日本はハイテク王国か
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我が国の技術力が世界的にどんな水準にあるのか、各分野の客観的な分析を試みた。

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[1] 今日の戦術核兵器

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戦術核兵器と言っても、それがどれほど恐ろしい兵器か直ちに気付かないだろう。今西欧で話題になっているのは、熱核爆弾B-61-11「バンカーバスター」で、重量は1,200ポンド(540キロ)、威力は0.3 から約340キロトンである。この程度の重量だと、戦術戦闘機に搭載できる。なお、B-61-11の前身にあたるB53「シテイバスター」(8,900ポンド、9メガトン)は、世界最強兵器で地球貫通兵器と呼ばれた。

B29爆撃機の弾倉に搭載され、長崎に投下された原爆(Fatman)の重量は10,300ポンドであったから、約60年の間に12%に軽量化されたたことになる。Fatmanの威力は21キロトンとされているので、B-61-11の威力は最大16倍に達する。

Fatmanは都市の上空で爆発させ、住民を含め全域を殲滅する恐ろしいものであったが、B-61-11では地中深く潜入して爆発し、重厚に要塞化された地下構造物を破壊するとされているが、勿論パラシュートを付けて空中爆発させることも可能である。

これら核兵器を開発したのがロスアラモス研究所で、マンハッタン計画の一環として秘密裡にニューメキシコ州の山中に建設され、初代所長はオッペンハイマー博士であった。ここで、砲撃型ウラン爆弾(Little Boy)と爆縮型プルトニウム爆弾(Fatman)が開発され、所員の数は戦争が終わった19458月で5,000人に達した。

マンハッタン計画はアインシュタイン博士の提言で、ナチスドイツの原爆開発に対抗するため米政府内で極秘裡に始められた。19455月ドイツ降伏を受けて、20億ドルと言う巨額の費用をかけたこの計画が成果を上げないまま終戦を迎え、国民にその壮大な無駄使いがばれることを恐れて、その当時まだ戦争状態にあった日本に用途をすり替えたのである。

戦後、ソ連は米国から盗み出した資料をもとに自前の原爆を開発し、フルシチョフは毛沢東の求めに応じてその技術を中国に与えた。英国とフランスは自前で原爆を開発し、核保有国の仲間入りを果たした。彼等はテラー博士が発案した原爆より更に威力の高い水爆の開発を進め、中部太平洋での核実験で死の灰を撒き散らした。

一方、ドイツのV2ロケットを発端として弾道弾技術が発達し、これに核弾頭を搭載したICBMが出現した。相互確証破壊(MAD)の概念に支えられて、米ロは核弾頭数の優位を保とうと軍拡競争を始めた。この無意味な競争はレーガンのSDI構想によってブレーキがかけられる。飛来するICBMを迎撃する高等技術を開発しようとするもので、これに成功した側は均衡を破ることができる。その結果、技術力と資金力で劣勢のソ連が脱落し、冷戦は終りを迎える。

大国間の核戦争の恐れは遠のいたものの、これに代わって民族間などの地域紛争が頻発する時代に入った。また、核保有五カ国以外にも核開発を行う国が増え、いわゆる核拡散の恐れが現実のものとなって来た。核拡散防止条約(NPT)も、核を保有したいとする後進国の願望を抑えるに至っていない。

北朝鮮が弾道弾の地下発射基地を建設しているという報道が真実であれば、これを先制攻撃できる米国の戦術核兵器に頼らねばならない事態が発生するかもしれない。唯一の被爆国が、核攻撃から身を守るため核に依存するという皮肉な場面があってほしくない。それでは平和的に解決しようとしても、ひ弱な外交交渉能力に期待できるわけがない。要は、脅しに動じない自前の防衛力を培い、手を出せばしっぺ返しを食う恐れを相手に抱かせるようにすることだ。 

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[2] スクラムジェットエンジン

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X-51A Waverider の飛行試験が進み、極超音速飛行時代の扉が開かれようとしている。米国で開発中のこの実験機はB-52爆撃機から発進し、SCRAMJET(Supersonic Combustion Ramjet)と呼ぶ新世代のエンジンで加速され、高度80,000 フイートをマッハ6.0+で約300秒間巡航する。エンジンが発生する高熱から機体を保護するため燃料冷却するほか、空力加熱を受ける先端部等に耐熱材料を用いている。

