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表具/中嶋 和秀 昭和24年生 兵庫区在住
勤務先 (株)原汲古堂

伝統の表具を現代のライフスタイルにもマッチさせる一方で、和装本の技術を守ることにも情熱を注ぐ。

依頼先の人柄を反映させる軸装や、格式ある和装小物などの作品づくりで日本文化に花を添える。

中嶋 和秀さん  中学時代、電気工事を仕事とする父について現場へ何度か出向いた。難しい仕事をこなす父が言った。「人間、努力すれば出来ないことはない。」その言葉が和秀さんの人生を変える。たまたま結婚相手が「原汲古堂」の主人、原 靖さんの娘であったのが、この道に入り、跡を継承することとなった。義父であり、師匠となった靖さん仕込みの腕をめきめき上達させていく過程で、励みとしたのは、実の父に教えられたあの一言だった。電気工事の道を進むはずが、表具で身を立てる結果となった。
 軸装を得意として全国的に名のある書家の仮名書や日本画家の軸装を数多く手がける。書であれ、絵であれ、作品を活かす秘訣は「作家の何げない身繕いの中から生き様を感じ取り、素材から意匠までその人ならではの想いを反映させるよう心がけています」。和秀さんの感性を発揮しきった時、顧客からの絶賛と厚い信頼を得る。
 先代からの引き継ぎで皇室からの依頼も入る。美智子皇后陛下よりお預かりした着物の端切れ布を、和歌の書かれたお懐紙を入れる「お懐紙入れ」に自ら意匠デザインして作り上げた品を皇居にお納めした体験は「この道に進んで良かった」と、実感する貴重な実績となった。また、皇后様ご愛用の仕舞扇の焼き銀加工や、皇后様が新嘗祭の折に書き記されたお米の銘柄の巻物をはじめ、紀宮内親王殿下の画帖のほか雅子様、紀子様のお懐紙入れや色紙など、一点一点精魂を傾けて取り組む姿勢が格式ある作品の誕生につながる。
中嶋 和秀さん  日本独自の文化を大切にしたいとの信念に燃えて、和紙を絹糸で綴って本に仕上げる「綴葉装」(てつようそう)「列葉装」(れつようそう)や、糊で和紙を綴っていく「粘葉装」(でつちょうそう)「胡蝶装」(こちょうそう)の技術の講習会等の活動も続けている。これらの技術を持つ職人がきわめて少なくなっているなかで、「日本古来の文化の灯を消したくない」と胸のうちを語る。
 古書画の修復にも優れ、文化財狩納芳崖、酒井抱一等多数の書画の修復に腕をふるったほか、奈良東大寺仁王像の体内経6巻を制作するという歴史に残る働きの場も与えられた。「義父と私の力を合わせての仕事でしたが、義父がこの世を去った今も作品が残り、改めて良い仕事に就かせてもらっているんだなとしみじみ思います」。その体内経は仁王像の中に保存されて一般に見てもらえないため、レプリカを装丁し、今も一般公開されている。「どんな仕事でも、人間努力すれば、やれないことはない」と教えてくれた実父の言葉の通りだなと今さらながらに言葉の重みを噛みしめています」と原点を忘れない和秀さんだ。
 その他、古来の形態を踏襲しつつ、近代的、斬新な表具をも得意とし、コンクリート壁にも似合う軸装、額装等の意匠が大きな評価を得ている。さらに、屏風や衝立等においても、昔ながらの伝統的手法で、現代の生活様式に見事調和した作品づくりで注目を集めている。