グレッチ・カントリージェントルマン '60s
リペア記「平成の大修繕」完全リポート
by 茶人
<序>
はじめまして。茶人と申します。
まずは自己紹介がてら、このギターについてのお話をさせて頂こうと思います。
私、大学時代にビートルズサークルに属しておりまして、
ビートルズのコピーバンドなぞをやっておりましたんでございます。
ジョージハリスンが好きだったので、ジョージ役を務めていましたが、
楽器もジョージが使ったオールドの楽器を好んで探して使っておりました。
テネシアンやデュオジェットなど、オールドグレッチを数本所有しておりましたが、
大学卒業後は、ほとんどは手放し、一番思い入れのあるカントリージェントルマン
だけを残して、現在に至っております。
やはりジョージハリスンの使用ギターと言えば、カントリージェントルマンを
連想する方が最も多いのではないでしょうか。
私もその一人で、写真やコンサートなどで一番露出度も高く、音もルックスも良く、
いちばん憧れたギターでした。
ジョージ自身が使っていた期間はそれほど長くないのですが、
エド・サリバンショーを始め、コンサートや写真などではほとんどが
カントリージェントルマンを使用しているものが多かったため、
多くの人の記憶にこのギターが鮮烈な印象を残したのでしょう。
(最も本人は本当はストラトキャスターが欲しかったらしく、後の述懐では「クソみたいな音」
とボロクソに言っておりますが・・・(^^) )
手に入れてからは私も宝物のように大事にしてきまして、
社会人になってバンドをやらなくなってからも、青春の思い出の品として手元に残してきました。
(あまり弾いてやらなかったのが残念でしたが)
< 事 件 勃 発 >
ところが!!
西暦1997年を迎えた頃から、
バインディングセルが泡を吹き、徐々に剥がれ落ちるという
トラブルに見舞われました。
ボディのバインディングはおろか、ネックのバインディングもポロポロと剥がれ落ち、
とうとう、弾くに弾けない、見るに見かねる状態になってしまいました。
これが今回のリペア前のギターの状態です。
写真が少なく、あまり鮮明ではないのが残念なのですが、
バインディングが見事に剥がれ落ちている様子がわかると思います。
これは1960年代のギターなので、製造から40年あまり経っています。
ガタがくるのは当然と言えば当然なのですが、
専門家に言わせると、同じような現象に陥ってしまっているグレッチギター
は多いそうです。
私の保管や扱いに特に落ち度はなかったと思うのですが、
もともとは乾燥したアメリカで生まれたギターです。
高温多湿の日本の気候に長年晒されて痛んだということもあるのでしょう。
そこで。
昨年6月、私はこのバインディング泡吹き・剥がれ落ちギターを
リペアに出すことを決意し、
東京の某工房へ持ち込み、大金をかけてリペアし、
もとの姿・音を取り戻すことに成功しました。
今回はこの時の経緯を詳細・克明にリポートし、
同じような悩みを抱えているグレッチギターの
オーナーの方々の参考にしてもらえれば、
と思いまして、このHPの管理人様のご好意により、
ここに掲載する次第となったのであります。
(「平成の大修繕」とは管理人様の名付けでございます。
俺のギターは大仏か?(^^;))
また、
まだこのような症状に見舞われていない幸運なグレッチギターの
オーナー様にも参考になると思いますし、
ビートルズ、あるいはギターに興味のある方なら、
一読頂いても損はないかな、と思う次第です。
<素性>
カントリージェントルマンをよく知っている方には、冒頭の画像を見て
「なんかどうもボディの色がやけに濃く見えるんだけど?」
と感じた方もいるかもしれません。
やっぱりお気づきになりましたね。(笑)
そこで、大修繕のリポートの前に、
そもそもこのギターのオリジナルの状態から、部品交換、
リフィニッシュという過程を経て、ステージで使用するまで経緯を、
まずはお話しましょう。