そのX-51A2010526日、最初の飛行試験が南カリフオルニア州上空で行われ、200秒以上極超音速飛行をしたと伝えられる。それ以前の実験機の飛行時間はわずか12秒程度なので、実用化へ大きく踏み出したと言えるのかもしれない。

極超音速飛行技術が実用化すると、次の応用分野が開くと考えられる:
1.
スペースシャトルや大型液体ロケットに代わる宇宙往還機の出現
大気を取込み、ジェット燃料を噴射・点火して推進するので、酸化剤を携行する必要がなく小型・軽量で安価な往還機の実現が期待できる。
2.査察能力の飛躍的向上

地球を周回する衛星から、地上の特定地域を偵察することは非効率である。極超音速機を目標上空に直接飛ばすことによって必要な情報を、必要な時に、より精度よく取得できる。高空を高速で飛行するため、地上から迎撃を受ける可能性は少ない。
3.地球上の任意の目標を攻撃できる
従来の巡航ミサイルより飛行距離が長く、弾道弾より低空を自由に飛行する。この種の攻撃兵器の出現を想定した対応策を考えねばならない。
4.グローバル商業輸送の高速化

レーガン大統領が提唱したOrient Expressがこの技術をもとに実現すれば、大陸間輸送時間を大幅に短縮できる。

SCRAMJETは、固体ロケット・液体ロケット・ターボジェット・ラムジェットに続く革新的な推進技術で、上述のように将来の多様な用途が期待されるところから、米国以外の各国(オーストラリア、インド等)も開発に乗り出している。

我が国では、航空宇宙技術研究所(NAL)SCRAMJETの地上燃焼実験に成功している。燃料冷却は、人工衛星打上げ用液体ロケットのノズルスカート部に燃料を循環させる方式を実用化して久しい。高強度炭素繊維複合材は航空機の各部構造材に使用している。戦闘機をプラットフオームとした国内射場での飛行試験は半世紀の豊富な実績がある。

ハイテクかつ大規模技術の粋であるSCRAMJETの国内開発を尚一層加速し、米国に追従して行かねばならない。

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[3] 高出力レーザー

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ファイル:YAL-1A Airborne Laser unstowed.jpg米空軍は、ABL (Airborne Laser)と呼ぶ高出力化学レーザーをジャンボ機B747に搭載し、ブースト期の弾道弾を破壊する実験を行っている。この化学レーザーは酸素沃素レーザー(Chemical Oxygen Iodine Laser: COIL)と呼ばれ、出力は数メガワット(106watt)だと言われる(注参照)

我が国は、北朝鮮からの核弾道弾攻撃に備えて、防衛システムを構築中である。それは二層式になっており、まず発射された弾道弾の中期飛行段階でAegis艦に搭載されたSM-3ミサイルで洋上迎撃し、射ち漏らした弾道弾を終末段階で主要都市周辺に配備されたPAC-3ミサイルで撃ち落とす。

これで十分かと言えば必ずしもそうでない。ここにもう一層の防御網として期待されるのがABLである。国際緊張時、弾道弾発射基地に近い上空をB747が遊よくし、打上げられた弾道弾のブースタが放射する熱を探知・追尾し、レーザーを照射して飛行を停止させる。

一般に、レーザーは民生分野の情報機器に用いられる半導体レーザーがなじみ深いが、その出力は一個の素子で5W程度である。ここでいうCOILは、酸素に沃素を衝突させ沃素分子が発生する赤外線レーザー(波長1.315μm) を利用する。用途としては上述の軍事利用のほか、地球を取巻くスペースデブリの清掃が考えられる。

高出力レーザーには、他に二酸化炭素を用いたガスダイナミックレーザー(GDL))がある。その波長は、大気の窓(1012μm)を透過できる遠赤外域(9.410.6μm)なので、地上設置型の対空兵器に適しているが、現在のところ出力不足と考えられる。

高出力レーザーが車載可能なまでに小型軽量化されれば、短距離防空兵器体系に大変革をもたらすことだろう。対空機関砲、携行SAM、短距離SAM等が一挙に旧式化するのだ。

