2013年11月2日08時01分
山本太郎参院議員が10月31日の秋の園遊会で、天皇陛下に手紙を渡したことが波紋を呼んでいる。参院議院運営委員会は山本氏を聴取し、処分の検討に入った。閣僚や与野党から「政治利用だ」との批判も巻き起こる。山本氏は「思いを伝えたかった」と政治利用の意図を否定するが、政治と天皇のかかわり方が改めて問われそうだ。
「天皇陛下とコミュニケーションをとる素晴らしい機会と思った。原発事故による子どもの健康被害や事故の収束作業にあたる作業員の健康状態を知ってもらいたかった」
山本氏は1日、参院議院運営委員会で、陛下に手紙を渡した動機を聞かれ、こう説明した。政治利用との指摘も否定した。
聴取後、自民党の水落敏栄筆頭理事は「納得できなかった。処分を検討しなければならない」と語った。
政府や与野党からは山本氏批判の大合唱があがる。
保守系の下村博文文部科学相は1日の会見で「議員辞職ものだ」。日本維新の会の山田宏衆院議員が1日の衆院委員会の質疑で「非常識で憤慨にたえない」と主張すると、議員から「不敬罪だ」とヤジが飛んだ。
共産党の志位和夫委員長は「憲法上『国政に関する権能を有しない』存在の天皇に政治的対応を求めるのは、憲法を知らない者の行動だ」と指摘。みんなの党の渡辺喜美代表は「脱原発は国会で議論すべき話。政治的パフォーマンス以外の何ものでもない」と切って捨てた。
ただ、皇室の政治利用をめぐる議論は絶えない。時の政権が天皇の公的行為を使って問題の打開を図るような事例が起きた。そのたびに、なし崩し的に皇室の活動を広げ、政治利用に道を開くことを懸念する声があがってきた。
今年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会への高円宮妃久子さまの出席を、下村文科相らが宮内庁に強く働きかけた。今年4月に安倍政権が主催した「主権回復の日」式典では、閉会後に天皇・皇后両陛下が退出する際、会場から「天皇陛下万歳」のかけ声が起き、壇上の安倍晋三首相も万歳をした。
民主党政権時代の2009年には、鳩山内閣が天皇陛下と来日した習近平(シーチンピン)・中国国家副主席(当時)との会見を慣例に反する形で実現させた。
こうした際には国会は、天皇陛下や皇室に働きかけた政治家たちの「処分」は検討していない。山本氏は1日の参院議運委の出席後、記者団に語った。「僕が政治利用で裁かれるなら、他のことも協議される必要がある」
■宮内庁「迷惑きわまりない」
山本氏が「知らなかった」というルールとは何か。
宮内庁から園遊会招待者に送られる案内には、会場の東京・赤坂御苑の地図の裏に「(天皇皇后両陛下や皇族方が)お廻(まわ)りの際の写真撮影は御遠慮願います」などの注意書きがあるが、「物品を渡さないように」などの事項はない。
だが宮内庁幹部は「わざわざ注意するまでもないこと。(山本氏の行為は)迷惑きわまりない」。別の幹部は「国政の権能を有しないと憲法に明記されている天皇に、原発事故の現状を訴えるというのは、明らかな政治利用だ」と話す。
ただ、「政治利用」のプロセスに宮内庁自体も無関係でない。4月の「主権回復の日」記念式典や9月のIOC総会には、両陛下や皇族が政権の意向や要望に沿った形で出席。IOC総会について風岡典之長官は「苦渋の決断だった」と語っていた。
山本氏が天皇陛下に手渡した手紙は、そばにいた川島裕侍従長が引き取った。その手紙がどうなったかについて、宮内庁は「お答えできない」としている。
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