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第2話 現状確認(1)
心地よい風と、光を浴びて、僕の意識は戻ってきた。
目の前に広がるのは、どこまでも青い空。体の下にある草は柔らかく、心地よい感覚を与えてくれる。
気を失う前に感じた、胸―心臓をわしづかみにされるような感覚はなく、とても心地よい気持ちだ。
「……へっ?」
確か僕は、自分の部屋にいたはずだ。そこで倒れたのなら、目覚めるのは病院、少なくとも自宅の自室であるはず。外で寝ているなんてことはないはずだ。
「夢……では無いみたいだな」
体の下敷きになっている草を感じてそう判断し、起き上がる。
「これも現実か……」
実は、起きた時から感じていた体の違和感。背中の翼と、声の変化。自分の胸についていて揺れる塊。そしてあるべきはずの物の消失。そこから導き出される一つの結論。
「どう言うことだ? これは……」
翼はともかく、自分が女になったということだ。
改めて自分の格好を確かめる。
「黄色のTシャツと赤いスカート。足元はサンダル?」
どう考えても、ちょっと出かける服装で、こんな草原の真っただ中にいるものではない。あと、感触から、下着はきっちりついているようだ。
「羽は本物か……」
白い翼を触ると、触られた感じがある。自分の意思で動かすこともできた。根元まで触ってみたところ、服に穴を開けているわけでもないのに、服を突き抜けているようだった。
「銀色」
髪の色だ。普通に短かった髪が、背中の真ん中あたりまで伸びていた。さらさらとして心地いい感触。
「顔は、よくわからないな」
鏡がないのでよくわからないが、たぶん女の子の顔だろう。僕の顔のままだったら怖い。体の方は確かめない。彼女いない歴=年齢と言うひきこもり人間には、刺激が強すぎる。
「♪~♪♪~♪」
現状確認をしているところに、聞きなれた音楽が流れる。
「これは……」
レムリア・オンラインでGMメールの設定音だ。
「メール? なんでこの音楽が? メニューを開け……」
言葉が止まる。目の前にメニューが表示されたのだ。その隣にステータス。下にはアイテム欄まで見える。
「なんだ……これは……」
恐る恐るメニューに手を伸ばし、点滅しているメールを触ってみると、すぐに反応しメール画面が浮かび上がる。
「なんだこれ?」
メールの内容を見て、さらに疑問が膨らむ。
『榊元さま
あなたは今混乱していると思います。その混乱を収めたいと思っているなら、私のところまで来てください。
私は、ホームで待っています』
「ホーム? ホームって……」
状況はよくわからないが、ホームの心当たりはある。
先ほど出て、今も目の前にあるメニューの中にある、ホームのことだろう。つまり、レムリア・オンラインで一人一人が貰える、個人空間のことだろう。
「それならここは、レムリア・オンラインなのか?」
VR化するという話は聞いたことがない。いや、運営側が、VR化をとことん嫌っていた。方針が変わったとしても、ここまですぐに出来るはずがない。
「考えても仕方ないか」
思考をさえぎるように呟き、メニューに手を伸ばす。
「さーて、鬼が出るか蛇が出るか」
困惑しながらも、なぜかわくわくしてホームのボタンを押す。すると、すぐに目の前の景色がぶれ、真っ白な空間が広がった。
「なっ」
レムリア・オンラインなら、ここにはかなり金をかけた家になっているはずだ。なのに真っ白って……
「……メニュー、うっとうしい」
右を見ても左を見ても、正面にメニューが表示され、視界を遮るのだ。
「消えるよう念じれば消えますよ」
不意に横から聞こえた、聞き覚えのある声のアドバイス。声のする方を見ようとしたが、メニューが邪魔になることに気付き、アドバイス通り消えろと念じてみる。
「おお~。消えた」
「言ったとおりでしょう」
改めて声のする方を見る。
「はじめまして、で良いのでしょうか?」
ウエーブの掛かった長い黒髪、夜の空を思わせる深い黒の瞳、無邪気な笑みを浮かべた、三対の翼をもつ少女。ゲーム内で何回も見たその姿が、映像でなく、実体としてそこにあった。
「女神レムリア……」