我が国での高出力レーザーの研究は、各大学が行っている。しかし、それらは未だ可能性研究段階にあり、多額の資金を要する実用化研究に至っていない。研究者達は基礎研究だけで成果あったとして満足せず、進んで次段階に挑戦すべきであろう。

実用研究時に立ちはだかるのが、平和利用か軍事利用かの岐路である。一般論だが、学会では軍事利用は何故かあまり歓迎されないようだ。しかし、国費を使って行った研究を国防に利用されるのを忌避するようなら、研究者としての資質を厳しく問われねばならない。

自分の研究が実用化され、国防に役立つことを願う研究者が多数現れることを期待したい。 

() ABL
http://www004.upp.so-net.ne.jp/weapon/abl.htm

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[4]
システム開発力に疑問

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製造段階に入った国産初の小型ジェット旅客機「MRJ」のイメージ(三菱航空機提供)ここで言うシステムとは、複雑・高級・大規模の三拍子を兼備えた人間の創造物を言う。万里の長城は大規模ではあっても構造は単純、技術も高級ではない。地球を周回する国際宇宙ステーション(ISS)は、米国を始めとする各国の様々な機関から支援を受けるシステムである。我が国では新幹線がシステムの代表と言える。航空管制・都市交通管制なども姿を見せないが、心臓部に大規模なソフトウエアを持つ我々に身近なコンピュータシステムである。

これからのシステム開発の目玉は、JR磁気浮上式鉄道であろう。この超電導電磁石により加速されるリニアーモーターカーは2003年、最高速581Km/hを記録した。今後、名古屋・東京間に軌道を敷設し、2025年には営業開始の予定だと言う。

この先を行くのが、上海市内・浦東空港間を結ぶ上海トランスラピッドである。ドイツの技術を導入したこの磁気浮上式鉄道は200212月に開通し、最高時速430Km/hで運行している。現在の利用可能な技術を使って上手にまとめ上げ、我が国とは20年以上もの差をつけてしまった。今後さらに上を行く高速交通機関を投入してくるだろう。

我が国のシステム開発の遅滞の実例がここにある。高度な技術の実用化を狙うあまり、費用と期間をかけた挙句他国に追い越され、優位性を奪われてしまう。

もう一つの例が、現在開発中の中型輸送機 MRJ (Mitsubishi Regional Jet)である。国産輸送機YS-11の後継機の開発が延引し続けて来たが、20084月三菱重工を中核として政府を始め民間各社が協力して開発を始めることとなった。得意とする複合材を始め最新技術を結集して開発を進め、2013年にはANA15機(オプション10機)引き渡す予定となっている。

一方、JALはブラジルのエンブラエル機(ERJ-170)10機輸入し、名古屋・福岡間には20082月から就航させている。エンブラエル社は世界の航空機製造会社の中で、エアバス・ボーイング・ボンバルディアに続く世界第4位のシェアを占める。ここでも我が国は決断が遅れに遅れて他国を利する結果になっている。

プロジェクトを立ち上げ、軌道に乗せるにはこれと言った奇策はない。関係者の、必ず実現して見せると言う息の長い意欲次第である。技術屋だけが声高に叫んでも、餅は餅屋で事務屋の援助を借りなければ先へ進まない。

新しいシステム開発体制を組むには、いわば、I字型で表わされるスペシャリスト達が、縦割り組織内に籠るばかりでは新しい着想のもとに済々と開発を進めることはできない。I字型人間は、自分の専門分野を深く掘り下げるタイプで、間口が狭い。これに、T字型のジェネラリストを配し、組織をフラット化する。T字型は、自分の専門分野に隣接する分野にも浅いが広い識見を持つので、彼等が肩を並べてシステム全般が看視できる体制を組むべきである。

開発は性能・費用・期間の三点で競合相手方を凌駕する戦略目標のもと、「運用と技術の整合」・「基本設計」・「詳細設計」・「試作」・「試験と評価」の段階を追って、客観的な「審査」を交えながら済々と進める。下請会社は数社から同一条件のもとで提案を受けて選定する。設計は通常の工学的手法に、信頼性・整備性・安全性・価値等のシステム工学を採りいれる。

