特集:「水俣条約」採択へ 9〜11日外交会議 水銀削減、世界規模で

毎日新聞 2013年10月03日 東京朝刊

 一方、残る課題も多い。10年の大気排出量1960トンの内訳は、小規模金採掘が全体の37%と最多で、化石燃料燃焼25%、非鉄金属生産10%と続く。東南アジアや南米、アフリカ南部の貧困地区で続く小規模金採掘は、労働者が水銀を吸い込む危険性が高い。条約交渉では、この採掘方法を全面的に禁止するかが焦点となったが、途上国では生活の糧となっているため、「実行可能なら廃絶するための措置を取る」と、完全には禁止されなかった。

 水銀公害への被害補償や環境浄化の義務規定も盛り込まれなかった。いずれも各国は後ろ向きで、汚染された土地やその被害を受ける恐れのある人々を保護するための「戦略を作ることを奨励する」という非常に弱い表現にとどまった。

 条約交渉を追った「化学物質問題市民研究会」(東京)の安間武さんは「条約は世界全体の水銀廃絶に向けた第一歩だが、水俣病の悲劇を繰り返さない実効性の点では問題が多い。批准後、締約国会議の中で規制強化を進めてほしい」と注文する。【阿部周一】

 ◇「問題は未解決」−−水俣病患者の思い

 1972年6月、スウェーデンの首都ストックホルムで開かれた第1回国連人間環境会議。会場の入り口前では、水俣病を説明する資料を配る胎児性水俣病患者、坂本しのぶさん(57)=熊本県水俣市=らの姿があった。坂本さんは当時15歳。並行して開催された民間団体などの国際的な集会では、身をもって水銀による被害の悲惨さを訴え世界に衝撃を与えた。

 「患者が直接、被害実態を世界に伝えよう」。東大で自主講座「公害原論」を始めていた宇井純氏(2006年死去)の提案を受け、坂本さんらが立ち上がった。この環境会議をきっかけに国連環境計画(UNEP)が設立され、41年後の「水俣条約」採択につながった。

 ただ、水俣病の認定基準を巡る係争は現在も続いている。77年に環境庁(当時)が打ち出した「52年判断条件」は複数症状を要件とし、認定されない人が続出。未認定患者の増加に対して、95年の「政治決着」、09年施行の水俣病被害者救済特別措置法と2度の救済策が実施された。国は同法を「最終解決」と位置づけたが、対象外とされた人たちが今年6月に提訴している。

 4月には認定申請を棄却された女性の遺族が起こした訴訟の判決で、最高裁が「52年判断条件」を事実上否定し認定を命じた。国は現行制度の見直しを余儀なくされたが、結論は出ていない。

 患者団体などが求めている汚染地域の不知火海沿岸全域での住民健康調査もされないまま。水俣病被害の全体像がいまだにはっきりしていないことが混乱の大きな要因だ。

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