国家機密といえば外務省や防衛省などの中央官庁が扱っているもの。地方に暮らす私たちには関係がない―。そう思いがちだ。
ところが、今国会に提出された特定秘密保護法案を読むと、地方にも密接なつながりがあることが分かる。指定された秘密が警察庁を通じて都道府県の警察本部に提供され、一線の警察官も秘密の取扱者になるからだ。
特定秘密を指定する「行政機関の長」には、外相や防衛相だけでなく警察庁長官が含まれる。長官が指定するのは、法が対象とする四つの分野のうち、主に「特定有害(スパイ)活動」の防止やテロ活動の防止に関する情報になる。いずれの分野もその内訳を見ると、「その他の重要な情報」の記述がある。幅広い指定が可能な条文になっている。
長官は捜査などの必要に応じ、特定秘密を都道府県警察に提供することができる(7条)。提供を受けた警察本部長は、家族の状況から飲酒の節度、借金の状況まで調べる「適性評価」をして、取り扱う警察官を決める。こうして、私たちの身近にも特定秘密の取扱者が存在することになる。
警察本部長は「特定秘密の適切な保護のために必要な措置」(5条)を取ることが求められる。特定秘密を守ることが警察の仕事の一つになる。取扱者への接触に目を光らせる。
3年前、警視庁公安部の捜査関連文書がインターネット上に流出した。そこには国内のイスラム教徒の氏名や住所、顔写真、交友関係、活動状況などが記載されていた。都内のイスラム圏の大使館やモスク(イスラム教礼拝所)に出入りする人たちを監視した記録もあった。
文書に掲載されたイスラム教徒たちは「教徒というだけで個人情報を収集され、プライバシーを侵害された」などと提訴した。
警察が集めるこうした公安情報は特定秘密に指定される可能性が高い。法案では「主義主張に基づき、国家に強要する活動」がテロの定義の一つになっている。地方で展開される原発反対デモなどの監視も強化されそうだ。
特定秘密保護法が後ろ盾になり、警察は個人情報をより集めやすくなる。そこに人権侵害があっても秘密の壁で検証は難しい。
法案は、地方を巻き込んで監視社会をつくる危険性をはらんでいる。容認できない。