優秀な基礎技術を持ちながら、リスクの多い大規模開発に踏み切れず徒に時間を空費し、他国に出し抜かれる愚を繰り返してはならない。自分はやるべきことはやった、と自己満足してもプロジェクトが敗北したのでは何の意味もない。

烏合の衆が集まって作り出した流れは勢いを失い、責任を回避し時流に身を任せる結果となる。プロジェクトの実現に命を懸けて取り組む志士のような連中に任せたなら、自然に滔々とした流れができて行く。 

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[5] 韓国に水をあけられた日本

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 20世紀後半、世界の船舶竣工量のうち日本が約5割のシェアを確保していたが、21世紀に入り韓国が日本を凌駕する時代に変化し、さらに中国が日本を追撃する事態を迎えている。世界の竣工量は1990年代に入って増加の一途をたどり、2000年代はより急峻な伸びを示しているが、日本の伸びは微増、一方の韓国は大幅な増加傾向となっている。

造船業界の雄・三菱重工長崎造船所は、ここ二〜三年分の仕事量にあたるガス・コンテナ・自動車などの運搬船を中心として40隻は確保したと言うが、世界の新造船の建造量が大幅に増加しているにも拘らず、その恩恵に十分浴していないように見える。過去の造船不況の反省から設備投資を極力控える一方、空いている下請会社の船台を活用することで受注量を格段に増やせないだろうか。昨今の不況で、3K職場へ人が集まらない等過去の造船のマイナスイメージは払拭された。韓国の造船各社は、伸びる需要に応えるために増産の積み増しをしている。日本側もそれ以上の努力が期待される。団塊の世代が定年退職する時代を迎えて、バブル期に増えた労務費のコストに占める割合が減り、物価の下落や円安基調にも支えられ、我が国の新造船事業の国際競争力は回復に向かっている。今や、悪化した雇用を下支えする役割も期待される。長引く不況下で、またとないチャンスを逃してしてはならない。

発光ダイオード(LED)は白熱電球と違って、電力を高い効率で光に変換できるので熱を出さない、耐用命数も長い(710)等の利点がある。特に、日亜化学工業の中村修二氏が青色LEDを発明して以来、既存の赤色及び黄色LEDと合わせて交通信号用に利用するほか、3LEDによる白色発光が実用化され、携帯電話・PCTVのバックライトに応用されている。

20055月釜山へ旅したとき、市内の交通信号灯が全部LED化されているのを目にした。日本では2002年から導入が始まったが、2007年現在、LED方式の信号機の普及率は1割程度に留まっているという。最初は電灯の在庫整理を優先するためと思ったが、交通信号灯は1年毎に交換しなければならないので、LEDへの切り替えに二の足を踏んでいるのはむしろコストに原因がありそうだ。

韓国は、国を挙げてこの有望なLED産業の育成に力を入れている。液晶テレビと同じく、追いつき追い越されるのか?今度こそ先発の価格主導権を有利に活用できないか。今国内で売り出しが始まったLED電球は、一個4,000円と言う。すぐさま追い上げて来る韓国とどう戦うか今度こそ家電業界の真価が問われる。

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[6] 太陽光発電はドイツがリード

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2005年、日本は太陽光発電のトータル導入量と年間導入量でトップの座をドイツに明け渡した。現在、年間導入量で日本は、スペイン・米国に抜かれて4位となっている。

それまで日本の太陽光発電市場をけん引したのが1994年度から2005年度まで続いた「住宅用太陽光発電導入促進事業」で、一般住宅に太陽光発電設備を設置する費用の一部を国が補助した。この事業は、後述のドイツに比べてどちらかと言えば健全な性格のものであった。ところが、これが終ると年間導入量は一転して縮小傾向になったのである。

一方、ドイツを中心とする欧州各国で自然エネルギー普及に向けてFIT (Feed In Tariff)制度と呼ばれる助成策が実施され、これが劇的とも言える市場拡大効果をもたらし現在に至っている。この制度は、太陽光発電からの電力を電力会社が通常の電力の2倍以上と言う高額な固定価格で20年間買い取ることを政府が保証するもので、魅力あるビジネス投資として関心を呼んだのである。ドイツ政府はこの制度を更に改良発展させている。

