特集:「水俣条約」採択へ 9〜11日外交会議 水銀削減、世界規模で
毎日新聞 2013年10月03日 東京朝刊
人体に有害な水銀の輸出入などを規制する「水俣条約」を採択する外交会議が9〜11日、熊本市と熊本県水俣市で開かれる。60カ国以上の閣僚級が参加し、「水俣デー」と銘打つ会期初日には、水俣病の犠牲者追悼式や語り部の講話も予定される。1972年、スウェーデン・ストックホルムで水俣病患者が水銀被害の恐ろしさを訴えて41年。「水俣病の教訓」を生かすと序文にうたう条約の採択を前に、水銀汚染の現状と批准に向けた課題をまとめた。
◇大きな一歩、課題は実効性
水銀は人体に大量に取り込まれると中毒症状を引き起こすが、電池や体温計、蛍光灯など身近な製品に使われている。石炭にも含まれるため、火力発電所で燃やした際に大気中に排出される。汚染は海にも広がり、クジラや魚類への蓄積が確認されている。
このため、国連環境計画(UNEP)は2002年、人体への影響や汚染状況をまとめた報告書「世界水銀アセスメント」を公表。水銀が分解されずに全世界を循環している実態や、とりわけ胎児や乳幼児への毒性が強いことなどを明らかにし、排出削減や廃絶に向けた世界的な取り組みが必要だと訴えた。
これを受け、10年以降、条約策定に向けた政府間交渉が計5回開催され、今年1月、スイス・ジュネーブで約140カ国が条文案に合意。日本政府の提案で「水銀に関する水俣条約」と命名された。
条約は、水銀鉱山の新規開発を禁止。認められた用途以外の水銀輸出を禁止し、輸出の際は輸入国から事前に文書で同意を得ることを義務付ける。さらに、電池や血圧計、化粧品など水銀含有製品は製造と輸出入を20年までに禁止する。また、火力発電所で石炭を燃やした際に出る煙が水銀の主な排出源になっていることを踏まえ、排出削減の最新技術導入など必要な対策を取ることも盛り込んだ。
UNEPによると、10年に世界で大気中に排出された水銀は推定1960トン。90年代以降ほぼ横ばいが続く。このうちアジアが49%、アフリカが17%、中南米が15%を占め、途上国、新興国の排出削減対策が急務だ。交渉には、最大の水銀排出国である中国も参加し、批准されれば世界規模での総量削減に一定の前進が期待できる。