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真鍋大度 x Rhizomatiks  Perfumeから先端アートまで、技術と感性の交差点

By , 10月 7th, 2012 | Event Report | 0 Comments

これまでよりグッと手軽に、高度なものづくりを実現できるデジタル工作機械=FABツールの出現は、いま多くの人々へ創造の扉を開いています。同時に、自分でつくる=DIY精神も、みんなでつくる=DIWO(Do It With Others)へと進化。その醍醐味はここFabCafeでも多くの方々に体験頂いていますが、「DIWO Lab.」では毎回、最前線のクリエイターや技術者を迎えてものづくりの未来を探ります。文: 内田伸一


▲作品「16 forms」の一部。Perfumeの演出振付師・MIKIKOさんを3Dスキャン/プリント。

早くも第3回となる今回は、DIWOといえばこの人! 真鍋大度さんの登場です。PerfumeのPVやライブ演出から、国際的なメディアアートシーンでの活躍まで、優れた協働者たちと手がけた仕事は数知れず。今回はご自身が設立したRhizomatiks(ライゾマティクス)社で多くのプロジェクトを共にする柳澤知明さんも迎え、充実のプレゼンテーションとなりました。その様子をお伝えします。

モノや身体と、音・映像をつなげる面白さ

この日の司会は、FabCafe仕掛人のひとり、777Interactive代表の福田敏也。真鍋さんとの交流は、ロンドンのデザイン&広告賞「D&AD」で共に審査委員をした縁で始まりました。「今日は聞き役に徹します」と挨拶した福田ですが、ふたりは以前に「Fab Talks」で対談もしているので、こちらもぜひチェックを。
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▲福田敏也(左)と真鍋大度さん

「自分でも肩書きをなんて言えばいいのか難しい」と笑う真鍋さんは、その発想力とプログラミング技術を駆使し、モノや身体と音・映像をつなげるなど、刺激的な創作活動でおなじみです。会場ではそんな真鍋さんの歴代プロジェクトを次々と紹介しつつ、お話が進みました。

IAMAS(情報科学芸術アカデミー)で学んでいた10年前には、レコードのターンテーブルと映像を連動させる作品などに取り組んだ真鍋さん。その後、山口情報芸術センター(YCAM)における内橋和久+UAのコンサート「path」などに参加します。ここでは声と音に反応して、光や映像が変化する先鋭的なステージシステムを実現。「ただ、このころはすごくビンボーでしたね(苦笑)」とのこと。

転機となったのは、やはり実験的なインタラクティブシステムを扱いながら、商業イベントなどで「仕事」としても活かしている石橋素さんとの出会いでした。ふたりは意気投合し、石橋さんの会社・DGNを設立、ハイブランドの発表会セレクトショップのパーティのために、テクノロジーとファッションを融合させた表現を展開していきます。

その後2006年には、真鍋さんも自らRhizomatiks(ライゾマティクス)社を設立。多分野の技術者やクリエイターが集い、外部の才能とも関わるかたちで活動を続けています。「会社というより集団」という同社においては、真鍋さんは実用性よりも美、美よりも「面白さ」を重視しているとのことでした。

靴が楽器に? 奇想を現実化するチームワーク

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▲写真右がRhizomatiksの柳澤知明さん

そのRhizomatiksの一員・柳澤さんと、真鍋さんのタッグで話題をさらった仕事のひとつが、「Nike Music Shoe」。トレーニングシューズを電子楽器に変える(!)という奇想を、ソフトとサウンドデザイン面で真鍋さん、ハード面で柳澤さんが担って実現したものです。これをブレイクビーツユニット・HIFANAが演奏する映像はYouTubeを通して世界中に注目されました。

広告業界で長年働く福田は、こうコメントします。「真鍋さんの表現はテクノロジーを使いつつ、基本、フィジカルですよね。広告の世界でリアリティが希薄になっていったなか、これはそれまでの映像とは違う伝わり方をした。そこも評価されたのだと思います」。