ドイツでは太陽光発電を含む再生可能エネルギーが世界で最も普及している。ドイツは再生可能エネルギー比率を、2000年を基準にして2010年までに+12.5%、2020年までに+20%を目標にしてきたが、2007年に+14%を記録し3年前倒しで目標を達成した。最終目標は2021年までに原子力発電所を廃止する、というものである。

太陽光発電は、2004年までは日本が世界一を誇っていたが、2005年にドイツが日本を抜いて世界一に躍り出た。そうとは知りながら経済産業省はそれまで続けてきた補助事業を打ち切ったのだ。代わりに同省が新たに打ち出した施策は、変換効率を上げ、発電コストを下げる研究開発に力点を置く、というものである。これまでの太陽電池の主流(第一世代)は結晶シリコン系であったが、各社が増産計画中の第二世代は薄膜シリコン系等であり、今後は第三世代の新素材の活用に向け動き出そうとしている。具体的には、204050年に変換効率を現在の1015%を40%超に、発電コストを46/kwhから7/kwhに持って行こうと目論む。

他国に比べて日本の技術の方が上、という自負は国内にある。変換効率は日本メーカーの方が上だと言われている。その優位性が行政の失策によって失われ、損失を被ったとすれば事は穏やかではない。関係各社が多大の投資をして苦労を重ねたのとは裏腹に、世界販路は外国に抑えられ、国内の産業基盤拡大に寄与しないのでは意味がない。

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[7] スパコンは米国がダントツ

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Top500 Supercomputer Sites」で見る日本のスーパーコンピューターの凋落ぶりは目を覆うものがある。200911月発表された日本国内新規スパコン台数は16台で、世界中の3.20%にすぎない。これに対し、中国214.20%、米国27755.40%。

199311月日本は10721.40%、米国は23647.20%であった。その頃、名古屋地区では幾つかのエンジニアリング会社がスパコンを導入し、三次元CADのサーバーに使ったり、外部から複雑高級な演算を受けたりして、一種のスパコンブームの観を呈していた。当時に比べると今は、低調この上ない状態に陥っている。

性能面で日本は、1993年航空技術研究所(当時)「数値風洞」(120TFLOPS)2002年海洋研究開発機構「地球シミュレータ」(131TFLOPS)と当時世界最速のスパコンを輩出した。2007年からは、「次世代スーパーコンピューター」プロジェクトが始まり、2012年に10PFLOPSの達成を目標としている。米国はこれに対抗して20092月、20PFLOPSIBM Sequoia」を2011年に達成する計画を発表した。

性能面で日本は米国としのぎを削っているように見えるが、内部は火の車である。20095NECと日立が経営不振を理由にこのプロジェクトから撤退、富士通単独によるスカラー型へ設計変更を迫られる事態となった。富士通自体も前社長との間で係争が続いている。政府の「事業仕訳」では学識経験豊富な仕訳人も、お門違いの科学分野に先見性のある判断を下せなかった。

日本の劣勢が明らかになり始めたのは、199596年頃日本のスパコンメーカーが米国市場に見切りをつけ実質撤退してからである。1980年代から米議会が自動車中心の日米貿易不均衡問題に関連して、日本製スパコンについても国立研究機関への販売規制等を行ったためである。一方、米エネルギー省は、10年間で約1,400億円を投資して100TFLOPSのスパコンを実現させるという「ASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative)」計画を進め、1995年にローレンスリバモア国立研究所(LLNL)のスパコンで137 TFLOPS」を達成し、以後軍事研究用最新鋭スパコンを武器に世界の最先端を走り続けている。

各国のスパコン能力は、年間増設台数(Systems)と演算速度(Performance Share)の二面から評価される。演算速度はFLOPS(一秒間に実行できる浮動小数点演算回数)で測られ、今日はTFLOPS(109)からPFLOPS(1012)の時代に入っている。

