第十二話 董卓さんが訪れて・・・
トップページ
> 神代ふみあき書庫
> 非赤松椎名系作品
> 歌う恋姫無双物語
> 第十二話 董卓さんが訪れて・・・
第十二話 董卓さんが訪れて・・・
うっふっふっふ~
今日も新しい朝が明けました。
きゅーっと背伸びをして、水鏡に向かって微笑みます。
「にこ♪」
うんうん、今日も私はかわいいな。
・・・これで領民もメロメロじゃい。
あ、だめだめ。
心の声は顔にでやすいんだから。
声に出る言葉以上に気をつけないと。
「月~、おきてる~?」
「あ、詠ちゃん。だいじょうぶだよ、起きてるよ(にこ)」
「は、ぐは・・・」
ふふふ、詠ちゃんってば、鼻血が出るほどかわいいって思ってくれてるんだね。
めんこいのぉ・・・・・
あ、だめだめ。
もう、「おっさん思考」は止めないと。
詠ちゃんは、私の大親友。
そう、大親友。
・・・お風呂にも一緒に入るほどの。
げへへ。
ばつばつ。
もう、顔に出てないかな・・・?
「月、どうしたの?」
「あ、詠ちゃん。心配してくれるの? 嬉しいな・・・へう」
「・・・ぶば」
ふふふ、もう、詠ちゃんたら興奮しすぎ。
決め言葉が決まった私は、結構上機嫌。
「・・・あ、あぶないわ。さすが僕の月」
ぶつぶつと自己暗示をかけてる詠ちゃんだったけど、どうにかお仕事状態に復帰したみたい。
「都でいろいろと政変があったみたいよ」
「・・・民が、庶人が苦しんでいるんだね」
「うん、そう。月は心優しいから辛いと思うけど、でもこれは飛躍の良い機会じゃないかと考えてるの」
「・・・詠ちゃん」
「僕は月が、董卓が治めればいいと考えてるの」
「そんなぁ、私には無理だよ、詠ちゃん」
「大丈夫、任せて。僕の優しい王様」
力強い笑みの詠ちゃんに私は微笑みます。
「無理しちゃだめだよ? 私の大切な軍師様」
にっこり微笑んで、そのまま崩れ落ちる詠ちゃん。
賈駆、ここに萌え尽きる。
うんうん、詠ちゃんはいじりがいがあるなぁ~♪
ところで・・・・
「詠ちゃん。この天河の歌姫姉妹って、お歌がうまいのかな?」
「・・・噂じゃ上手いらしいけど、陳留で辻歌い手に負けたって話よ?」
「へぇ・・・・」
多分、驕っていたのね。
私みたいに常に可愛さを心がけていなかったせいね。
本当に、だめだわ、この大陸の人は。
一度地位にあがると高貴な人間だってすぐに勘違いする。
常に磨き続け、常に輝く続けるものこそが高貴なのに。
「大丈夫よ、月。所詮は庶人。関係ないわ」
「ちがうよ、詠ちゃん。庶人も貴人もないよ。みんなの大陸なんだから」
「・・・ゆえ~、その優しさは深すぎるよぉ」
華琳さんのところにお客さんが来るという話を聞いた。
相手は、三国志最大の悪役、董卓。
というか、董卓も女なのかな?
そんな疑問をぶつけることなく仕事をしていたんだけど、桂花さんに怒られた。
「将、全員集合だっていったでしょ!?」
「ええええ! 私、筆頭文官、官僚だってばぁ」
「あなたねぇ、私の仕事の補佐もしているんだから『副将』でしょ!?」
「・・・あるぇ?」
そんなわけで、お客様登場前の大広間まで引きづられてゆくと、シャオちゃんもいたりしたので、私が全面的に悪いみたいだ。
「桃香。もう少し緊張感を持ちなさい」
「は~い」
主、直々の叱責だったんだけど、なぜか皆さんうらやましそうにこっちを見てる。
マゾいな、華琳さんの配下は。
それはさておき、訪問の目的は?