実際は一週間程度でシューズのプロトタイプを作り、3日でソフトウェアのベースを作り、HIFANAに触ってもらって出てきた意見をまたすぐ反映し…というスピード開発だったことも驚きです。「演奏してくれたHIFANAのリクエストも厳しくて(笑)、でもそういうのも楽しいんですよね」と真鍋さん。

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続けて紹介された柳澤さんのお仕事、Andropの『WWL』PVは、登場する機械仕掛けのおもちゃをすべて自作した、これまた力の入った作品。3Dプリンターとレーザーカッターも活用し、まさにFabのお手本? ここで生まれたオブジェ群は、一部を受注生産で販売しているそうです。


Preview on iTunes Music Store

真鍋さんのPV初監督作品は、やくしまるえつこの『ヴィーナスとジーザス』。3次元距離測定赤外線カメラ『SR4000』と通常のビデオカメラでミュージシャンの姿を撮影し、色と深度の情報をマッチングさせて、粒子の集合体ふうの3Dモーショングラフィックに変換した労作です。実はこの半年後に発売されたKinectが、より手軽に色と深度を取得してしまうのですが、福田は「ないものを自力でつくってしまう人こそがパイオニア」と賛辞を贈ります。会場では、未公開の別バージョンもちらっと紹介する、粋なはからいもありました。

Perfumeとの挑戦 — ライブ会場がメディアアートに?

お話はいよいよ、Perfumeとのプロジェクトへと突入! 2010年東京ドームでのコンサートでは、LED内蔵の巨大風船を音楽にシンクロさせ、メンバーが銃を撃つ仕草と共に遠くの風船がはじけるなど、マジカルな演出がいまも語り草になっています。

その後、Perfumeの振り付けやライブ演出を手がけるMIKIKOさんをモデルに、3Dスキャナ/プリンターを使ったゾエトロープ(回転型パラパラまんがのような装置)「16 formes」をつくるなど、コラボレーションが発展していくようすも興味深いものでした。


Perfume Global Site

以降も、Perfumeとのさまざまな試みは続きます。「Perfume Global Site Project」では、企画のために中田ヤスタカ氏(capsule)が作成したオリジナルの楽曲とMIKIKOさんが振付けをしたPerfumeのダンスのモーションキャプチャーデータをオープンソースにして公式サイト上に公開。世界中のクリエイターが、彼女たちの動きを使った個性豊かなダンス映像をつくれるようにしたのです。

そこから生まれた数々の映像は、可愛いアニメキャラが踊るものから相撲取りのPerfumeダンス(!)まで、予想を越えた広がりと多様性をみせました。いってみれば、未知の人々同士のDIWO的クリエイション。これはアーティストとファン、そしてクリエイターの新たな関係性を探る挑戦でもあったのです。

福田は「生身の人体のスキャンから生まれるこれらの映像は、従来とはまた違う面白い感覚を呼び起こしますね」と述べ、ふつうのビデオカメラで撮影された映像とも、ゼロからCGでつくりあげる映像とも異なる特異性・可能性にふれました。

「これ、絶対つくれるはず」という仲間の存在

ほかにも、どうやってこんなことを思いつくの?というプロジェクトがいくつも紹介されました。たとえば、石橋さんとの共作、刺繍ソフト用のプログラム言語をあの「顔文字」などで開発し、これで描いた絵をTシャツに刺繍できるミシンをつくったプロジェクト「Pa++ern」。Twitterで好きなコードをつぶやけば実際に注文・購入できるのもユニークです。


Particles Daito Manabe+Motoi Ishibashi

また、こちらも石橋素さんとの大作「Particles」は、光源を内蔵した無数のボールが、未来都市のような巨大レールを駆け抜けながら、驚くべき光の風景をみせてくれます。秘密はボールに内蔵した無線通信機能。転がるボールの位置をリアルタイムに感知しながら制御する、まさに「離れ技」がこの幻想空間を陰で支えています。

