特定秘密保護法案を問う(4)「検証できてこそ成熟社会」沖縄返還交渉を担当した吉野文六氏
2013年10月25日
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極秘、極秘という世の中は不幸じゃないですか-。横浜市内の自宅で神奈川新聞社の取材に応じた元外務省アメリカ局長の吉野文六氏(95)は語り掛けるように、言った。沖縄返還交渉に絡む密約を否定し続けた後、一転認めるに至った同氏は、政府が成立を目指す特定秘密保護法に反対の意思を明確にした。「あらゆる秘密を国民が検証できる世の中こそ、成熟した社会だ」
■機密は職責で守れ
-特定秘密保護法案が25日にも閣議決定される見通しだ。
「防衛でも外交でも対外的な交渉事では、国民にすぐに広く共有すべきといえない高度な情報が存在する。国が一時的に機密を抱えること自体は否定しない。だが、公表する時期や方法を工夫しながら、あらゆる情報がのちに公開されるべきだ。国民は国が進めているあらゆることを知るべきで、それが権力の暴走に対する歯止めになる」
-法案では機密漏えいの罰則が最高で懲役10年になり、強化される。
「おかしなことだ。機密を守ることは国家公務員が自身の職責とプライドを懸け自主的に管理されるべきだからだ。漏えいについては、これまでも国家公務員法、自衛隊法に基づいてやってきた。今まで通りやればよい話だ。秘密の守り方は法で縛る以外にもいろいろある。本当に守るというなら、口伝でもなんでも方法はいろいろある」
「法で縛るようにしていくのを許せば、あらゆる問題で公務員のしてはならないことを法律で定めていかなければならなくなるのではないか」
-同法が施行された場合、どのような影響が考えられるか。
「秘密に当たらないものでも、あらゆる情報が極秘扱いになるだろう。罰則を恐れるのは自然なことだ。国の情報がなんでもかんでも極秘になってしまえば、公務員同士や省庁間で情報が共有できない事態が生じかねない。何か問題が起きたとき、組織の中で皆が考え、判断をすることができなくなり、国の組織としての力が鈍ることになる」
-法案には機密を扱う公務員の適性を評価する規定がある。
「恣意(しい)的な人事運用がなされる可能性がある。そうすれば、せっかく省内に有能な人材がいても、組織として本来の機能を発揮できないという事態が起こり得る。それこそ国民の不利益といえるのではないだろうか」
■判断材料なくなる
-同法は社会のためになると思うか。
「例えば今、大火事が起きていたとする。逃げるなり、消すなりすべきところを秘密にしていれば当然、犠牲は大きくなる。そんなことより、情報を伝え、『火事はどこだ、どこだ』となって、一刻も早く消す努力をするようにするのが、社会がなすべきことではないか」
-外務省機密漏えい事件のような出来事が再び起これば、関係者が罰せられる可能性がある。
「報道機関を罰するようなことはやってはならない。新聞記者というものは、極秘であったとしても情報を国民に知らせることを考える職業だ。そのために働いていることは国民にとっても非常に必要なことだ。新聞なりラジオなりテレビが真実をなるべく早く国民に伝えられるようにしておかないといけない。国民が考える材料がなくなれば、あらゆる問題が国民の問題でなくなる」
「国が機密を一時的に抱えることはあっても、時間を経ればあらゆる秘密を国民が知ることができる。そういう世の中こそが成熟した社会ではないだろうか」
■漏えい事件の教訓
-外務省機密漏えい事件をどう振り返るか。
「外務省の一事務官がうぬぼれたのか、記者におだてられたのか、情報を漏らすという職責以上のことをやってしまった。次官や外務審議官を経由し、ワシントンに渡る最終的な電報になる以前のものを記者に見せた。本当におかしな話だった。そういうことは(国家公務員として)話にならない」
-事件からどんな教訓が残されたか。
「密約といわれる内容については、当時の大蔵省のところで日本がアメリカに費用を払うということで話がついていた。外務省の私のところには、その内容は知らされていなかった。大蔵省は最終段階になってから交渉の中身を伝えようとしていたが、その途中の電報案が漏れた。それが、のちに『機密漏えいだ』となってしまい、訳が分からなかった」
「どうしてそうなったか。昔から各省は自分のところの秘密を他の省に知らせない風習があるからだ。それを本当にやめた方がいいというのが教訓の一つだ。各省の役人は、省は違っても同じ国の役人として共通の問題意識を持ち、互いに情報を共有してはじめてできる仕事もあるはずだ。特定秘密保護法が施行されれば、そういうことがますます遠のく。国家公務員は働きにくくなる」
-なぜ密約の存在を認めるようになったか。
「米国が、25年経てば文書を公開する制度にのっとって(密約の存在を示す)文書を公開したことで、否定し続けても意味がないと思った。いつかは国民に検証がなされる問題だったと思う」
-特定秘密は内閣の承認があれば永久に公開されない可能性がある。
「例えば米国など外交の相手国が発表しているのに、日本だけ公開しないのなら事態がよけいに難しくなるだけだ」
◆外務省機密漏えい事件
沖縄返還協定が調印された1971年6月、毎日新聞記者だった西山太吉氏が、沖縄の米軍用地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりするとの密約に絡む外務省の機密公電のコピーを入手。72年4月、西山氏とコピーを渡した同省女性事務官が国家公務員法違反容疑で逮捕され、有罪となった。2000~02年に密約を裏付ける米政府公文書が見つかり、沖縄返還交渉を担当した元外務省アメリカ局長・吉野文六氏は密約の存在を認める立場に転じたが、政府はその後も密約の存在を認めていない。特定秘密保護法案では「国民の知る権利の保障に資する報道・取材の自由に配慮する」としているが、国会審議を担当する森雅子少子化担当相は罰則を科す取材活動について「西山事件に匹敵するような行為と考える」との見解を示している。