私のその問いに、にこやかな笑みを浮かべる華琳さん。
「はじめはね、庶人に歌で負けた天河の歌姫姉妹を叱責に、って目的だったみたいよ?」
「なんで?」
「歌謡に優れ足る才能があるくせに、慢心で落ちるのは許せない、ですって」
なんか、華琳さんを相手にしているみたいな気がしますね。
「まぁ、確かに私も桃香がそうなったら、叱責どころじゃすまさない気持ちよ?」
「はぁ、なるほど。 では、がんばらなくちゃいけないですね」
思わず笑いあう私たちだったけど・・・
「あれ? 誤解してますよね、向こうさん」
「ええ、だから、竹簡で誤解は解いておいたんだけど、今度は本物をみたいって言ってきたのよ」
「・・・・へぇ」
「そんなわけで、歓迎の宴で歌ってほしいの」
とりあえず、了解。
まぁ、問われて答えるのもなんですが、歌うのは好きだし。
ところで・・・
「なんでも許可?」
「バカな歌は駄目」
「・・・ぶぅ」
実は「眠くなるまで」が、ちまたで大ヒットしてしまい、見張りや巡回の兵たちがブツブツ歌っているのがよく目撃されているとか。
さらに、訓練中の兵たちも、長距離走の時にペースを守るため歌っているとか。
肺活量も増えていいんだけど、華琳さんは「おばか」過ぎると不評。
ということで、華琳さんの前では歌わないと言う流れにされてしまった。
持ち歌で、結構「おばか」が多い私は不満だったけど、そのへんは町で歌えばいいかと切り替えることにした。
「無理に新曲を歌う事はないわ。歌姫姉妹として知られている曲の方が良いぐらいかしら?」
「んー、了解」
というわけで、シャオちゃんと打ち合わせをすることになった私だった。
大きな誤解はあったけど、この歌を聴けた、その一事だけで私は満足してしまった。
音に聞こえた「歌姫姉妹」の名を語った偽物を歌で負かした庶人こそ「歌姫姉妹」筆頭本人であるという、まるで物語の中のような話で、加えて、その偽物達は、歌姫姉妹筆頭の演奏補助をしているとか。
その行動に疑問を感じはしたけれど、それでも、この歌を、演奏を聴かされてしまえば疑いなんかなくなる。
この人は、この人たちは、ひたすら上を求めて上っている人たちなんだと。
私や、詠ちゃんや皆さんと同じく。
~「笑顔」岩崎宏美
なんて事だろう。
本当に、なんて事だろう。
私の事が歌われてる。
かくしてかくして、絶対に誰にも知られていないと思われていた真実の私が歌われてしまっている。
ゆっくりととなりを見ると、詠ちゃんも私を見つめていた。
滂沱の涙を流す詠ちゃんの頬を拭うと、詠ちゃんも私の頬を拭う。
「・・・涙。私、泣いてるの?」
「ええ、月。あなたは泣いてるわ。でも笑顔」
「詠ちゃんも泣いてる。でも、笑顔」
きゅっと私たちはお互いの手を握りあう。
今までのこと、これまでのこと、確認するまでもなく私たちは想いを交わしあっている。
「・・・すごいね、歌って本当にすごいね、詠ちゃん」
「歌というよりも、歌姫姉妹、劉玄徳の歌の力ね」
「・・・うん。できればみんなに聞かせてあげたいね」
「・・・できれば、ね」
笑顔はみんなの力になる。
だから私は力になる笑顔を、ずっと研究してきていた。
でも、それは違っていたんだ。
私は、ともに笑顔になる人を捜し、ともに進んでいかなければならなかった。
そのことに気づけた、それだけで私にとって最高だった。
~「一斉の声」喜多修平
へ、へうぅぅぅぅぅ!
