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 プロローグは暗い話となっています。苦手な方は注意して下さい。
プロローグ
 私は未来を見る事ができる。
 そう言っても、誰も信じてくれない。
 私は車にかれた事がある。
 幼い頃の話だけど当時、この事は誰もが信じた。
 後遺症の一つ、右目がオッドアイになったから誰もが信じた。
 オッドアイは簡単に言うと、片方の目が元々の色と変わる異常。猫などに見られるけど、人にはあまりないらしい。
 以後、いじめを恐れた私は眼帯をする事にした。鏡で自分を見る事がたまらなく嫌になった。
 後遺症はもう一つ、先程話した未来を見る事ができる謎の症状。それは唐突に見せられ、後々同じ事がこの世界でも起きる。私もこの未来予知についてはよく分からない。
 私は二つの後遺症を家族以外の人達に秘密にしようとした。
 でも、そうはいかなかった。
 小学校に行けば、目立つ眼帯を馬鹿にする生徒が大勢いた。無理矢理眼帯を外し、右目の色を見た人は私を苛めた。
 歯を食いしばり、苛めに耐える日々が続く。
 しかし、ある冬の日に転機は訪れる。私の未来予知によって。
 私はそれに出ていた三人組に予知の内容を話した。彼らは普段、通学路ではない山沿いの道で帰宅する人達だったが、今日だけは通学路で歩いて、と頼み込む私。しかし、彼らが出した返事は私への皮肉だった。
 「俺達はこの道の方が近いんだ。嫌だよ」
 「というか、未来で私達が死んでいる?意味分かんないよ」
 「漫画の読みすぎだよ、この眼帯女」
 あはははは、と哄笑しながら彼らは帰宅していった。遠ざかる彼らの背中を見つめ、私は密かにこう思った。

 「……死ね」

 そして、翌日にその三人組は亡くなった。私が予知した雪崩に巻き込まれて。
 雪崩が起きたと知った後、私は後先考えず現場まで飛び出した。
 現場は言うまでもなく三人組の帰宅路。山沿いの狭い道を駆け抜け、やがて道にはみ出た雪の斜面が見えた。
 それは絶望する程膨大な規模の雪崩。巻き込まれたら助からないとすぐに分かった。
 それでも、私は小さな手で雪を掻き漁った。寒い中、手袋もなく、赤くなっても、引きちぎれそうに痛くなっても、涙を流しながら。
 人間は大自然の力になす術もない。無駄な努力だと分かっていても私は手を動かし続けた。
 その小さすぎる努力も、後で急行してきた警官達によって止められてしまった。泣きながらジタバタ暴れても、大人の屈強な腕力に敵う訳もなかった。
 結局、私はこの予知を変えられなかった。
 あの三人組の下校を止めていれば、まだ彼らは生きていたのかもしれないのに。
 ……私のせいだ。
 死ね。そう思った事を私は後悔し続けた。

 それ以降、私は自然、特にあちこちで見かけられる植物が嫌いになった。
 校庭の無数の植物や、家で母が営む花屋に置いてあった満開の花がたまらなく嫌だった。
 私は人間が嫌いになった。
 家族以外の人間が私を疫病神と責め、苛めに拍車を掛けた。暴行も日常茶飯事となり始めていた。
 そして、私は私が嫌いになった。
 何もできなかった自分に腹が立った。あの三人組を助けられなかった自分の無力さに絶望した。
 私の日常は、平穏のへの字もなくなろうとしていた。

 これを見かねたのか、あの事故から数週間が経った日に私達一家は故郷を逃げるように引っ越した。母の要望で日本の首都、東京へ。
 しかし、眼帯をした私に改善の兆しは全くなかった。
 ここでも眼帯を嘲笑する。そして、苛められる。
 また同じサイクルが私を絶望に叩き落とす。
 どこに行っても、私は馬鹿にされる。この目のせいで。
 私は呪われている。このオッドアイに。
 こんな人生、もう嫌だ。

 ……死んでやる。

 夜の無人の踏切。電車が来る事を知らせる音がけたたましく鳴ってから、故郷では見られなかった長い遮断機が下される。
 この遮断機の向こうに、私の安住の地がある。これを潜れば、私は楽になる……。
 私は迷う事なくバーを潜り抜けようとしたその時……。


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