時は20年も遡ります。
本筋とは離れますが、実はここに私の思いが最も込められているので、
ぜひ聞いてくださいまし。
私がこの'60sオールドのグレッチ・カントリージェントルマンを買ったのは1984年1月。
吉祥寺の「ヴィンテージギターズ」で買いました。購入価格は50万円でした。
ボディその他の状態がとても良く、音もブライトで良く伸びていました。
決め手となったのは、丁度少し前に雑誌「Player」の連載記事”ヴィンテージファイル”
に掲載されたカントリージェントルマンと同一品だったのです。
冒頭の現在のギターの写真と見比べて見てください。
色が違うのはリフィニッシュしたから。
これについてはあとで詳しくお話しますが、
まずピックガードの割れにご注目ください。
割れ方から同一品であることがわかりますね。
次にヘッドの金属プレートの四隅にピンが入っているのですが、
左下角のピンが抜けていること。
またヘッドのグレッチのインレイの「T」のロゴの表面の一部が剥がれています。
また写真ではわかりませんが、
ボディのシリアルナンバーは「96846」で間違いなく同一品です。
このギターはジョージの使った何本かのカントリージェントルマンとは
いずれもわずかに仕様が違います。
押し上げタイプのダブルミュート仕様、
フロント・リア共にフィルタートロンのピックアップ、
ピックガードには「GRETSCH」のみの刻印、
ヘッドのプレート、などは同じですが、
ペグがグローバー特注の、いわゆる「耳たぶ型」形状のもので、
ジョージが使ったインペリアルタイプとは違います。
ですから、
いわゆるビートルズ世間(なんじゃそりゃ)でいう
「ドンズバ」のギターではありませんでした。
製造年代もたぶん多少ずれていて、
ジョージのは1962年、63年、
このギターはおそらくもうすこし後、
1964年頃の製造だと思われます。
私は、ドンズバではないことと、
50万という当時の相場としては高かったことで多少ためらいは
ありましたが、「PLAYER」誌に載ったことで、
これでモノには間違いないと思い、
ペグをグローバーのインペリアルタイプに交換してもらった上で、
購入しました。
こつこつとバイトで貯めた50万円の現ナマをエイと払って、
(当時、消費税なんてなかったので、50万円きっかりでした!)
オリジナルのハードケースに忍ばせたカントリージェントルマンを
家まで持ち帰りました。
東京で記録的な大雪の降った翌日で、
30cmも積もった雪の中を必死で歩いた記憶があります。(^^)
<リフィニッシュ>
さて、問題の「色」です。
私は買う前からいわゆる世間で言う「ドンズバ」にはあまりこだわりませんでした。
・・・いや、正確にはそうではありません。
いくらオールドでも、シングルミュートだったらやっぱり買わなかったし、
バータイプのピックアップ仕様は嫌だった。
ペグもインペリアルに変えたのもその証。
形状にはやっぱりこだわりました。
ジョージと同じカントリージェントルマンが欲しかった。
それは偽らざる事実でした。
しかし、私には人並み以上にこだわる部分がありました。
どこにこだわっていたのか?
それは自分自身の中にある、「ジョージのカントリージェントルマン」の
「色」だったのです。
オリジナルのカントリージェントルマンの茶色はあまりに薄い。
オールドはさらに経年による退色があるので、ますます薄い。
だから、買ったカントリージェントルマンをリフィニッシュすることを
最初から考えていたのです。
しかして、その「色」とは?
私が学生時代だった当時、(1980年前後と思って頂ければ・・^^)
ビートルズ関係の写真や映像は、
ほとんどがモノクロ、たまにカラーがあったとしても不鮮明で、
ギターだけのアップ写真など見るべくもありませんでした。
そんな私が「ジョージのカントリージェントルマン」の
「色」のイメージは「限りなく黒に近い」色
に思えたのは自然な感覚だと思うのですが、私だけでしょうか?