「ようこそこちらに、榊元……いや、ビリノアさん」
「あなたがいるってことは、ここは……」
「はい。貴女の予想どおりです。私の名前の付いた世界、レムリアです」
ゲームの世界に引きずり込まれた、というところだろうと予想していたが、予想通りだった。僕のことを『ビリノア』と呼んだことからも確信できる。
「正確には少し違います」
レムリアの説明によると、ここはレムリア・オンラインと地形や国家、種族等は同じだが、時代や、細かいところで違うらしい。
「いまは、レムリア歴563年です」
「ゲームでは、310年だから、約250年後ってことか」
メインシナリオであった、邪神復活もすでに阻止しているらしい。
「問題がないわけではありませんが、おおむね平和であると言っていいでしょう」
「世界については理解した。じゃあ、なぜ僕はここにいるんだ? しかも性別も変わっているし……」
「それについては、私よりも適任がいます」
そう言って、レムリアはなにもない空間に手を突っ込む。しばらく探っていたが、やがて空間から一人の人物を引っ張り出す。
「なにするの、レムリア姉」
引っ張り出されたのは、金髪碧眼のツインテール幼女だった。どことなく猫を思わせる雰囲気を持っている。
「なにじゃないでしょ。説明すると言ったのは、あなた自身でしょうが」
「うぇ、もう来てるの?」
「目の前にいるでしょうが」
女子二人の間に入っていく勇気はない。彼女いない歴=年齢をなめんな。
「うぁ、ごめんなさい」
「謝らなくていいから、説明を頼む」
「うん。まずあたしのことから話すね」
幼女の名前は、和泉。地球の管理者だと言う。
「管理者?」
「そう。地球で起こる出来事を管理するのが仕事。いわゆる神に近いけど、よっぽどのことがない限り手を出さないの」
今回はそのよっぽどのことが起きたから、手を出したらしい。
「名前を書いたら、書かれた人が死んじゃうノートの話、聞いたことない?」
「あるけど……それが……」
「それが現実にあるとしたら?」
「は?」
あるわけがない。あれは漫画であって、フィクションだ。現実ではなく、非現実……
「うん、あるはずがないの。本来ならば」
和泉の説明によると、人間の想像力は凄まじいらしく、どんなことでも起こしうる可能性があるらしい。その気になれば、なんでも出来るらしいのだ。
なら、なぜそれが出来ないのか? 理由は簡単。人間は、常識と言うものに縛られており、出来ないと思い込んでいるから発揮されないだけであるという。
「時々それを軽々と破る人がいてね。よりにも寄って、そのノートを出しちゃったんだ」
「世界のバランスを壊しかねない物の存在を、許すわけにはいけません。だから、管理者が動きました」
「一足遅く、使われた後だった……ってわけだ……」
どうやら有名人、死んでもそう大して問題になりそうにない奴、として僕が選ばれたらしい。雑誌の取材なんか受けるんじゃなかったよ。
「自分と同じくらいなのに、お金持っていうのもあったみたいだよ」
ひがみか。ひがみで殺されたのか。
「ノートは破棄して、本人は念入りに処置しました」
「だけど、殺されてしまった、君をどうするかが問題になったの」
「? 元の世界に生き返らせてくれないのか?」
「和泉の管理している世界は、完成に近い世界で非常にぎりぎりですが、バランスが取れています」
「そこに、死んだ人間をよみがえらせるという矛盾を入れちゃうと……」
「バランスを崩して、元の木阿弥っていうことか……」
「言い方は悪いですが、一人のために多数が犠牲になるより、一人が犠牲になった方がましということです」
「……本当に悪いですね」
「「ごめん(なさい)」」
管理者の二人が、口々に謝る。
「その為、貴女に用意された道は……」
「異世界転生」
書いていくうちに長くなりすぎたので、切りがよさそうなところまでにしました。
なるべく早く次話を投稿します。
誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
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