第三話 召抱えられてしまって・・・
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多くは語りません。
もちろん、勢いだけに決まってます!
第三話 召抱えられてしまって・・・
三人に薦められて歌いながらの旅になった。
私の知ってる曲を幾つか教えて、歌わせてみたりすると、結構人が集まったりするのが面白かった。
街中だと木戸銭を入れる人は少ないけど、農村部だと食べ物を持ち寄ってくれる。
この辺が農村と街中の意識の差だろうな、と思う。
まぁ、木戸銭を必ずくれといっているわけじゃない。
逆に、木戸銭を渡す文化に染めてやろうと思っているだけだ。
だって、それなりに小金は持ってるしね。
「師匠~、もっと贅沢しましょうよぉ~」
「だ~め。君たちの食事は、君たちが稼いだ分を当てるって約束でしょ?」
「でも~・・・・」
「町のやつらしょぼいんだもん。」
「・・・聞き逃げは許せないわ」
「だったら、思わずお金を払いたくなるような歌を歌いましょうよ」
「「「う~」」」
ちなみに3姉妹の木戸銭率は2割。
で、私は5割。
歌いたいときに歌う、その姿勢の差が出ていると理解してほしいものです。
「お金が欲しい、美味しいものが食べたい、それはいいと思うよ?でも、それを聞いてる人たちにぶつけるのはどうかと思うな」
「・・・そうだね、私達は、歌いたくて桃香様についてきたんだもんね」
「そうだった、チー勘違いしてた」
「・・・師匠、すみませんでした」
ま、そんな師弟関係もそろそろ終わり。
あ、そうだ。
「人和、これ覚えてみない?」
「・・・これは?」
見せるのは算盤。
教えることに関しては、こちらのほうが上手いのですよ?
曹仁が帰ってきた。
聞けば嵐に巻き込まれて桃香を見失ったらしい。
ただ、見失ったという時期と同期して奇妙な噂が届くようになった。
天河の歌姫姉妹、というものを。
で、その歌姫姉妹のその一人は、どうやら桃香っぽいのだ。
「華琳さま、それはどのような根拠で?」
「ちょっと前に、桃香の歌を聞いたことがあるのよ」
秋蘭の言葉に私は少し前を思い出す。
それは異質で、それは異国的で、それは美しいものだった。
言い回しや節回しは歌といえないものが多かったけど、率直で感情的で詩的なもので、心の直接響くものだった。
まるで、自分の心を言い当てられたかのように感じた。
私の心を言い当てるような歌はそればかりではなく、幾つもの曲が私の心を掴む。
だからこそ解った、この歌は多くの人の心を掴むだろうと。
「・・・だから、なのよ」
「なるほど、私も聞いてみたいですね」
秋蘭の言葉に私は微笑む。
アノ子なら望めば歌ってくれるわよ、と。
伏兵による策に陥れられた、と気付いたときには助けられていた。
娘の孫権、蓮華ほどの年の娘が、小岩を投擲して知らせてくれたからだ。
少女の名前は「劉備玄徳」。
華奢な見た目とは違い、随分と鍛えられた体をしていた少女は、武に秀でているわけではなかったが、知を感じさせるだけではなく徳も感じさせるものがあった。
この娘なならば、我が子たちの助けになる、そう確信したが、旅の途中という事で召し抱えはできなかった。
残念無念だが、糧食に余裕もあるので勝利の宴を行う場に呼んでみたら驚いた。
伴奏もなく歌うその歌は、魂を振るわせられた。
月琴片手で歌いあげる愛の歌は、過去を鮮明に思い出さされた。
あの子たちの父親を、その出会いを、平穏なる日々を、戦いの日々を。
鮮明に思い出せた、鮮明に思い出してしまった。
本来であれば剣先で古傷を抉られたようなもののような筈なのに、吹き出したのは血潮ではなく暖かな記憶と想いだった。
想いが、記憶がこぼれてしまわないように、私は私を抱きしめた。
こんなすばらしいものを、私だけで独り占めしていいのか?
私は彼女の旅を支援しようと思った。
今は金銭的なものしか渡せないが、それでも支えたいと、本気で思った。
「・・・師匠の実家は、実に牧歌的ですね」
「素直に凄い田舎だっていっていいよ?」
その言葉に素直な返答ができるほど厚顔ではない。
しかし、なんか、こう、寂れていないけど貧乏っぽい。
いや、結構商人が出入りしていて、小ぎれいなんだけど、田舎臭さが抜けない感じ。
「おお、桃香じゃないか!!」
ふらりと現れたその人は、何となく幸薄そうな感じの女性。
「白蓮ちゃん!!」
たたっと駆けだした師匠は、ぎゅっとその人を抱きしめました。
「そっちは結構大活躍らしいじゃいか!」
「う~~~~、なれない文官仕事ばっかりやらされて、逃げ出してきたんだよ~」
「なに言ってるんだよ。私塾の誉れって言われてるんだぜ?」
「・・・十分働いたし、しばらくはお休みしたいよぉ」
「そんなこと言ってるくせに、帰ってくるときにもずいぶん活躍してただろ? 天河の歌姫姉妹?」
「それは、あの子たちがかわいいからだよ!」
きゃいきゃいとじゃれあう師匠。
なんだか新鮮ですね。
「・・・とと、紹介するね。こちらは幼なじみの公孫賛」
「公孫賛伯珪だ。この天然ポワポワ相手の旅で大変だったろ?」
「ひど~い。もう」
「そんなことはないですよ公孫賛殿。師匠にはいろいろとお世話になりました」
「そうそう、チーたちが歌で生きる助けもしてもらってるし」
「桃香様には、もう、すんごくおせわになったんですよぉ~」
何となく、公孫賛殿の顔色が悪い。
ぼそぼそと師匠にささやいて、師匠は真っ赤になって否定してる。
なんでしょう、何となく面白くないですね。
「で、だ。実は私、このほど領主の仕事をすることになったんだが・・・・。」
「・・・まさか・・・・」
「手伝うよなー?桃香」
「えええええ! だって、文官の仕事がいやで逃げ出してきたんだよわたし!!」
「なになに、簡単だ。多少腕が立つだろ? 武官の仕事をしてくれればいい」
「・・・あれぇ? なんで私の剣の腕知ってるかな?」
「ん? 幼なじみを嘗めるなよ」
にやーと笑った公孫賛殿は、師匠の首根っこをつかんで歩きだした。
「おまえ達も来ないか? 桃香が連れていたって言うなら、それなりに算術ができるんだろ?」
「・・・え? 何でご存じなんですか?」
「こいつが算盤持ってて人に教えない訳ないんだよ」
なんだか本当に仲がよくて羨ましいことだった。
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