況分析もしてなかったの?」
「あー、だって、どれだけ早く処理しても、行き着く先は華琳さんだから」
「どうやっても華琳様の上限処理量以上には回せません」
まぁ、こんな会話をしながらも竹簡は処理してるんですがね。
「「さーって、今日はここまで」」
同時に桂花さんと一緒に延びをする。
「・・・まだ昼前よ? これで仕事終わり?」
まさかまさか。
書類仕事が終わったから、あとは桂花さんが華琳さんのところで調整して、私は官吏のほうの調整をする訳です。
「・・・うわぁ・・・うらやましいと心底思ったわ」
「・・・ごめんね、詠ちゃん」
「ぶんぶんぶん! 月が悪い訳じゃないわ! こんな別世界の仕事環境を見せる方が悪いのよ!!」
じつはこれの裏側で、風ちゃんと稟さんが今後の政治戦略やら経済戦略やらを華琳さんと話しているわけで。
本当に、人は城、人は石垣ですねぇ。
まぁ、華琳さんに無茶苦茶負担がかかってるんですけどね。
「じゃぁ、あの、この後の見学は・・・」
「さすがに私の方は無理だから、桃香の方をお願い」
「ほーい、じゃ、お昼がてらいきますか」
武官のみなさんと交代でお昼に出るがてら巡回なんかをするんだけど・・・
「桃香さま~、おうたうたって~」
「ほいきた!」
とかなんとか、こんな感じで辻歌唱なんかをするから、全然進まないと不評・・・に見えつつ、実は好評。
人の足が止まるし、商売にもプラスらしい。
そんなわけで、「異邦人」「翼をください」のセットに加えて、新作を滑り込ませた。
~「風と雲と虹と」加藤剛
わりと無骨な歌だったんだけど、大きな拍手を受けた。
ちょっとうれしくなったけど、城の方が騒がしくなってきたから、そろそろ引き時だろう。
さぼって歌ばかり歌ってるとか言われたらたまらない。
ほら、事実ってのは現行犯じゃないと・・・
「現行犯じゃないと、なに?」
「・・・あ、華琳」
見つかってしまいました。
まぁ、こんな毎日を送っていたんだけど、なぜか都から僕相手に挨拶にこいとか言う話が着てるらしい。
今のところ、十常侍あたりが発信もとらしいんだけど、そろそろ帝の名前で令が出されるだろうって。
「ばれたかな?」
「ばれましたね」
僕とシャオちゃんの言葉に小首を傾げる桂花さん。
華琳さんは少し苛立っている顔をしてる。
春蘭も秋蘭も、ちょっと困り顔。
他の武将はなにが悪いのか、という顔。
「ね、桃香。なにがばれたの?」
素で聞いてきたので、華琳さんをみると、渋々うなずいて見せた。
そんなわけで、僕は桂花さんをつれて私の部屋につれてきた。
怪訝そうな顔の桂花さんが、私のことを大嫌いになっても良いように、心の力をためて。
いきなり、バカな告白だった。
「じつは、私、劉玄徳は・・・男なんです」
は?
と、思わず聞き直してしまった。
男と言えば、バカで、アホで、臭くて汚くて、繁殖以外の機能を全く持たない、生き物と呼ぶにも汚らわしい、アレ?
私の問いに、苦笑で頷く桃香。
「あんたね! なにをからかて・・・・」
それ以上いえなかった。
そこにいるのは、私の親友、桃香だったから。
「桂花さん、あなたが男性が嫌いなのをしって、どうしても言い出せませんでした」
桃香は、みたこともない、真剣な顔だった。
「あなたが大嫌いな男の分際で、真名を許されてごめんなさい」
「あなたが大嫌いな男の分際で、あなたと共にあってごめんなさい」
「あなたの・・・・」
だまって!!!
私の手が、桃香の頬を凪ぐ。
いや、叩き伏せたつもりなのに、ぺちゃりとしか音がしなかった。
「・・・私を、わたしを、そんな安っぽい存在だと思わないで!!」
男? 関係ないわ!!
気持ちいしごとをさせてくれたのは誰?
官僚たちとの絆を作ってくれたのは誰?
飲み屋で正面に座るのは誰?
私の心を歌ってくれたのは誰?
「ぜんぶ、全部あなたじゃない!! 劉玄徳、桃香!! あなたがどんな存在だって、どんなやつだって、たとえ、男だたとしても、私の親友よ!!」
抱きしめた。
私は桃香を抱きしめた。
思ったより暖かく、思ったより柔らかく、そして、桃香のにおいがした。
心休まる親友の香りだった。
改めて、真名を交わしあって、そして先ほどの話に戻る。
なにがばれたのか? > 私が男だということ
「でも、ばれる要素なんてあったかしら?」
「あー、桂花様。じつは、孫呉にはかなりばれる要素があります」
シャオちゃんの言葉に眉を寄せた桂花さんだったんだけど、あることに思い至る。
「・・・つまり、誰かが妊娠した?」
「はい。孫呉の武将および歌姫姉妹の何人かが・・・」
初めて聞きました~、って、まじ!?
「えー、っとだれ?」
「歌姫だと愛紗様と天和様、呉勢だと穏と思春」
うっわー、もしかして、探られた、か?
つうか、なんで私に連絡無いかな?
「だって、桃香様に連絡すると、何にも考えずに呉に行っちゃうでしょ?」
えーっと、何の弊害が?
「今の状況が予想できていて、その上で呉に桃香様がいく、これってどんな戦争準備ですか?」
・・・あはははは、そっかーまずいよねぇ・・・・。
つうか、やっぱ健全な男って財産なんだねぇ。
「一財産どころじゃないですよ? 本気で色々と狙えますもの」
シャオちゃんの言葉に桂花さんも頷く。
で、男妾を雇ってもいないのに妊娠という事実が、情報の伝達から考えてバレた要因っぽい。
「もしかして、呉を出奔しなかったら、今頃戦争?」
「たぶん、間違いなく・・・」
なんという綱渡り人生!!
「で、どうするの、桃香」
「どうしよう、桂花さん」
ああ、人生色々と行き詰まりなんだけど、親友と肩をすくめあうのもいい感じです。