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社説

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首相の外遊 国会から逃げてないか(11月4日)

 安倍晋三首相の外国訪問が異例の多さだ。

 積極外交もいいが、重要法案を審議中の国会を欠席することには問題がある。

 目的と意義を明らかにして、国会審議にも十分配慮した節度ある日程を組むことが大事だ。

 与野党にも国会審議の形骸化を避けるための工夫が求められる。

 先週、首相はトルコを訪問した。日本が支援したボスポラス海峡を海底でつなぐ地下鉄の開通式に出席し、エルドアン首相との会談でトルコへの原発輸出推進を鮮明にした。

 この間、国会では首相が名付けた「成長戦略実行国会」の目玉となる産業競争力強化法案や、日本版「国家安全保障会議(NSC)」創設関連法案の委員会審議が始まった。

 首相の不在に野党は「国会軽視だ」と反発した。約半年で2度目の訪問である。国会開会中の平日に国際会議以外の目的で行われたのも異例だ。訪問の成果と比べて考えれば、野党の主張は理解できる。

 首相はトルコへの出発前に「戦略的に極めて重要な国だ。首脳間の信頼関係を強固にしたい」と目的を語った。国会を差し置いてまで訪問する理由としては説得力に欠ける。

 与党の対応も問題だ。首相に自制を求めるか、各法案の審議入りを首相の帰国後にするのが筋だろう。衆参両院での優位を利用し、窮屈な日程の中で法案をできるだけ早く成立させようとする強引な国会運営だ。

 懸案が多いにもかかわらず今国会の開幕が遅れたのも、首相の外遊日程を考慮したものだった。国会が振り回されている印象がぬぐえない。

 気になるのは首相の突出した意欲だ。今国会の所信表明演説では「地球儀を俯瞰(ふかん)する視点で23カ国を訪問し、延べ110回以上の首脳会談を行った」と胸を張った。

 その割には最大の焦点である中国、韓国との関係改善は進んでいない。ことさら成果を強調するのは、外遊を国会欠席の口実とする意図があるのかと疑いたくなる。

 重要法案の審議中に首相が外遊で欠席し「首相なしでも審議ができる」という既成事実を重ねようとしているのなら到底認められない。

 与野党は国会改革の議論を進めている。自民、公明の両与党は党首討論以外の首相の委員会出席を予算委に限定する案をまとめた。民主党は恣意(しい)的に審議を避けることを防ぐ厳格なルールづくりを求めている。

 外遊と国会のどちらを優先するかは、その都度国会が主体的に判断すべき問題だ。与党であっても首相の意向に従うだけでは、国会が自らの手足を縛る結果につながる。

 与野党が知恵を出し合って実効性ある改革を実現してほしい。

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