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短めのお話ですよー
これからは、綾視点が増えていくと思います!
「金髪妹とご挨拶」

 今日から綾が小学校に登校することになっている。

 どうしよう、めっちゃこわい。大丈夫かな……俺もいっしょに行ったほうがいいかなぁ? でも大学……いや、今日の講義は昼からだからいけるな、よしよし大丈夫!

 日に日に過保護レベルが上昇していくのを実感しながら、いま俺こと桧森悠斗はお弁当を作っている。大事な妹たる綾の小学校デビューに向けて、やる気マンマンなのである。あ、弁当は俺のだからな! 綾は学校で給食あるからな。

 そんな早朝6時ごろである。

「そろそろ綾起こさなくちゃな……」

 弁当作りをいったんやめて、綾を起こしに行くことにした。昨日は緊張して眠れないと言っていたが、いっしょに寝るかと聞いたら『そ、それは……またこんどっ』と逃げてしまった。もう少し頼ってほしいというのが本音だけど、あまり望みすぎてもダメなのもはダメなのだ。俺たちは兄妹なのだから、ある程度の距離を保って支えあわなくちゃな。まあ俺にとっては、そこに居てくれるだけで充分な支えになってるんだけどな。

 ノックして、声をかける。

「もしもーし。綾、朝だぞー」

 俺と綾とのお約束その1。朝起こすときに限っては、ノックして返事がなくても勝手に部屋に入ってよい。というわけで。

「入るぞ綾……よく寝てるじゃないの」

 すやすやと眠る、かわいい寝顔のお姫さまがそこにいた。ベッドの上で、布団に(くる)まって寝息を立てている。静かで、さらに女の子らしいかわいい部屋なので、まるでこの部屋だけ神聖な空間のようにさえ思える。……いや、ある意味では神聖な空間か。女の子の部屋というのは。

 このまま寝顔を眺めておくのも悪くはないけど……さすがに起こさないと、学校とか色々マズイよな。

「あーや。ほら、起きろー」

 肩を軽く揺すってやると、綾は『みぅ……にゅ……』と声をあげながらもぞもぞしている。なにこのかわいいの、持って帰りたい。

「早く起きないと初日から遅刻だぞ? あやー」

「んんぅ……あとごふん……」

「そんな古典的な……ほら早く起きる!」

 バサッと布団をはがしてやると、綾はびくっと体を震わせて飛び起きた。

「な、なに……なにかあったのゆーと……?」

 きょろきょろと周りを見回しながら問いかける綾。対して俺は至極普通に『朝だぞ』とだけ答えた。

「早く着替えて、祖母ちゃんたちに挨拶いくぞー」

「んぁ……あい……」

 綾の寝巻きは、なぜか扇情的なキャミソールである。綺麗な髪とあっていて、彼女だけ洋画から出てきたかのように見えてしまう。小さな身体ではあるものの、しっかりと女性らしい部分は持ち合わせているようだ。

 綾と暮らし始めてからは初めての連続だが、そういえば綾の肌をこうやって見るのも初めてだった。白い肌と金色の髪……白人としての血を、この子は多く引き継いだのだろう。母親の遺伝子は劣勢だったのか。

 しみじみと感慨深く思っていると、不意に綾が俺のほうを見た。少し恥ずかしそうにだ。……どうした?

「着替えるから……ゆーとは出てって……」

「ごめんなさい」


 火をつけた線香を立て、鐘を鳴らす。そして手を合わせ、いつものように祖父母へ挨拶をする……これが俺のもともとの日課であり、これからの俺たちの日課でもある。先に亡くなった祖父ちゃんの仏壇も、今では祖父ちゃん祖母ちゃんふたりの仏壇だ。また掃除してあげないと、綺麗好きな祖母ちゃんに怒られちゃうな……よし。行ってくるよ、祖父ちゃん、祖母ちゃん。

