「お前の望みは何だ?」
ランプの精が、私に問う。
「王子様が私を見つけてくれますように…」
願いをすべていう前に
夢はいつも途切れる。
叶わないんだよ。
わかってる。
でも
わかりたくない。
ハッピーエンドにならない恋愛なら、
早く終わってしまえばいいのにね。
かわいそうなお姫様は
現れるはずのない男のキスをいつまでも待って、眠ったフリをする。
悲しくて、惨めな、お姫様。
綺麗なドレスも、ビリビリに破けて、
身につけた宝石は輝きが色あせてしまった。
ガラスの靴はくすんでプラスチックのよう。
それでも、
待っている。
王子様が現れるのを。
ここで待っている。
どうして?
そんなもの、全て脱ぎ捨ててしまえばいい。
かち割ってしまえばいい。
そうして、何もかもから自由になって
月の浮かぶ湖へ飛び込むの。
肌に冷たくまとまりつく水。
長い髪はたおやかに水面を漂い、
月が彼女の乳房を淡く照らす。
成熟したこの身を開け放ち、
さらけ出し、待ちわびる事をやめたお姫様は
ただの女になって、歩き始めた。
木に絡みついた蛇が言う。
「これをお食べ。そうしてもう一つもいで、最初に出会った男にあげるのだ。」
お姫様は木の実を二つもいで、一つをかじりながら歩いた。
実を食べれば食べるほど、体の芯が暑くなる。
その熱は全身にまわり、息も荒くなった。
火照りをさましたくて、水辺を探していると、
草の上に寝転び、草笛を吹く男がいた。
お姫様は水を求めた。
男は変わりにお姫様の持っている木の実を欲した。
お姫様は水を
男は木の実を
夢中で…飲む
夢中で…かじる
求めるものは同じだった。
二人は目を合わせ、激しく唇を重ねた。
草の匂い
夜空の星
そよぐ秋の風…
熱い吐息の中で
激しく求めあう二人を
月が静かに見下ろす。
求めても求めても手に入れることのできない想いだった。
夢見た王子様を断ち切って、
この身を自由に泳がせて
お姫様はついに願いを叶えた。
「お前の望みは何だ?」
ランプの精が私に問う。
「もう二度と、夢見る王子様を望まないように。私が自由であるように。」