スパコンの利用価値は、大規模・複雑・高級な事象をそのまま詳細に「模擬(Simulate)」し、将来を「予測」できることであろう。我が国の「数値風洞」は、模型を風洞に入れて六分力計測する旧来の実験的手法によらず、ナビエ・ストークス方程式を解いて圧縮性粘性流を解析する手法を開拓した。米国は核爆発実験を空中・地中で行い各物質を世界に撒き散らしてきたが、今日では臨界に達した核物質が連鎖反応を起し膨大なエネルギーを放出するまでの瞬時的な核爆発現象をスパコン上で模擬できる時代に入った。今後科学は言うに及ばず、経済・交通分野等でスパコンによる模擬が進み、人類に果てしない貢献が期待できる。

演算速度が向上すれば模擬できる規模が大きくなり、模擬したい規模が大きくなれば演算速度の高速化が進む。その相互作用によりスパコンが発展し、先端科学が進歩を遂げ、それを生み出した国の威信が高まるのである。

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[8] 携帯電話市場は日本が蚊帳の外

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1970年大阪万博にワイアレスホンが出品され、話題を呼んだ。1979年世界で初めての携帯電話が日本で実用化されたが今日、不思議なことに世界の携帯電話市場をリードする地位にいない。

1984年電電公社民営化に際し「日本電信電話株式会社法」(NTT法)が制定され、NTT及び東西地域会社が設立された。1993NTTPDC (Personal Digital Cellular)を発表した以来、これが我が国の通信規格になった。しかし、これを世界の統一規格へ広めることができなかったのは、海外進出を規制するNTT法が足かせになったから だと言われている。1997NTT法は大幅改定されたが、最早時期遅れであった。

2007年の携帯販売実績は、世界で115000万台(前年度比+16%)。2008年予測+10%程度。2007年第4四半期のベンダ別売上は一位:Nokia(40.4%)、二位:Samsung Electronics(13.4%)、三位:Motorola(11.9%)で、日本勢は七位:NEC、八位:パナソニック、九位:京セラと振わず。韓国では国内向けはCDMA方式だが、海外向けは国際規格であるGSM方式の携帯を輸出すると言う柔軟な両面作戦を採った。

我が国は第2世代の携帯では前述のPDCCdmaOneに依ったが、第3世代の時代に入ると国際規格のCdma2000(KDDI(AU))W-CDMA(ドコモ・ソフトバンク)になる。ただし、CdmaOneCdma2000UHFテレビ放送波との干渉回避のため、上りと下りの周波数が他国と逆転しているのでグローバルパスポートCDMA端末以外では国際ローミング(roaming)ができない。ローミングとは携帯電話接続サービスで、提携先の事業者のエリア内に相手の携帯があればサービスを受けることができることを言う。

我が国の携帯メーカは「iモード」、「カメラ」、「ワンセグ」等目先のものを熱心に取り入れてきたが、基本ソフトの進歩は遅々としてきた。操作の流れが一方通行のツリー方式だから隣のツリーに乗り移るには毎回一旦デスクトップまで戻らねばならない不便が長年改善されて来なかった。ソフトバンクが導入したApple社の「iPHONE」はデイスプレイにタッチしつつ画面を進めるので、少なくとも結節部まで戻れば隣のツリーに乗り移ることができる。操作の手軽さは携帯としては画期的なことで、ユーザを格段に増やす契機になった。一時水密構造の携帯がもてはやされたがMicro SDの取出し、装着には手間暇をかけねばならない。色違いのものを多数取り揃えるなど、たわいもない商戦を繰り広げている日本の大電気メーカの携帯技術は矮小化しているように見える。シェア拡大を図るには、小手先ではなく世界のユーザがあっと驚くような技術革新を見せつける必要があるだろう。

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 [9] 遅い地デジの普及

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1989年英国と米国でデジタル放送が始まった。我が国のデジタル放送の草分けはPerfect TVで、1996年に放送を開始した。アナログ放送のデジタルへの切り替えは、各国で逐次進行中:
  2009
年 米国、スウェーデン、フインランド
  2010
  ドイツ、スペイン、台湾
  2011
  日本
  2012
  英国、イタリア、韓国
  2013
  2014
  2015
  中国

我が国では、200612月までに全国都道府県庁所在地で地デジ放送が始まり、その後放送エリアを順次拡大し、2011724日までに現行のアナログテレビ放送を終了する。

米国は、全米971局でデジタル放送への移行が順調に進んだが、2009217日予定のアナログ停波を612日まで延期した。それでも総世帯数の2.5%に当たる280万世帯が地デジ未対応となった。

我が国は、地デジへの移行を極力スムーズに進めるため、デジタルテレビへの買換えに補助金を出すほか、現在視聴しているテレビがアナログであることを画面右上隅に表示して注意を促す努力をしている。各家庭の地デジへの転換が遅々として進まないのは、若年層のテレビ離れや深刻な不況の影響だろうか?