今でこそ、ジョージの使った何本かのカントリージェントルマンは、
かなり鮮明な画像で、
黒いペイントfホールがくっきり見えるほどの
薄いウォルナット色(勿論これがオリジナルの色)が
確認できるのですが、
私の中で育った「ジョージのカントリージェントルマン」の色はそんな薄い色
ではなかったのです。
勿論、当時からオリジナルの色の情報は知っていて、
ジョージのもそういう色だろうと思っていましたが、
私は自分の中の「見た目」を大事にしました。
私にはこう見える。僕にはこう見えた。・・・それでいいんだと思います。
それがその人にとっての「ドンズバ」ギターなわけですから。
私はオールドギターのコレクターではないのです。
このギターを特注のガラスケースの中に入れて飾って
楽しもうっていうわけではないのです。
(そういう方のポリシーを決して否定はしませんが・・・いやむしろわかる・・)
これからこのギターでライヴバンドをやろうというのです。
だから、私は買ったカントリージェントルマンのオリジナルの状態
を維持することよりも、
いかにしてジョージのギターのように見せるか?
そっちのほうが大事だったのです。
(もちろん、ちゃんと弾かないと元も子もありませんが ^^;)
当時の「ジョージのカントリージェントルマン」
の数少ないカラー写真の中でもっとも私の心を
捉えたのはこの写真でした。
この漆器のような、漆塗りのような、なんとも深いダークウォルナット。
(のように見える)
この色だと黒いペイントfホールはわずかに見えるのみ。(のように見える)
黒じゃない。黒だとペイントfホールはどっか行っちゃうぞ。(笑)
限りなく黒に近い、ダークウォルナット。
意を決して、私は買ったばかりのオールドカントリージェントルマンを、
都内にオープンしたばかりの、
ちょっと話題の某ギター工房へ持ち込み、
この写真を見せて、
これこれこういう風に塗ってくださいと無理難題を
押し付けるかのごとく、しゃべりまくって頼みました。
もう二度とオリジナルの塗装には戻れないことを覚悟の上で・・・。
1984年初春のことでした。
<ステージで映えた我がギター>
数週間待って、工房から帰ってきたギターを一目見て、
「ジョージのギターが出来た」と確信しました。
当時の写真がないのが残念ですが、注文どおりの深いウォルナット、
そして太陽光線の下で良くみると、
塗装の下の木目によって、濃いウォルナットがまだらに見え、
見る角度によって違う色に見えるような、
まるで本当に漆器のような色でした。
そして実際にステージで使って見た風景、
写真に撮ったギターの色を見て、
「我が意を得たり」の感慨をあらたにしました。
この写真は大学時代の我がギターのステージ上での晴れ姿です。
弾いているのは、実はこのHPの管理人さまです。(^^)
(肝心の私本人が弾いてる写真は全部モノクロ・・・(;;))
オリジナルのままだったらこうは映らないでしょう。
薄い茶色にくっきりと見えるペイントfホール、になってしまうでしょう。
それってジョージのカントリージェントルマン???
