第六話 お披露目しちゃって・・・
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第六話 お披露目しちゃって・・・
天河の歌姫姉妹と聞けば、庶人は喜び悪人は竦む。
卑族山賊を惨殺する勇名が響きわたっているからだろう。
山の形すら変えて山賊の砦を崩壊させたという噂から、彼女たち姉妹に関わらないように逃げる山賊すら少なくなかった。
町で歌う彼女たちに絡む破落戸も少なくなかったらしいが、最近では聞かない。
代わりに彼女たちを追いかける「おっかけ」と呼ばれる信者が増えた。
で、目立つ「おっかけ」筆頭が白虎とパンダを引き連れた少女、シャオちゃん。
絶賛、家出中だそうだ。
何でも、実家の家業はヤクザみたいなもので、ミカジメ料をとって、周囲から民を守るとか。
つうか、それってそのままヤクザだね。
そういう私にシャオちゃんはうれしそうに笑ったが、その家の中で居場所がないそうだ。
まぁ、純粋っぽい女の子だし仕方ないか。
でも、家出が半年にわたると聞いて、さすがによろしくない、とおもったが、家に帰れと説得しても聞き入れず放浪しそうだったので、致し方無く付いてくるに任せていた。
今では楽器の伴奏やコーラスも手伝ってくれるという、すでに身内状態。
いいのかなーとはおもうけど、まぁ、良いかということで。
「とはいえ、そろそろ孫呉の土地よねぇ?」
私の問いにみんなもうなずく。
「桃香さま、孫呉にいかなようが?」
「あ、うん。前にね、孫堅さんって人に会ったときに、旅の費用を用立ててもらったの。だからそのお礼、かな?」
「へぇ・・・」
感心した愛紗の後ろで、なぜかヒキツるシャオちゃん。
「どうしたの、シャオちゃん」
「・・・えっと、桃香様。本当に孫呉にいくの?」
「うん、約束してるし、孫堅さんを想像して作った曲もあるし」
もちろん、オタク曲を引っ張ってきてるだけだけど、かなり合う。
「・・・・ぅぅぅぅぅ」
呻いた後でシャオちゃんは苦笑い。
「新曲も聴きたいし、あきらめる」
聞けば、シャオちゃん、孫堅さんの娘とか。
「と言うことは、孫策、じゃないだろうから孫権さん?」
「えーっと、三女」
「と言うことは、孫尚香殿、と言うことですかな?」
愛紗ちゃんの台詞に、苦笑いで答えるシャオちゃん。
まぁ、武力で周辺を納めていることや租税をオリジナルで集めているところを見れば、ヤクザみたいなものだよね、この時代の領主って。
まぁ、凱旋とはいかないけど、里帰りなんだし派手にしようか?
「派手ですか?」
「え、え、なんかおもしろそう!」
それは見たこともない装飾をされた櫓だった。
三匹の牛に引かれたその櫓が、ゆっくりと建業に近づいているという。
周囲には赤い布を巻いた庶人が歩いているという。
「堅殿、どうしますかな?」
城壁の上で私は、祭と共にその櫓を見つめていた。
「・・・武装じゃないのよね、私の勘では」
「あら、お母様も? 私の勘も武装じゃなくて、さらに言えば面白そうだって感じてるわ」
娘の勘も同じ向きらしい。
「姉様、あの櫓に火でもかけられれば、ただではすみません!!」
次女は警戒心が高くて助かる。
暴走しがちな私と長女の良い手綱だ。
「おお、なにやら動き出しましたな」
櫓の床が開き、そこから何人もの少女が現れた。
先頭の少女をみた私は、弓兵の準備をやめさせた。
「・・・祭、あの子よ」
「おお、ひさしいですな」
思わずほほえむ私と祭をみて、興味深そうにのぞき込む長女、雪蓮。
説明を求める次女、蓮華。
「なに、策殿、権殿。聞いていればわかろうものですな」
そんな祭の言葉とともに、櫓から大きな音が奏でられ始めた。
その音とともに響く歌詞に、私たちは思わず涙してしまった。