我が国は、トップランナーより二年遅れで地デジ化されることになる。デジタル先進国でありながら、地デジへの対応が遅れたのは何故か。総花的でメリハリがなく硬直化した予算配分が将来、国の基幹となる重点プロジェクトの早期立ち上がりを邪魔している。その悪いしきたりは、初年度は良くて調査費がつく程度で、大抵計画を後ろ倒しにして次年度以降へ先送りしてするのが常態化していることである。そこで、予算もないことだから外国に後れを取っても止むを得ない、と常識との妥協が成立してしまうのだ。

新しいものに果断に予算を付け、古いものに思い切って引導を渡してこそ国の進歩があると思うのだが。

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[10] 海上コンテナ取扱個数は一桁少ない

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2007年の世界の港湾別コンテナ取扱個数は次の通り(数字の単位は万個):
 第1位  シンガポール(2,783)
 第
2位  上海(2,615)
 第
3位  香港(2,399)
 第
4位  深圳(2,109)
 第
5位  釜山(1,327)
 第
24位  東京(412)
 第
28位  横浜(342)
 第
35位 名古屋(289)
 第
44位 神戸(247)

驚くべきことに、我が国の4大港湾の取扱量総和が釜山に及ばないのだ。もちろん、コンテナ船以外の貨物船を含む総貨物容積(2007年、単位:1,000ton)で比較すると下記の通りで、その規模は自動車の輸出等に支えられて釜山より名古屋が若干上回るのだが。

 第8位  名古屋(168,378)
 第
9位  釜山(162,460)

200512月名古屋港に16m大深度バースを備えた飛島南コンテナターミナルが操業を開始した。20104月には、国土交通省が重点整備する「国際コンテナ戦略港湾」に名乗りを上げ、大型コンテナ船の寄港ができるよう深度18mまで浚渫する計画を発表したが、この程度の規模で現在の釜山並の「大型ハブ港湾」にのし上がれるか疑問。むしろ未来永劫、「フイーダー港湾」に甘んじることになるやも知れない。一方でシンガポールのように広大な用地を展開し、コンテナの受入れ・仕分け・再積出し業務を行うだけで後背地の利益に寄与しない大型ハブ港湾は、地域全体からすれば経済的メリットは薄いだろう。海運国と言っても我が国は東アジアの辺境に位置しているので、大型ハブ港湾には適さないのかも知れない。

10年以上前、上海のコンテナターミナルを見学したとき、既に水深18mのバースが整備されていた。喫水の深い大型コンテナ船が就航するのが目に見えているのに、我が国が何等手を打たなかったのが敗因であろう。当時は、我が国も道路・港湾などの大型公共事業を進めていたのだから、重点をコンテナターミナルに移す余地はあったはずだ。

古い族議員の予算の奪い合いや、硬直した縦割り行政に護られて近代化が遅れ、目先の利いた近隣諸国に先を越されてしまったのだ。

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[11] 半導体は大丈夫か

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ウエハー(Wafer)は、単結晶シリコンで作られた円筒状インゴットを薄くスライスした円盤状の半導体基板で、寸法は、直径150mm(厚さ0.625mm)200mm(0.725mm)300mm(0.775mm)等がある。300mm型から取れるICチップは200mm型の約2.3倍にもなり、コストも抑えられるので現在はこのシリコンウエハーが主流になった。

ウエハーの表面に光学写真技術により微細な素子や配線などの像を無数に印刷して多数の同一回路を同時に作り、これから切り離した多数のチップに外部端子などを取り付け、パッケージに封入すると集積回路(IC)になる。

