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山本太郎参院議員の天皇への「直訴」問題

困ったものです。愚かなことをしたもんだと、呆れてしまいました。
 山本太郎参院議員の天皇への「直訴」問題のことです。秋の園遊会で福島での原発事故の現状を伝える手紙を天皇に手渡したといいますが、渡された天皇も困ってしまったことでしょう。

 福島第1原発事故の被災者のために力になりたいという気持は分かります。やむにやまれぬ焦燥感から出た行動だったのかもしれません。
 しかし、事故の収束や被災者の救済について力を尽くすのは国会であり、議員の役目ではありませんか。それを「政治的権能を持たない」天皇に「直訴」するというのでは、お門違いも甚だしいと言わざるを得ません。
 「現代の田中正造だ」などと弁護するむきもあるようですが、主権者の代表たる国会議員が政治活動を禁止されている天皇に「上訴」するなどということはあってはならないことです。もし、そうであれば、議員よりも天皇が「上」となり、上下が逆になってしまうからです。

 山本議員からすれば、自分の意見をただ伝えたかっただけだということかもしれませんが、園遊会に招待されなければそのようなことはできません。いわば「特権」を利用して、天皇に自分の意見を伝えたということになるでしょう。
 もし、何らかの行動を期待していたのであれば、天皇の政治利用を意図していたということになります。そうでなくても、自分の主張を広めるために皇室の行事や天皇の権威を利用しようとしたのではないかという批判は免れません。
 今回のような行動が認められれば、別の人も同じようなことをするかもしれず、様々な混乱が生ずるでしょう。だから、これまで誰もそのようなことはしませんでした。それが常識というものです。

 山本議員の行動は、国会から追い出したいと思っている人々からすれば「飛んで火にいる夏の虫」のようなものでしょう。早速、議員辞職を求める声が上がり、参議院では議員辞職勧告決議案を出す動きもあるようです。
 しかし、議員を辞めるなどという早まった行動をとってはなりません。確かに、山本さんは憲法の規定を良く理解せず、国会議員の地位についての自覚が足りず、おっちょこちょいで軽挙に走りましたが、議員を辞職するほどのことではないと思います。
 もし、辞職したりすれば、せっかく東京で得た反核議員の議席を自民党に明け渡すことになりかねません。そのようなリスクを生み出したという点でも、山本議員の今回の行動を批判せざるを得ないのは誠に残念です。

 一昨日の10月31日~11月1日、私が代表幹事をしていた社会・労働関係資料センター連絡協議会(労働資料協)の総会があって、福島大学に行って来ました。大学の内外では、今も放射能の除染作業が行われています。
 原発事故は過去の出来事ではなく、現在進行中なのです。国会は放射能汚染対策や事故収束に向けて全力を挙げるべきであり、山本処分で時間やエネルギーを無駄使いしてはなりません。

五十嵐仁
法政大学大原社会問題研究所教授・所長

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