津波死者13万人――。南海トラフ巨大地震による人的被害で大阪府が10月30日、内閣府とは大きくかけ離れた独自想定を発表した。府内の死者は最大で13万3891人で、昨年8月に内閣府が発表した同9800人から、なんと13倍に膨れ上がった。あまりにも異なる数値は、注意喚起ととらえられる一方で、国民に混乱を与えるのは確実。さらには、多すぎる想定被害者数の裏に、大阪市の橋下徹市長(44)の政治的思惑があるのでは?との臆測まで飛び交っている。
独自の試算を発表したのは、大阪府の南海トラフ巨大地震災害対策等検討部会(部会長=河田恵昭関西大教授)だ。
内閣府の昨年発表は、冬の平日午後6時に南海トラフを震源地とするM9・1の地震が発生したとの想定で、早期の避難率が低い場合、津波で4500人、建物倒壊で3000人、火災で2100人など9800人の死者を試算していた。ところが、府の発表では津波で13万2967人、建物倒壊735人、火災で176人とその他を含め計13万3891人と13・7倍となった。
津波被害で2桁増える試算となった背景には何があったのか。
内閣府は防潮堤の沈下や決壊を想定してない数字で、一方の大阪府ではこれらを想定したため浸水面積が拡大したことや、洪水なども含めたことから被害者数が段違いに増えたようだ。
津波による負傷者数も内閣府の最大1900人に対し、大阪府は同6万3666人と30倍となった。しかも、今回の試算には地下街や地下鉄の被害が含まれておらず、さらに数値が上がる可能性があるという。
一方で地震発生から10分以内に避難した場合、死者数は8806人まで減少するとしているが、この数値でようやく内閣府試算とほぼ同じになる形だ。
内閣府試算をめぐっては、広島県の独自想定で内閣府よりも18倍となる死者数1万4759人、徳島県では逆に下回る死者数3万1300人との想定が出ている。これでは国民はどれを信じていいのかわからず、混乱するのも当然だ。
災害対策アドバイザーの金子富夫氏は「数値自体はどういったファクター(要因)に重点を置くかで異なってくる。もともと国の数値は過小評価で、大阪府は津波に重きを置いたようだが、国と地方でこれだけ数値に差が出てくると、府は注意喚起なのか脅しなのかとなってくる。府民や対策を練る側はどちらを信用すればいいか困ってくるし、他府県も防災計画の見直しに迫られる。一専門家や研究機関ならまだしも行政機関ならある程度のすり合わせや統一見解が必要」と指摘する。
大阪府だけで10万人以上の津波死者が試算されたことで、松井一郎府知事(49)は防潮堤整備や避難方法、帰宅困難者や食料備蓄などの対策を根本から見直す考えだ。その先にはこの試算を“落ち目”の日本維新の会が利用しそうな雲行きとみる関係者もいる。
「津波の港湾整備や防災対策は大阪全域で取り組むべき課題で、結局のところ、大阪都構想が必要との話になる。検討部会の報告は、都構想がしぼんで窮地に立つ維新の会にとっては、願ったりの話。インパクトのある数字を出して、人目をひく手法から橋下氏が裏で揺さぶりをかけているのでは」(永田町関係者)
防災対策が政争の具に利用されないことを祈るばかりだ。
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