「ボールの位置を解析する仕組みは僕がこのプランを考えた際にはまだ確定していませんでした。画像解析なのか、加速度センサーなのか、それとも全然違ったやり方なのか。ただ、そのソリューションは“これは絶対(仲間のうち)誰かができるだろう”という確信がありました。この時も石橋さんがメチャクチャスマートな解決方法を見事に生み出してくれました。」と真鍋さん。「そう思えるチームなのがすごい」と、福田も改めて感服しました。

イベント終盤には質疑応答と、3Dスキャナーや3Dデータの操作を実体験できる時間も。協力してくれたのは、最新3D技術コンサルタントの株式会社ケイズデザインラボです(代表の原雄司さんは、DIWO Lab.の第一回で名和晃平さんと軽妙なトークを交わしたあの方です!)。

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▲会場で3Dスキャン体験。縞模様の「フリンジパターン」で照らし、数秒で計測します。

またこの日は、赤ちゃんの寝姿を3Dプリントした小さなオブジェも会場に登場。実はこれ、真鍋さんが、盟友・関和亮監督のお子さんを3Dスキャンさせてもらい、関家へのプレゼントとしてつくったものだそうです。

「今はまだ高価な機器も、より気軽にさわれるようになればいろんな使い方ができそうです。実際、同じ機能が1、2年後には1/10の値段で実現できることも多い。その変化の中にも、可能性があると思います」と真鍋さん。

なおこの赤ちゃんオブジェは、スキャンデータをもとにケイズデザインラボが3D触感モデラー「freeform」で調整を行い、株式会社イグアスにて3Dプリントしました。実はFabCafeの上階にそのイグアスのショールーム機能を備えたスタジオ「CUBE」が、10月17日オープン予定。最先端の3Dプリンター、全身3Dスキャナーやfreeformを体験できるほか、イグアス、ケイズデザインラボ、FabCafeの連携でクリエイター向け新サービスも計画中です(詳細はこちら)。

最後はいつものように出演者と聴衆の垣根をこえ、しばし交流のひとときを持ちました。会場には「Nike Music Shoe」の実物なども。来場者はこれらを興味深そうに眺め、真鍋さんたちに改めて質問する方々もいました。

DIWOからさらに「DIFO」へ

イベント後に、真鍋さんへDIWO的ムーブメントについてのお考えを聞いたところ、こんなメッセージを頂きました。
「DIYからDIWOへという流れは、2006~2008年ごろに強く感じていました。僕と石橋さんが4nchor5 La6(アンカーズラボ)というハッカースペースを立ち上げたのもそのころです。でも、チームでの創作に可能性があるといっても、閉じたコミュニティのなかで目的もなくただ“面白いものを”と制作し続けるのには限界があります」

「Zachary Liebermanを始めとしたアーティストが行ったプロジェクトはとても素晴らしい例です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)で全身が動かせなくなったあるアーティストのために開発された、目の動きだけで絵を描けるシステム『Eye Writer』。そのアーティスト・Tempt1のために、さまざまな才能が結集しました。また我々がPerfumeのためにチームを作って開発することも、自分たちが興味を持っていることをやると同時に観客のためのエンターテインメントを作っている面があります」

「そうした活動を、DIWOからさらにDIFO (Do It For Others)と呼ぶ人達が出てきているというのが、最近よく話しているトピックです。2010年のPerfume東京ドーム公演で我々がMIKIKO先生や関監督の元でサポートした演出も、実は『Eye Writer』を手がけたZachary Liebermanや光る風船をバンクーバーオリンピックで使用したことで有名なAlex Beim(tangible interface)ら海外の凄腕ハッカーたち、さらに国内の多くの才能にも声をかけ、約1ヶ月間集中して実現しました。DIWOかつDIFOの典型的な事例かと思っています」

DIYがDIWOへ進化し、さらに発展形としての「DIFO」という思想の誕生。それはこれまでの価値観による「作品」の範疇を超えて、クリエイターから新たな創造力を引き出す原動力にもなりそうです。その最前線を走る真鍋さんとRhizomatiksの挑戦に、これからも目が離せません。

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