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まえがき 兵器級プルトニウムに含まれるPu-239の割合が多いほど臨界質量が少なくて済む。除去したい同位体は、Pu-238、Pu-240、Pu-241、Pu-242である。一般に、プルトニウムPu-239は核反応炉の中で自然ウランU-238が中性子の照射を受けて生成するが、その一方で不要な同位体も産まれてくる。 したがって、純度の高いPu-239を作るためには、早期に反応を切り上げてプルトニウムを抽出し、所要量を得るまでそれを繰り返すことが必要になる。フアットマンに用いられたプルトニウムはハンフオードの核反応炉を用い、早期爆発を起しやすいPu-240を僅か0.9%しか含まない超高品質のプルトニウムを生産した。 原子力発電所で作られる反応炉級プルトニウムのPu-239の比率は60%程度だが、これからPu-239を精製して95%以上の兵器級プルトニウムを生産する手段が考えられる。それは、0.7%しか含まれていないU-235をU-238から分離・精製する技術の延長線上にある。 これから紹介する精製技術は、位相の揃った光を目標の同位体に照射し、それのみををイオン化して電場の中で分離回収するもので、その原理を応用したAVLISとかSilexと呼ばれる新精製プロジェクトが進行中である。 ウラン精製の場合は原子量の差は3だが、プルトニウム精製の場合はその差は1しかないので精製は更に困難になるだろうが、上述のレーザー技術の延長線上で実用化できるものと期待される。 AVLIS(atomic vapor laser isotope separation) AVLISは特別に同期したレーザーを用いてウラン同位体をイオン化して分離する方法である。 1994年、米政府の歴史の中で最大規模の技術移転が行われ、AVLIS工程がUSEC社(United States Enrichment Corps)に民営化のために移転された。しかし1999年、1億ドルを投資したあと、USECはALVIS計画を中止した。 ALVIS工程はガス遠心方式と比べ高いエネルギー効率、高い分離効率と少量の放射性廃棄物という特徴がある。 AVLISは引き続き開発中である。イランでのこの計画は特に関心を呼んでいる。原子の代わりに分子を用いた類似の技術をMLS(molecular laser isotope separation)という。 ■AVLISの原理 U235とU238の吸収線は少し異なり、U238の吸収ピークはU235の5027.3オングストロームから5027.4オングストロームに偏位している。AVLISは同調できる色合いレーザーを用いる。このレーザーは精密に同調できるので、U235のみ光子を吸収し選択的に励起させてイオン化する。このイオンは静電気的に集電装置に片寄せられ、不要な中性のU238は通過していく。 ALVISシステムは蒸発および集電装置よりなる分離システムと、レーザー装置で形成される。蒸発装置は純ウランガスの流れを発生する。 一般に用いられるレーザーは銅蒸気レーザーによってくみ上げられる二段式同期パルスダイレーザーが用いられる。主発振器は低出力だが高度に精密であり、その出力は光学的増幅器として働くダイレーザー増幅器によってパワーアップされる。 レーザーの三種の周波数(色)がU235を完全にイオン化するために用いられる。 ■ダイレーザー ダイレーザーはレーザー媒体として有機染料を通常は液体溶液として使用するレーザーをいう。ガスや最も多くの固体レーザーに較べて、染料は広い波長の範囲に使用することが出来る。このバンド幅の広いことは同調レーザーとパルスレーザーに特に向いている。更に、染料を他の形式に置き換えることができるので、同じレーザーを用いて異なった波長を発生させることができるが、そのときには一般にレーザー内の光学部品を取り替える必要がある。 ■構成 有機染料は光の影響で品位が下がるので、染料液は通常、大きな貯蔵槽から循環している。この染料液はガラス製容器(cuvette)を通って流れるか、あるいは特殊な形状をしたノズルから薄板状になって空気中に流出するダイジェットとなる。ダイジェットによりガラス表面からの反射損失とガラス製容器の壁の汚染を避けることができる。これらの利点はより複雑な調整のコストを招く。 使用する化合物の代表的なものは、Rhodamine 6G、Fluorescein、Coumarine、Stilbene、 Umbelliferone、Tetracene、Malachite Green等である。ある染料には寿命を延ばすためにAdamantane加える。レーザーの出力を増加させるためにCycloheptatriene と cyclooctatetraene (COT)を Rhodamine G の三つ揃いの抑制物として加えることがある。メタノール水溶液にCOTとRhodamine 6G を用いることによって585nmにおいて出力1.4キロワットを得た。 ■USEC社はAVLIS技術開発を中止(1999年6月9日発表) 本日、USEC社はAVLIS濃縮技術の開発を中止すると発表した。USEC社の取締役会と経営陣は事業と経済要素を再検討してこの決定に達した。 この発表を行うに際し、USEC社代表取締役社長のWilliam H. Timbersは、「我々はローレンスリバモア国立研究所(LLNL)とAVLISの共同研究開発を進めてきた。しかし、我々はAVLIS技術を性能、将来性、リスク、そして競合的な市場の力学だけでなく増大する財政面からの要求を再検討した。現在我々が持っているデータによれば、はAVLIS工場を開発し建設するリスクと、それに必要とする継続中の資本支出に勝るに十分な利益をもたらすとは考えられない。」と語った。 