私だったらそう思ったでしょう。
だからリフィニッシュをやって良かったと思いました。
皆さんはどう思われるかわからないですが・・・。
ちなみにその工房の話では、
オールドグレッチのオリジナルの塗装を剥がして
リフィニッシュしたのは、あなたが初めてだ、
ということでした。(^^;)
オールドギターコレクターの世界では、
リフィニッシュするなんて暴挙に近い価値観なんでしょう。
その気持ちとってもよくわかります。
これでもオールドギターオーナーのはしくれですから。
でも、
それよりも大切なものが私にはあったということなんです。
余談になりますが、
この「色」についての考察は、
ジョージが所有した3本のカントリージェントルマン
のどれを見たか、によって変わってくるのは当然の理です。
1本めのいわゆるビッグミュート仕様のモデルは前出のように、
かなり鮮明な薄いブラウン色を
確認できるのですが、
押し上げ式ミュート仕様の2本め、3本めの色については定かな
写真がありません。
最近では、ジョージはこの押し上げ式ミュート仕様の内の
1本を濃い色にリフィニッシュした
のではないか、という説がアメリカから届いています。
真偽の程は定かではありませんが、
私にはどうしてもジョージのカントリージェントルマンは
濃いダークウォルナットにしか見えませんでした。
この3本の仕様の違い、
色の違いなどをつきつめて研究してゆくと、
紙面が足りませんし、
今回のレポートの本筋とは外れますので、
リフニッシュ説の新たな情報を集めた上、
また別の機会に書かせて頂きたいと思います。
<平成の大修繕>
長々と昔話をしてしまいました。
これからがこのリポートの核心です。
しかし、拙者、我がギターに対する思いをもう吐き出してしまったので、
もう書く気力が無くなってしまいました。
切腹。
うそ。
ちゃんと書きます。
そんなこんなで大学卒業後は、
我がカントリージェントルマンはギターケースの中にいる事が多くなり、
時々取り出してはボディやネック、
指板を拭いてポロポロと思い出すようにビートルズナンバーを
弾くという程度のことしかしてやりませんでした。
それがたたったわけではないと思うのですが、
それから10年ほど経過した頃から、
ボディのバインディングにヘンな泡が吹いてくるようになりました。
なんだろう?
触ってみると、
ポロポロと溶けるようにバインディングセルが剥がれ落ちてきます。
最初は1箇所、2箇所だったのが、あちこちに出始め、
さらに一つ一つの泡吹きが大きくなって
いきます。
しまいにはネックバインディングセルまで泡が吹くようになってきました。
・・・これはまずい。
そこで当時、よく楽器を預けていた都内某ビートルズ系楽器店に相談しましたが、
「ウチでリペアは難しい」とのこと。
(ここではリッケンのリペアに定評があるので、
グレッチはあまり乗ってくれない・・・)
「バインディングセル総取替えしかないかもね。」
「でもそれだとオールドの雰囲気無くなっちゃうんじゃない?」
・・・と友人の弁。
しかして、その通り。
バインディングセルは発売当時のオリジナルはもちろん白。
でもオールドギターのセルは経年変化で黄ばんできます。
それがオールドの味ではあるんだけど、
他のアッセンブリー(ビグズビーアームやコントローラー類)は
くたびれたオールド風なのに、
バインディングセルだけ真っ白のピッカピカっていう姿を想像すると、
違和感アリアリで、とてもそれはできない。
その時、他の楽器店のいくつかに問い合わせてみましたが、
いずれも私の希望を満足するような回答は
得られませんでした。
曰く、そういうリペアはやってない、
あるいは取り替えてもセルは白になりますとか、
それでも金額がべらぼうに高かったり(20万以上)と、
とてもリペアをする気にはなれませんでした。
どうしようかと思っているうちに、
またたく間に2年、3年が経過。
この頃になると、ギターをケースから出すことも少なくなり、
「あ、そういえばグレッチどうなったかな・・・」
おそるおそるケースを開くと、もうそれはひどい状態で、
泡を吹いたセル部分が化学反応を起こした
ように茶色く変色していたのです。
とても人前に出せないようなシロモノでした。
でも、リペアに出すという考えには至らず、
また1年2年が経過してゆきます・・・。
ジョージハリスンの訃報を聞いた直後の2001年暮れ、
HPの管理人さま宅へ赴く機会があって、
二人でジョージの曲をつま弾き、唄い、
ささやかな追悼会をやりましたが、その折り、
私の変わり果てた姿のギターを見て、管理人様がひとこと。
「茶人さまのカントリージェントルマン、
まるでジョージの死を悼むような悲しい姿ですね・・・。
手を入れてやりたいですね・・・」
「そうだよなぁ・・・・」
その頃になると、茶色く変色した部分のセルが、
