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特定秘密保護法

2013年10月26日
 建造時の大和型戦艦は機密の塊だった。軍機、軍極秘、極秘、部外秘と4段階あった秘密区分では、もちろん最高ランクだ。艦名は伏せ、「A-140」などと符丁で呼んだ。

 機密保持のために戦艦1隻と駆逐艦3隻、潜水艦1隻を建造するという架空予算をでっち上げて要求した。海軍は当時の大蔵省も欺き、座乗予定の連合艦隊司令長官・山本五十六さえ見学は難しく「自分が乗る艦なのに」と嘆いた(宝島社「戦艦大和砲声の謎」)。

 特定秘密保護法案の最終案が昨日、国会提出された。国民の「知る権利」や「報道・取材の自由」に配慮するとの記述を加え、「著しく不当な方法」の取材活動でなければ処罰しないとの文言も盛り込まれたが「不当」の範囲は不明確である。

 特定秘密を扱えるかどうかを判断する「適性評価」の実施も法案に盛り込まれているから、内部告発する可能性がある人を事前に排除できる。「知る権利に応えよう」などと口にする国家公務員は本流から外され、霞が関で出世するのは秘密主義者ばかりになろう。

 がんじがらめの秘密主義を貫いて進水した「大和」と大和型戦艦2番艦「武蔵」だったが、太平洋戦争の戦局を挽回するような働きはできず、「大和ホテル」などと揶揄(やゆ)された。結局多くの将兵とともに沈み、太平洋の鎮魂の碑となった。

 天皇から新造艦の大きさを質問された海軍は「側近に親米的スパイがいる」と教えなかったそうだ。武蔵では図面紛失事故があり、容疑者とされた工員は憲兵隊の峻烈(しゅんれつ)な取り調べを受けた。戦前を彷彿(ほうふつ)とさせる法は国を危うくするだけだ。

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