Timbersは言う、「我々は国内のウラン濃縮工業を十分に成長させ、成功させることを誓った。その約束はわが国の安全保障と我が社の株主の関心を呼んでいる。これらの必要性を満たすために、我々の評価基準と目標に合致したコスト効果の高い先進濃縮技術を確保するために選択肢を精力的に追求している。他の選択肢を追求している間も我々はAVLIS工程に関する権利と特許を保有し、AVLIS開発のために各種提案をするために解放し続けられる。」 「我々は、Silexレーザー濃縮法とガス遠心法を含む潜在的により経済的な技術選択肢を行いつつある。」とTimbersは言う。「USECはSirex濃縮法の商業的可能性を探求する独占的な権利を確保した。と同時に、我々の現有の生産工場の効率と寿命の改善に慎重に投資して行く。 USEC社の先進技術担当の副社長J. William BennettはAVLIS計画の長でありこの結論につき詳しく述べた。「最近の一連の試験結果によれば、十分説明できるようになるには少なくとも一年間は必要になるであろう問題を明確にした。そしてもし説明ができるようになれば新工場建設コストが今までの25億ドルという見積を上回ることになるであろう。たとえこれらの問題が解決されても、濃縮の市場価格傾向を比較考察するとこのリスクをはらんだ投資からの収益率は極めて低くなるであろう。」 同社は契約者とのAVLIS計画を終結する段階を迎えつつある。労働力の削減とカリフオルニア州ローレンスリバモア研究所でのAVLIS活動の秩序ある撤退を行う。USECは民営化後AVLISに約1億ドルを費やしてきた。 AVLISの中止により、6月30日に終る同社の損益計算に約4千万ドル(税引後2千5百万ドルまたは1株あたり0.25ドル)の不再発負債が発生する。この負債は雇用者の分離の強化と給付金の手配、契約の終了および操業停止コストを含む。全ての開発コストが支出されてしまったので、帳消できる資産はない。 AVLIS計画の中止を考慮に入れて、同社は2000年度の事業所得はAVLIS中止による特別所得税と一時負債を除外して、1999年度の1株あたり1.20ドルと同等になることを期待している。 「USESにはAVLISで仕事をした素晴しい人のチームと強力会社がある。」とTimbersは言う。「LLNLチームもAVLISを開発し、商品化する努力において目覚しいやる気と創造性と反応性を示してくれた。」 「我々はまた、我々のパートナーになり種々のAVLIS部品の開発に自費を投じてくれた協力会社が信頼を置いてくれたのに感謝する。AVLISチームの一員であった全ての会社がこの計画に対して努力してくれたことを認め、評価する。AVLISを中止する決定は見通しのないコスト/利益と長い間の熟慮によって動かされたのだが、我々はAVLISで働いてきた各個人が蒙るであろう打撃に痛みを感じており、それに対する配慮が中止計画の中に認可されている。」とTimbersは締めくくった。 USEC社(NYSE:USU)は商用原子力発電所にウラン燃料濃縮の生産および販売事業を行う世界のリーダーである。この世界的なエネルギー会社は14カ国に顧客を持ち、従業員約4,500人で、マリーランド州ベセスタに本社を置き、ケンタッキー州とオハイオ州に生産工場を操業している。 このニュース発表には、同社の将来の成績にある種の仮定をしたうえでリスクと不確かさを持ったある将来情報が含まれている(1995年の私的有価証券訴訟改善法の趣旨の範囲内で)。実際の結果と傾向は多様な要素に大いに依存する。その要素とは制約なしに言うと、会社のサービスに対する市場からの需要、濃縮市場の価格傾向、電力の入手の可能性とコスト、会社が内部での遂行計画を成功裡に実行する能力、会社の顧客の燃料補給サイクル、および政府規則による何らかのインパクトなど。上述の要素に関する追加情報は、有価証券および証券取引委員会とともに作成した同社の公的書類に納められている。 SILEX (Separation of Isotopes by Laser Excitation) レーザー励起技術を用いることによって、ある元素の自然に発生した同位体を分離したり、濃縮して異なった品質の新材料を造り出すことが可能になる。Silexの主な目標はウラン濃縮にあった。ウラン濃縮は世界の原子力産業に燃料を供給するために不可欠である。その他の計画として、ジルコニウム濃縮、シリコン濃縮およびカーボン濃縮がある。 SILEX工法は1988年に設立され一般にハイテク革新会社として公的に上場されているオーストラリアのSilex Systems社がウラン濃縮技術として開発した。この工法はMichael Goldsworthy博士とDr Horst Struve博士が発明した。 この工法はU-235とU-238同位体の混合物を、一方の同位体をイオン化するが他方はイオン化させないような周波数の単色レーザー光に露光する。この混合物を電場に通すと同位体を製品流と不要な流とに分離できる。 1996年11月Silex Systems社は米国USEC社と、SILEX技術をウラン濃縮に応用する独占的ライセンスと開発契約にサインした。この会社は2005年中に第二段階試験を終わり、パイロットプラントを建設することになっている。このプラントは多分米国に建設されるであろう。それは1996年にUSECと交わされた契約に基づくものであり、オーストラリアが核非増殖条約の問題を回避するためでもある。2004年グリーンピースが「秘密、嘘そしてウラン濃縮」というタイトルでSILEX工法に関する分りやすい報告書を著した。2006年Silexシステムズは米企業ジェネラルエレクトリックとこの技術の唯一の開発者として開発契約をした。
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