1cmからひどいところでは5cmぐらいの単位で、
見事にごそっと剥がれ落ち、それがボディ、
ネックと数箇所にもわたり、それはそれは醜いギターに
成り果てていました。
そうは言っても具体的にどうするか案が浮かばず、
重いギターを持って東京まで運ぶのもおっくうで、
さらに仕事も忙しくなってギターのことまで気がまわらず、
またまた2年半あまりが経過します。
仕事が落ち着いた2004年の半ば、
このころから管理人様がバンド活動を再開されます。
彼から、もしバンドが出来て、
私のグレッチが稼動できたら使わせてもらいたいなぁ、
というありがたい要望を頂きました。
これがきっかけになりました。
もう私はこのギターを持ってステージに立つことはないでしょう。
でも親友がこのギターを持ってステージに立ってくれて
音を出してくれるのであれば、
私にとってもギターにとっても嬉しいことに違いありません。
この時はじめて、「リペアしよう」と本気で決心したのです。
管理人様ありがとう。
あらためて御礼申し上げます。
そしてその時、
ふと、20年前、オールドのカントリージェントルマンを私の要望通りに、
見事な色に仕上げてくれた、あの工房のことを思い出しました。
「あのお店は今でもあるかな?」
「そこでバインディングのリペアをやってくれないだろうか?」
一抹の不安はよぎりましたが、なんとか連絡をとってみようと思いました。
しかし手元には20年前の資料は残っておらず、
連絡先もわかりません。
工房の名前もうっすらとしか覚えておりませんでした。
インターネットがなければ、この時点であきらめていたでしょう。
便利な時代になりました・・・。
わずかに記憶にあるキーワードを頼りに、検索サイトから捜したところ、
それらしき店のHPにたどり着きました。
しかしお店の場所が若干違います。
でも電話をしてみるとずばり、20年前リフィニッシュを依頼した、あの懐かしきギター工房でした。
場所は随分前に移転したとのこと。
でも20年前に私のギターをリフィニッシュしたくれた
職人さん達は皆健在でした。
そしておそるおそるギターの現状とリペア可能かどうか、
費用はどれぐらいか等を聞いたところ、
嬉しい返事が返ってきました。
「1960年代初期のグレッチにはよくある現象で、
ウチでも何回かリペアしたことがあります。
方法は部分的なリペアと、
バインディング総取替えと二つ考えられますが、
ボディもネックも
もう剥げ落ちているところが数箇所あるとのことで、
部分的には無理ですから、総取替えになるでしょうか。
その場合、費用はボディ部分が10万、
ネック部分が2万で総計12万ぐらいでしょうね。」
そして肝心のバインディングセルの色はオールド風に出来るのか?
と聞いたところ、これにも良い返事が。
「出来ます。元々のセルの色はもちろん白ですが、
その上に薄い黄色の透明塗料を塗り重ねて、最後にクリア
塗料で仕上げると、やや黄ばんだオールド風のセルが出きると思います。」
やったぁー!
12万でそこまでできるんだったら、やりますよ〜お兄さん!
20万、30万を覚悟していた私は小躍りして喜び、
ギターを工房に持ち込むことにしました。
(しかし、費用的にはこれからが大変だったのですが・・・後述します・・)
余談ですが、最終的に出来上がったバインディングセルは
それはそれは見事なものでした。
全体のオールドの雰囲気を損なわずに、
やや黄ばんだセルバインディングが見事に再現されていました。
ちなみに「透明塗料」を使うというところがミソで、
ほとんどの店のリペアには「不透明塗料」が使われており、
これだとこのようなオールド風の色を出すのは極めて難しいようです。
要するに不透明なので、
徐々に薄い色を塗り重ねていって適当な色になったところでクリアを吹く
ということが出来ないので、
一発で色を調合しなくてはなりませんし、
色合いも下地の白が透けないので、オールドの味わいが
出にくいのです。
っていうか、やってくれないのです。
ちなみにこの「透明塗料」、ここだけしか使われてないそうです。
やってくれるぜ○○工房。これぞ職人魂。
当然のことながら、電話して間もなく管理人様のクルマに同乗し、
トランクにギターを入れていざ工房へ。
2004年6月13日のことでした。
(この時のリペア前に工房で撮った写真は、例の前出の4枚の写真です)
「見事にやられてますね」
工房の某お兄さん。(あとあと色々お世話になるやさしいお方でした)
「これはバインディングセル総取替えしかないですね。
ボディとネック両方やられてますから、
両方のセルを全部剥がして、セルの張替え、
そしてオールド感を出すための塗装を含めて、
費用は12万です。」
約束通りの受け答え。
ところがここからが、人間、ついでに欲というものが出るのであります。
「他に直したいところはありますか?」
くぅ〜 こんな殺し文句はありません!