まるで、私たち、孫呉のための歌のようだと。
張三姉妹をコーラスに、小蓮ちゃんをサブボーカル、愛紗、鈴々を楽器に回し、私は声の限りに歌いあげる。
「真赤な誓い/福山芳樹」
は、いかにも孫呉にぴったりな曲だったので、ぜったいに孫堅様の前で歌いたいと思っていた。
練習中に小蓮ちゃんも「うちにぴったりな歌!」と絶賛してくれたので、手応えはあったんだけど、歌いあげた瞬間に爆発的な拍手や声援が渦巻いたのを見て、間違っていなかったんだと胸を張ることができた。
歓声とともに開く建業の門から、笑顔の孫堅様たちが現れた。
「久しいな、劉玄徳。いや、天河の歌姫姉妹かな?」
「お久しぶりです、孫堅様」
そうほほえみながら、私は背後に隠れた小蓮ちゃんを引っ張り出す。
「落とし物のお届けにきました」
「・・・小蓮」
「桃香さまたすけてぇーーーーー!」
乙女の絶叫を背後に、せっかく聞きに来てくれた建業の人々のために歌うことにした。
愛紗ちゃんをボーカルにした「闘艶結義/片霧烈火」に続き、「始まりの君へ/布施明」、で、夜営地で歌った「翼をください」を上パート下パート付きで歌ったりして「異邦人」でシメたところで、実に大きく盛り上がり、孫呉のみなさんも小蓮説教を中止して聞き入ってくれた。
小蓮の帰還と「天河の歌姫姉妹」の歓迎の宴会は大いに盛り上がった。
改造月琴、アコーステックギターぽい音がでるようにした「ギータ三号」を片手に歌いまくる私と、そのあとをちょこちょこついてきてコーラスする小蓮ちゃんは孫呉の家臣勢にも好評だった。
「で、桃香。うちに仕えてくれるんだろう?」
「そうそう、桃香。一緒に孫呉を盛り立てましょうよ!」
孫堅様と孫策様のタッグに囲まれて、結構困っていたりなんかする。
孫権様は常識的に「歌だけで仕えられても困る」と言ってくれていたんだけど・・・
「あら、孫権様ご存じありませんか?」
「なにを、だ?」
「かの算術の町に伝説の筆頭文官ありって」
しんと静まり返った会場。
地和、だ、黙って!!
「あの、算盤という、あれか?」
「ええ、曹孟徳に見初められし算術革命を起こした筆頭文官は、里帰りの最中、嵐に巻き込まれて消息不明・・・」
意味ありげな視線の先には、愛紗に口をふさがれた私。
「・・・とりあえず、私たちも「ある」人に算盤を習いました」
人和が私をじっと見る。
視線が私に集中している。
「・・・詳しくはきかんが、うちの軍師が放っておかんだろうなぁ・・・」
「冥琳が逃がす分けないわよねぇ・・・」
「・・・あ、冥琳が小躍りでやってきたわ」
踊るように現れた眼鏡女性は、私を力の限りに抱きしめた。
「おまえがあの算盤天使だな! ようこそそして逃がしはしないぞ確保!!!」
流れるようにお縄についた私を、にっこにこで見つめる眼鏡女性。
「私の名前は周瑜公僅、冥琳と呼んでくれ」
「・・えっと、それって、真名ですよね?」「かまわん。これから苦楽を共にする仲だ。バンバン真名で呼んでくれ」
「あのぉ、文官士官が決定ですかぁ?」
「ふむ? ああ、そういえば山賊狩り姉妹でもあったな。うむ、どこまで私を喜ばせばいいのだ? 文官仕事は都の筆頭文官水準で、武官の仕事は一流武芸者。ああ、給金は任せるがいい、雪蓮なんか目じゃないほど払ってやるからな」
「わーい! 桃香のおかげで仕事がへるんだぁ!」
「・・・今以上に減らしたら給金なしにするぞ、雪蓮」
「えーーーー!?」
なんでしょう、このカオスな空間。
何だかなぁ・・・
真赤な誓い、孫呉にばっちりと思うのは私ばかりではないと思いますw
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