特集:「水俣条約」採択へ 9〜11日外交会議 水銀削減、世界規模で
毎日新聞 2013年10月03日 東京朝刊
「水俣条約」という名称についても、地元では「水俣の悲惨さや教訓を世界に伝えられる」として賛成の声がある一方「そもそも水俣病問題は解決していない」「条約内容が不十分で教訓が生かされていない」と反対する声も上がった。
水俣市議会では昨年末、命名反対の意見書について保守系市議が「負のイメージが定着してしまう」などと主張し可決された。【笠井光俊】
◇「輸出国」日本、求められる責務 「半永久保存」の管理や費用は
世界に先駆けて「脱水銀」を進めてきた日本だが、水俣条約で水銀の市場取引が規制されることで、新たな難題を抱え込むことになる。水銀の長期保管問題だ。
日本では昭和30年代から50年代にかけて、電池や蛍光灯など幅広い用途に大量の水銀が使われた。国内需要のピークは1964年の約2500トン。現在も需要はあるが、年間約10トンまで減った。一方で、亜鉛や銅などの金属精錬の工程で出る汚泥や蛍光灯、電池に含まれる水銀のリサイクルで年間約90トンの水銀が回収されている。国内で利用しきれない余剰分はインドやシンガポールなどへ輸出している。そこから別の国に渡り、金採掘などに利用されているとの指摘もある。貿易統計によると、2012年度の輸出量は約84トン。米国や欧州連合(EU)が既に水銀の禁輸に踏み切る中、日本はアジア唯一の水銀輸出国のままだ。
水俣条約では、20年までに水銀を使った特定製品の製造が禁止される。海外需要は大きく減ることが予想され、余った水銀を国内で半永久的に保管することが必要になる。その場合、保管中の安全管理や費用負担をどうするかを解決しなければならない。条約は採択後、50カ国が批准して90日後に発効する。早期批准を目指す日本政府は来年度に法整備に着手する方針で、対応が急がれる。【阿部周一】
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■ことば
◇水俣病
チッソ水俣工場(熊本県水俣市)が不知火海に流した排水によってメチル水銀が魚介類に蓄積し、それを食べた人に起きた中毒性の神経疾患。公式確認は1956年で、「公害の原点」とされる。65年に新潟県阿賀野川流域で昭和電工鹿瀬工場の排水を原因とする新潟水俣病も確認された。公害健康被害補償法に基づく認定患者は約3000人だが、感覚障害などを訴える未認定患者救済のための「政治決着」(95年)で約1万1000人が対象となった。2009年施行の水俣病被害者救済特別措置法に基づく新救済策に約6万5000人が申請した。
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◆水俣条約の骨子◆
・化粧品や血圧計などの水銀含有製品の製造や輸出入を2020年までに禁止