なのはに問題児がやってくるそうですよ? (sinfonii)
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出会い
プハッ!と、俺は海面から顔を突き出して、おもいっきり息を吸った。
標高600mいくかどうかってところから着水したものだから、海のだいぶ深くまで潜ってしまったのだ。
「・・・さて、どうしたもんか。」
下が地面でなかったことに喜ぶべきか、右も左も分からない海である事を嘆くべきか。とはいえどちらに進めばいいかもわからない状態で適当に進むのは、出来ないとは言わないが流石に時間が勿体無い。
となると、もらった能力の一つ”生命の目録(ゲノム・ツリー)”を頼りたいところだ。この能力は”生物”と話すことが出来る。例えそれが龍であろうとも話さえ聞いてもらえれば対話が可能だ。・・・話を聞かない奴は物理的に黙らせてから対話も辞さないが。
加えて、その生物の生命情報を得て、それを自分に適応させることができる。少しわかりづらいが、魚にあえばエラ呼吸ぐらい出来るだろうってことだ。
そもそも普通にこの辺りについて聞けばいいかもしれないが、魚に現在地とか分かるのだろうかは疑問である。
ついでに”威光(いこう)”について説明すると、これはなんというか、人や物や現象に使える令呪みたいなものだ。ギアスといってもいい。ようはカリスマによって言うことを聞かせるようなものだ。何回だって使えるし、別に声に出す必要もない。例えば、人に向かって”黙れ”といえば黙る。
ものに使うってのは権能を付与するって感じの能力なんだが”炎よ燃え上がれ”なんて念じれば炎はより燃え上がる。恩恵の極大化といえばいいか、その能力をスペック以上に引き出す能力だ。
とはいえ、どれぐらいのものが操れるかは試してみないことにはわからない。
ふむ、しかし海中でも地上と同じように会話出来るのだろうか、などと考えていると、一匹の魚が近づいてくるのが視界に映った。あれだけ派手に飛び込んだのだ、近くの魚はあらかた逃げただろうと踏んでいたが・・・なんにせよ好都合だ。早速―――
「――ん?どこに行くんだったか」
つい先程まで覚えていた地名が出てこない。そもそもここはなんという世界だったか。自分の名前も思い出せない。どんどん霞がかっていく先ほどの記憶。最後に覚えていたのは、前の世界の記憶、得た能力と、どこかに次の世界へ行く鍵があること、そして神を殴るという最終目標だけ。
俺が抜け落ちる記憶に混乱している最中、いつの間にかすぐ近くまで来ていた魚が俺に話しかけてきた。・・・さっきまで話していた爺の声で。
「(ふむ、無事辿りつけたようじゃの。記憶の方も問題ないようじゃし、善き哉善き哉。)」
「・・・テメェか。オイ、なんで俺の記憶を奪った?」
「(そっちのほうが面白いじゃろ?何が起こるか大体わかってる、なーんて状況ワシが楽しくないわい。)」
「オイオイ高みの見物決め込む奴がいってくれるじゃねぇか。ハッ!先の分かる話がつまんねぇのは激しく同意だがな。いいぜ、記憶なんてくれてやる。」
「(それでこそお主じゃ。まぁ、こっちで名乗る名前は適当にお主が決めい、一応そうゆう規則なんでな。ちなみに、今は春先で朝の8時でここから西の方角に向かえば、物語の舞台じゃ。)」
にしても寒いじゃろうのぅ。ワシなんか見とるだけで寒いわい。と、突然こちらを見ていう魚(クソ爺)は心なしかデフォルメされ、見下した表情をしている気がするのは錯覚だろうか。
―いつか氷水をぶっかけてやるから覚悟しとけ。
「ハッ!そんだけわかりゃあ十分だ。後、もう出てくんなよ?興が冷めちまう。」
「(ワシもじゃよ。ま、次はお主が”すてーじくりあ”した時かの。では、”しーゆー”じゃ。)」
「わざとらしい横文字やめろ、ブチ転がすぞテメェ。」
そうして帰っていった魚を見送って、俺はひたすら西に泳いだ。太平洋を横断したことはあるが、あまり遠いと体力が持たないかもしれない。しかし違う世界に来たという高揚感が普段絞っている力を解放させずにいられなかった。
しかし俺がひたすら泳ぐといったら相当進むのだが。いくら子供の体になってたとはいえ、朝だったのが日が暮れるまで、一切の休憩なしでただひたすらに泳いだのに一向に陸が見えない。
ようやく陸が見えた時はすでに太陽が真上にある時間帯だった。
流石にゴールの見えないまま何時間も泳ぎ続けたのが精神的に疲れたのか、はたまた爺が落とした位置に苛立ち、心穏やかでなかったのか。
普段人に頼ることを好まない俺がうっかり、岸に上がった時に近くで腰を抜かしていた今の俺と同じぐらいの歳で栗色の髪をした子供に「出来れば服を貸してくれ、可及的速やかに。」なんて頼んでしまった。
この世界の主人公、高町なのはとの長い付き合いはここから始まった。