そう言えば、音も随分前からモコモコしてきて不満だった。
最初ピックアップかなと思ったけど、
たぶん電気系統がやられているはず。
音自体のパワーが落ちて来てるんです。
あとネック背面の割れも気になっているし、
ネックとボディのジョイント部も剥がれ気味だし。
そうそう、ビグズビーアームの位置もセンターに
ないような気がするのは最初から感じてた。
えーい、この際、あらゆるところを見てください!
・・・ということで、
持ち込んだギターを隅々までプロの目で見てもらったところ、
「ネック起きが出てますね(「く」の字型にネックが曲がっている)
剥がれも所々ありますし、
これだとオクターブも合わなくなってしまいますね。
これを完全に調整すると、
指板調整・フレット交換ということになります。
音的な不具合は、おっしゃる通り電気系統だと思います。
ボディの内部の部品ですので、取り替えても
ルックスには影響ありませんから、
ピックアップセレクタースイッチや、ボリュームコントローラーなど
ひととおり交換すると良いと思います。
アームの位置ですか?・・・ああ、確かにセンター合ってませんね。
これは簡単にできますよ。」
「いやぁ、この際、全部やっちゃってください!」
総額12万の予定が、
総額22万
ほどになっちゃいました。
私はハメられたのでしょうか?(笑)
でもまあこの際、全快して戻ってきてもらったほうがいいよな。
22万、まあいいでしょ。やってくださいな。
「期間は2ヶ月程頂きたいのですがよろしいですか?」
いいですいいです。別に急ぎませんから。
傍らで目を白黒させて、
私と工房のお兄さんのやりとりを聞いている管理人様の姿が印象的でした。(笑)
こうしてギターを預けて1ヶ月ほど経った7月某日、
今回のレポートのためにリペア途中の愛器を撮影
したものが以下の写真です。
リペア途中の貴重な画像が撮れました。
手動式のミュートの構造や、
外されたフレット、見事に剥がされたバインディング、
ネック上部のセンター
割れ(まだ未加工)などが見てとれると思います。
注目は一部張られているバインディング写真です。
まだ白い新品のバインディングです。
違和感大アリですね。
これが見事に変身してゆくのであります。
工房から「完成」の連絡が入ったのは8月中旬。
さっそく受け取りにいった
二人が見たものは・・・?
ちょっとしたトラブル発生!
バインディング、その他の調整は出来ていたのですが、
ご覧の通り、ボディにひっかき傷のような目立つ
白い線が数本入ってしまっています。
これはもともとボディにはクラック
(表面のクリア塗装部分が割れて溝が出来ること。)
があったのですが、その溝に研磨用のコンパウンド
がぎっしりと入ってしまったことが原因でした。
これでは「傷だらけの天使」ならぬ、
「傷だらけのグレッチ」になってしまいます。
さすがにこれは工房側の落ち度で、
「再度リフィニッシュさせて頂かせて良いですか?