■機密は職責で守れ
-特定秘密保護法案が25日にも閣議決定される見通しだ。
「防衛でも外交でも対外的な交渉事では、国民にすぐに広く共有すべきといえない高度な情報が存在する。国が一時的に機密を抱えること自体は否定しない。だが、公表する時期や方法を工夫しながら、あらゆる情報がのちに公開されるべきだ。国民は国が進めているあらゆることを知るべきで、それが権力の暴走に対する歯止めになる」
-法案では機密漏えいの罰則が最高で懲役10年になり、強化される。
「おかしなことだ。機密を守ることは国家公務員が自身の職責とプライドを懸け自主的に管理されるべきだからだ。漏えいについては、これまでも国家公務員法、自衛隊法に基づいてやってきた。今まで通りやればよい話だ。秘密の守り方は法で縛る以外にもいろいろある。本当に守るというなら、口伝でもなんでも方法はいろいろある」
「法で縛るようにしていくのを許せば、あらゆる問題で公務員のしてはならないことを法律で定めていかなければならなくなるのではないか」
-同法が施行された場合、どのような影響が考えられるか。
「秘密に当たらないものでも、あらゆる情報が極秘扱いになるだろう。罰則を恐れるのは自然なことだ。国の情報がなんでもかんでも極秘になってしまえば、公務員同士や省庁間で情報が共有できない事態が生じかねない。何か問題が起きたとき、組織の中で皆が考え、判断をすることができなくなり、国の組織としての力が鈍ることになる」
-法案には機密を扱う公務員の適性を評価する規定がある。
「恣意(しい)的な人事運用がなされる可能性がある。そうすれば、せっかく省内に有能な人材がいても、組織として本来の機能を発揮できないという事態が起こり得る。それこそ国民の不利益といえるのではないだろうか」
■判断材料なくなる
-同法は社会のためになると思うか。
「例えば今、大火事が起きていたとする。逃げるなり、消すなりすべきところを秘密にしていれば当然、犠牲は大きくなる。そんなことより、情報を伝え、『火事はどこだ、どこだ』となって、一刻も早く消す努力をするようにするのが、社会がなすべきことではないか」
-外務省機密漏えい事件のような出来事が再び起これば、関係者が罰せられる可能性がある。
「報道機関を罰するようなことはやってはならない。新聞記者というものは、極秘であったとしても情報を国民に知らせることを考える職業だ。そのために働いていることは国民にとっても非常に必要なことだ。新聞なりラジオなりテレビが真実をなるべく早く国民に伝えられるようにしておかないといけない。国民が考える材料がなくなれば、あらゆる問題が国民の問題でなくなる」
「国が機密を一時的に抱えることはあっても、時間を経ればあらゆる秘密を国民が知ることができる。そういう世の中こそが成熟した社会ではないだろうか」
■漏えい事件の教訓
-外務省機密漏えい事件をどう振り返るか。
「外務省の一事務官がうぬぼれたのか、記者におだてられたのか、情報を漏らすという職責以上のことをやってしまった。次官や外務審議官を経由し、ワシントンに渡る最終的な電報になる以前のものを記者に見せた。本当におかしな話だった。そういうことは(国家公務員として)話にならない」
-事件からどんな教訓が残されたか。
「密約といわれる内容については、当時の大蔵省のところで日本がアメリカに費用を払うということで話がついていた。外務省の私のところには、その内容は知らされていなかった。大蔵省は最終段階になってから交渉の中身を伝えようとしていたが、その途中の電報案が漏れた。それが、のちに『機密漏えいだ』となってしまい、訳が分からなかった」
「どうしてそうなったか。昔から各省は自分のところの秘密を他の省に知らせない風習があるからだ。それを本当にやめた方がいいというのが教訓の一つだ。各省の役人は、省は違っても同じ国の役人として共通の問題意識を持ち、互いに情報を共有してはじめてできる仕事もあるはずだ。特定秘密保護法が施行されれば、そういうことがますます遠のく。国家公務員は働きにくくなる」
-なぜ密約の存在を認めるようになったか。
「米国が、25年経てば文書を公開する制度にのっとって(密約の存在を示す)文書を公開したことで、否定し続けても意味がないと思った。いつかは国民に検証がなされる問題だったと思う」
-特定秘密は内閣の承認があれば永久に公開されない可能性がある。
「例えば米国など外交の相手国が発表しているのに、日本だけ公開しないのなら事態がよけいに難しくなるだけだ」
◆外務省機密漏えい事件
沖縄返還協定が調印された1971年6月、毎日新聞記者だった西山太吉氏が、沖縄の米軍用地の原状回復補償費400万ドルを日本側が肩代わりするとの密約に絡む外務省の機密公電のコピーを入手。72年4月、西山氏とコピーを渡した同省女性事務官が国家公務員法違反容疑で逮捕され、有罪となった。2000~02年に密約を裏付ける米政府公文書が見つかり、沖縄返還交渉を担当した元外務省アメリカ局長・吉野文六氏は密約の存在を認める立場に転じたが、政府はその後も密約の存在を認めていない。特定秘密保護法案では「国民の知る権利の保障に資する報道・取材の自由に配慮する」としているが、国会審議を担当する森雅子少子化担当相は罰則を科す取材活動について「西山事件に匹敵するような行為と考える」との見解を示している。
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