被災前高台移転:静岡・沼津市の自治会が断念 負担重すぎ
毎日新聞 2013年11月01日 08時30分(最終更新 11月01日 12時40分)
◇東日本大震災2年半、住民も消極的に
津波から逃れるため全国初の被災前の高台移転を検討していた静岡県沼津市の内浦重須地区自治会が、集落ぐるみで移転する国の防災集団移転促進事業(防集)を事実上断念し、31日、市に伝えた。住宅建築費用は自費となるなど負担が重すぎるうえ、東日本大震災から2年半がたち、移転に熱心だった住民も消極姿勢に転じたことが要因となった。
自治会の原敏会長らが栗原裕康市長に伝えた。自治会によると、10月19日の会合で、公費助成が不十分であることなどを理由に防集による高台移転は困難との結論に至った。
防集は、災害が発生した地域や災害危険区域の住民の集団移転を促すため国などが補助金を出す事業。災害危険区域に指定されるためには地区住民全員の合意が原則。
内浦重須地区は海抜5メートル以下の住宅が多く、2012年3月の自治会総会で、8割が高台移転の検討に賛成。移転に向け専門家を招いた勉強会を開いていた。しかし今年4月下旬に全125世帯を対象にしたアンケート(回収率84・8%)では、高台移転に▽前向き8%▽条件次第では前向き32%▽消極的45%▽無記入14%−−と、移転消極派が積極的な意見を上回っていた。
市と自治会によると、自治会側は市側に「(防集による移転の)実施は難しい」とした上で、(1)移転希望者への何らかの支援(2)防災意識を高める勉強会開催(3)移転の可能性を検討するため都市計画法や農地法などの法制度の解説−−の3点を要望。栗原市長も支援に前向きな回答をしたという。
原会長は「防集は選択肢の一つとして検討していくが、土地区画整理事業などを利用して希望者は高台に行けるよう方策を考えていきたい」と話した。
【西嶋正信】
沼津・内浦重須の高台移転をめぐる経緯
2012年3月 自治会総会で8割が高台移転の検討に賛成
7月 北海道大大学院の森傑教授(都市計画)を招き高台移転へ向けた勉強会を開始
13年4月 住民に高台移転の賛否を問うアンケート調査を実施
5月 自治会の地震津波対策委員会で住民の過半数が高台移転に消極的であることが報告される。13年度も勉強会を継続し、同委員会の後継団体設立を決定
6月 同委員会の後継として、高台移転を議論する「重須の未来を拓(ひら)く会」を設立