これ以上、私の心を暴かないでぇ~!
誰かに贈る歌、誰かを感じる歌というものはある。
秋蘭と共に聞かされたあの歌は、確かに我ら姉妹の歌だと感じた。
が、これは、この曲だけは違う。
この曲は、この曲だけは私の歌だ。
いや、我が剣の道を行くものの歌だろう。
~「ELEMENTS」RIDER CHIPS
言い回しはわからん。
詩の中身もわからん。
でも、この歌は私の歌だ。
「・・・春蘭様」
「なんだ、季衣」
「この歌、春蘭様を感じます」
「・・・そうだな」
激しい歌だ。
燃え上がるような歌だ。
しかし、その背後に悲しみを感じる。
まるで、何かを訴えるかのように。
ああ、この歌は何度も聴く歌ではない。
でも、私は再び聞きたいと願った。
新曲はいらないとか言われてたけど、なぜか新曲を中心にくんでしまった私です。
シャオちゃんも嬉しそうにしてるのは、やっぱり新しい曲を聞かせたかったからだろうと思う。
とはいえ、呉に行くまでの間に歌っていた曲もあるので、いろいろと取り混ぜて歌っていたところ、華琳さんに睨まれてしまった。
何気に陳留では歌っていなかった曲ばかりだもの。
~翼をください
~上を向いて歩こう
この二曲は大人気で、まねっこも多かったりするんだけど。
ここに一つ、大のお気に入り曲を歌っていなかったので追加した。
~「おいらは淋しいスペースマン」ヒデ夕樹
星とか月とかは「町」「村」に置き換えて、スペースマンは「旅傭兵」とかにしたんだけど、これがもう、不味すぎた。
今まで、しっとりしていた空気が「大号泣」になってしまった。
華琳さんですらボロボロ涙を流しているし、春蘭さんなんか両手を握りしめて涙をこらえている。
トライアゲンの時も感じたけど、世相の悪さに当てた歌詞変更は、猛烈な共感と感動を呼ぶ模様。
以後気をつけようと思うわけで。
空気は悪くなかったんだけど、心のあり方がまずいかなーと言うことで、一曲別の歌を引っ張り出すことにした。
これは、完全に予定外、完全に打ち合わせ外だけど、シャオちゃんもあわせてくれるだろう。
練習の時から、この曲が好きだって言っていてくれたし。
~「炎のたからもの」ボビー
「夜明け生まれ来る少女」とは対極でありつつ、それでも華琳さんを想った歌。
少しでも感じてくれるかなーと考えつつ華琳さんを見ると、満面の笑みで微笑んでくれている。
この機嫌なら、押し切れるな、うん。
何よ何よ何よ!
まったく!
「おばか」は駄目だって言ったじゃない!!
なんなのよ!
~「超妻賢母宣言」MOSAIC.WAV
この超妻賢母って。
なんなのよ! 今の世の中を風刺したような歌詞は!
大爆笑じゃない!
でも、「炎のたからもの」の雰囲気、完全に破壊したじゃない!!
・・・もう、本当に何を考えてるのかしら?
確かに、構成上は成功してるわよ?
でも、「炎のたからもの」が最後でよかったじゃない。
あの気持ちのままでいいじゃない。
・・・ああ、本当に何を考えているのかしら?
「えーっと、華琳さんこそ何を考えて、私に『絶』を構えてるんでしょうか。というか当たってます」
「当ててるのよ」
「何ら嬉しさも希望もない台詞です!」
はぁ、もう。
いい雰囲気だったのに、なんでオチをつけるの?
「華琳様、桃香には仕事もありますので、首と両腕は無事にお願いいたします」
「桂花さん、親友でしょ、しんゆぅ~~!」
「私は友情より愛をとるの」
本当に仲がいいわね、この二人。
まるで春蘭と秋蘭のからみみたいね。
(4,057文字)