「……綾、そろそろ朝ごはんにしようぜ」

「待って。いまおじいちゃんに、ゆーとのことまかされてるから」

「そっか」

 祖父ちゃんなら本当に言いそうだ……いや、もしかしたら本当に言ってるのかもしれないな。綾に、俺のことよろしくって。

 死んでからも世話かけっぱなしでごめんな、祖父ちゃん。これからは、綾のためにも頑張るから、祖母ちゃんといっしょに見ててくれ。

 すっと立ち上がり、綾が俺の背中を押した。

「もういいよ」

「よし。今日はお米だぞ。味噌汁と焼鮭もある」

「おお……日本の食卓だねゆーと」

「ちなみに祖父ちゃんの好物でもあるから、あとでお供えしておこうな」

「わかった。あ、そうそうゆーと」

「ん?」

「おばあちゃんが、たまには『おぶつだん』のお掃除しなさいって」

「……うん」


「ずずず……もむもむ」

 綾が日本食を頬張っているのを見ていると、やっぱり日本の子だな、と思う。
 ハーフかつ金髪である綾は、少々日本人離れした顔立ちをしているように見えるのだが、かといって日本人に見えないわけでもない。外国人だと言われればそう見えるし、日本人だと言われればそう見えるという、ギリギリの境界くらいにあるのだろう。

 それでも若干外国人気味に見えるのは、やはり金髪だからだろう。色艶のある綺麗な金髪は、俺のような黒髪では表せないくらいにしっとりしていて、まるで金色の粒子を纏っているかのようだ。それが本物の金髪というものなのだろうか……今までは染めた金髪しか知らなかったので、新たな発見だ。

「もぐもぐ……どうしたの?」

「あ、ああ、いやなんでもないさ。ごはんおかわりは?」

「お味噌汁ちょうだい」

「はいよ」

 見惚れてしまっていたようだ……次からは気をつけよう。

 差し出されたお碗に味噌汁を注ぎ、綾に渡す。これだけのやり取りだというのに、俺は昔のことを思い出してしまっていた。祖父ちゃんと祖母ちゃんと俺の3人で食べた朝ごはんのことを。

 祖父ちゃんと祖母ちゃんが並んで座って、その対面に俺が座る……これが定位置だった。朝のメニューは味噌汁とお米を欠かさなくて、俺はいつもおかわりしてた。それだけだったのに、毎日が楽しくて……。

 そんな日々がまた戻ってきた――いや、綾がくれたのかな。回りまわっちゃあ、あの母親が提供したってコトになるんだろうが……俺にとっては、いまは綾って存在がすべてなんだ。たったひとりの妹……俺が護ってやらないでどうするんだ。

「ありがとうな」

「ふぇ?」

「いや……なんでもないさ」
「……へんなゆーと」

 ご飯も食べ終わったので、俺たちはそれぞれの支度を整えるべく、部屋へ向かった。支度といっても俺の場合はほとんどカバンに突っ込んだままなので、たいしてすることがない。だから綾の手伝いをしてやりたいんだが……

「ゆーと。着替えるのてつだって」

「……はいよ」

 まさか制服への着替えを手伝わされるとは思っていなかった。いわく、東京では私服だったから、制服の着方が分からないのだそうだ。こんなもん普通の服といっしょなのだが、まあ頼ってくれているので、応えないわけにはいかないだろう。

「そうだ、綾?」

「んー」

「髪長いけど、結んだりしないのか?」

「めんどうだから、これでいいの」

「ふうん……ポニーテールとかかわいいと思うんだけどな」

「……じゃあ、やって」

「リボンある?」

「ない」

「じゃあ買いに行かなきゃな。この日曜日に、ちょっとお買い物行こうか」

「ジャスコに?」

「いや、もうちょっと大きいところ。ショッピングモールってやつだ」

「109とか、東急ハンズとか?」

「……調べときます」

「うん」

 週末は、どうやら妹に捧げることになりそうだ。バイト……がんばらなきゃな。


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