費用は通常9万のところを5万でけっこうですので」
と持ちかけられたので、
まあこのままではステージで使えないし、
前からクラックも多少気になっていたので
再度リフィニッシュも良いなと思い、OKの返事。
しかし、
費用は総額27万程に膨らんでしまいました。
とほほ。
いやぁ、色々ありますな。
その後、色の濃さの具合で何回か、工房に出向きます。
これも大変でした。
色は薄めの色から徐々に濃くしていって、
その度に工房に出向いて、色の具合を判断します。
この時、店の中ではなく、太陽光線の下で良くみないと
本当の色合いはわからないので、
店の外に出て、よ〜く見てから、
自分の中のイメージの色と重ね合わせ、結果、
2度ほどダメ出しを出してきてやりました。
(○内くんごめんね、2回もダメ出して)
最終的に完成したのは11月6日。
持ち込んでから5ヶ月あまりが経っていました。
長い長い、
そして何回も工房に通ってやっと完成したリペアでした。
「平成の大修繕」と言われる所以です。
これ以来、私がこの店を訪れると「グレッチの○○○さん」
と呼ばれるようになってしまいました。
ただでさえ、オールドグレッチをこれほど
大掛かりなリペアするのは稀だそうですし、
バインディングを総取替えしたのは、
工房創設20年、私で3人目だそうです。
そりゃ覚えられるわな。
オールドの所有者は、
みんなやはりオリジナルの素材を取り替えることには抵抗を感じるようで、
私のような総取替えではなく、
部分的な補修を選ぶ方が大部分だそうです。
受け取り直前のカントリージェントルマン、
最後の作業しているのは工房の松○さん。
最後まで辛抱強く、
やさしく付き合ってくれて、ありがとう!
そして工房の皆さん、
分業制なのでほとんどの人が私のギターにかかわってくれているはずです。
「平成の大修繕」に寄与くださってありがとうございます。
ここに改めて御礼申し上げます。
<費用明細>
今回の「平成の大修繕」の費用の明細です。ご参考までにしてください。
・ボディバインディングセル交換(100,000円)
・ネックバインディングセル交換(20,000円)
・フレット交換(35,000円)
・ナット交換(6,000円)
・指板調整(5,000円)
・ネック割れ・ジョイント剥がれ・指板剥がれ接着(25,000円)
・ジャック交換(2,050円)
・ボリューム交換3個(2,800×3=8,400円)
・ピックアップセレクタースイッチ交換(4,500円)
・ビグスビーアームセンター調整(6,000円)
・全塗装(50,000円)
総額 261,950円 消費税込み 275,504円
<原因と対策>
ここからは今回の件についての、
工房のベテランオーナーとの雑談の中でのお話です。
なにかのご参考になればと思います。
今回の私のギターの症状は、
'60年代初期のフル・セミアコタイプのグレッチギターに限って
起こるそうです。
他のギターメーカーのフルアコ・セミアコでは見たことがないそうです。
当然、ギブソンなどには起こらないとのこと。
なぜそうなのかははっきりとは断定できません。
文中に書いた、一流メーカーとの素材の差、作りの差ということ、
あるいは、日本の高温多湿の気候、オーナーの扱い、
ということもあるでしょうが、
それにしても起こるメーカーと製造年代がかなり限定されていることから、
ある程度、素材と作り方によるものが推測される、と言います。
それはセルバインディングの素材と接着剤の相性です。
正確に言うとズバリ接着剤です。
'60年代初期のグレッチのセルは多くが白・黒・白の3層から成り、
これがボディに接着されて
いるのですが、それぞれに使われた接着剤が「アセトン」という接着剤です。
これが経年変化の中で、
バインディングの素材であるセルロイドと化学反応を起こして、
今回のような現象になるのではないかと思われるそうです。
グレッチはそれに気づいたのかどうかはわからないのですが、
'60年代中期以降は、「アセトン」ではない別の接着剤を使用しはじめたらしいのです。
だから、これ以降のグレッチにはこのような現象は起きないのです。
グレッチギターオーナーでこの時期にあてはまる
フルアコ・セミアコタイプのギターをお持ちの方に
アドバイスするとしたら、どうでしょうか。
まず、まだ現象が起こっていない方は幸運です。
しかし、いつ起こるかわかりません。
常に気を配ってセルバインディングの状態を観察しておいたほうが良いでしょう。
また、既にこの現象に見舞われている方はどうすればよいのでしょうか。
まだ泡の吹き始めで、
茶色く変色していない程度であれば、
そこに接着剤を浸透させ化学変化を抑える
やりかたが効果的です。費用も1cm程度なら、
一箇所1万円程度ということで、軽症であれば
すぐ対処したほうがいいでしょう。
オリジナルの素材にこだわる方はなおさらです。
早期発見、早期治療が一番ということになります。
そう、まるでガン細胞のごとく、セルからセルへと転移してゆきます。
ただ、私のようにセルが剥がれ落ちてしまうほど末期的な症状が起きている場合は、
残念ながら、この方法ではもはや対処不能です。
元の姿を取り戻すには、
私と同じようにバインディング総取替えしか方法はないでしょう。
その場合、問題になるのは、
オリジナルの素材にどこまでこだわるのか、
それとの兼ね合い、
そしてオールドの雰囲気を損なわないようなリペア、ということになるでしょう。
幸運にも私は末期的な症状だったにもかかわらず、
お金は随分かかりましたが、元の美しい姿を
取り戻すことが出来ました。
その理由のひとつに、私はオールドの雰囲気は壊したくなかったけれども、
オリジナルの素材にあまりこだわらなかったから、
ということになるでしょうか。
あくまで弾かれてこそ、のギターです。
でも、それもこれも良いお店との出会い、
信頼できるギター職人との出会いに
よって実現できたものです。
本当にリペアして良かった! 皆様ありがとう。
<リペア後の愛器>
まず音ですが、格段に良くなりました。
今まで低音がモコモコし、高音の伸びもイマイチだったのですが、
工房で電気系統を全修理してからは、
パワー、音質共に見違えるほどのグレッチの音になりました。
またフレット交換によって、これも格段と弾きやすくなりました。
もっと弾き込んでゆけばまだまだ良くなるということです。
指板調整による、オクターブの音合い、
これについては音感が鈍い私にはよくわかりません。(笑)
でもプロがやったのだから、間違いないでしょう。(笑)
最後にルックス。これは現在の写真を見て判断して頂きましょう。
ボディの色、
そして見事に復活したバイディンングセルのオールド風味
などにご注目くださいませ。
<最後に>
ジョージが亡くなって3年余りが経過しました。
今、彼が使用した3本のカントリージェントルマンの
実物はどこにあるんでしょうか。
以前、彼の所有するギターを一箇所に集めた写真が公表されましたが、
その中にカントリージェントルマンはありませんでした。
盗まれた、壊れた、どこかの博物館に展示されている、
と諸説あって真偽のほどはあきらかではありません。
私がもし、ジョージの使用した数本の
カントリージェントルマンの内の1本の実物を目のあたりにしたら
どう思うでしょうか。
想像してみますと、複雑な気分です。
たぶん、私のギターよりウォルナット色は薄いのでしょう。
でも何と言っても実物のジョージのグレッチです。
それを見たら私の価値観はどう変化するのでしょう。
変わらないのでしょうか。
でも、もしかしたら、私の今までのイメージが全て吹っ飛んで、
見たまんまのジョージの実物どおりの
色にまたリフィニッシュするかもしれません。
それはそれでいいかな、と思っています。
それまではこの「マイ・ドンズバギター」を傍らに置いておこうと思います。
管理人様、機会があったら是非ステージで使ってね。
客席から我が愛器を眺める日を楽しみにしております。
長いお話に付き合ってくださいましてありがとうございます。
皆様のなんらかのお役に立てれば幸いです。
なお、本文中に出てきた工房のことや、
リペアのことについてもっと詳しいことを知りたい方、
あるいはジョージのカントリージェントルマンのリフィニッシュ説の
新しい情報等をお持ちの方、
ぜひHPのほうへご連絡ください。
出来る限りの助言・情報交換をさせて頂きたいと思います。
最後に我が拙文をHPに掲載してくださった
管理人様に感謝申し上げて終わりにしたいと思います。
それでは皆様ありがとうございました。
2005年初春