20097月時点のウエハーの生産能力のシェアは、日本24.8%、台湾21.3%、米国16.7%、韓国13.8%、欧州8.8%の順である。我が国が世界最大のシェアを誇り、その中核企業は「信越半導体」(信越化学の子会社)、「三菱住友シリコン」等である。

IC分野では、DRAM (Dynamic Random Access Memory)の生産シェアで見ると20093月で次の通り:
  Sumsung Electronics
(韓国)    35.5%
  Hynix Semiconductor
(韓国)      21.7
  エルピーダメモリー(日本)
       16.9:旧NEC日立メモリー 
  US Micron Technology
(米国)     12.7
  Taiwan Namya Technology
(台湾)   5.5
 その他
                            7.7

韓国勢だけで57.2%を占め、圧倒的な寡占状態にある。エルピーダは回路微細化レベル50nm(50×10-3μm=0.05μm)を可能にする最先端設備を備え、汎用DRAMの製造の主軸は台湾メーカに移す等、経営改善を進めている。

半導体製造設備の分野では、2008年メーカ売上高ランキングは、アブライドマテリアルズ(米)、ASML(オランダ)、東京エレクトロン(日)の順で、ニコン・キャノン・日立ハイテクノロジーズ・大日本スクリーン製造がベストテンに入っている。

材料(ウエハー)と製造設備の二大分野で優位を占めながら、それらを使って作る製品(DRAM)市場では好不況の波に揉まれるとはいえ、他国(韓国)に先を越されてしまった現実に納得できないものがある。総合電子機器メーカが取り扱う商品系列の一翼でしかないIC分野に、必要な経営資源が行き渡らない事情があるのではないか。

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12 クリーンディーゼルはベンツが一番乗り

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2010
2月メルセデス・ベンツは、我が国の「ポスト新長期規制」(平成22年排出ガス規制 NOX40~65%PM53~64%をディーゼル車として初めてクリアしたクリーンディーゼルモデル「E350 BLUETEC」を発売した。

このエンジンの性能は、
    3
リッターV6直噴ディーゼル
    最高出力:
211ps/3400rpm
    10
15モード燃費:13.4km/リッター

この車に適用された新技術は、
     1
ディーゼル油の燃焼効率を高める:
            Piezo Injector
を用いたCommon Rail Injection
            VNT
Variable Nozzle Turbine
     2
窒素酸化物(NOX)・粒子状物質(PMParticulate Materials)の低減:
          排ガス処理システム「
BLUETEC
     
    DPFDiesel Particulate Filter

超高圧に加圧された燃料を畜圧室にあるCommon Railに一旦貯めておき、コンピュータ制御により好きなタイミングで好きな量だけ、あるいは何度かに分けて噴射させて燃費や環境対策で最適な噴射パターンを実現する。噴射器はPiezo式圧電素子に電圧を加えると変形して流路が開く原理を応用。

BLUETEC」とは、ディーゼルエンジンからの排気ガスを浄化するもので、排出ガスに水溶性の尿素液を噴射して アンモニア雰囲気を作り、NOxを窒素と水に還元するという尿素SCR(選択還元触媒)法。

コモンレールシステムは、1995年「デンソー」が開発に成功し、世界で初めて日産自動車の大型トラックに搭載された。世界一の自動車部品メーカー「ボッシュ」は1994年フィアット子会社のコモンレール部門を買収し、小型化に着手。1997年ダイムラークライスラー、アルファロメオの乗用車に搭載した。欧州ではその当時でディーゼル車比率は20%に達していた。

ボッシュと競合する「デンソー」は、2004度売上高に占めるコモンレールの比率は僅か3%に過ぎないが、その性能評価などを行う新実験棟を80億円投じて善明製作所(愛知県西尾市)に建設し、20104月から稼働。「2,000気圧、一燃焼9噴射」で、追いすがるボッシュを引き離しにかかる。

「日本ガイシ」は二種類のDFP(コージュライト及びSiC)を量産している唯一のメーカー。耐熱性に優れたセラミックスで作られたDFPは加熱されると、溜まったPMを燃焼して取り除き捕集性能を維持する。

DPFの表面には酸化触媒が塗られており、エンジンから有毒な排気ガスと共に流れてきた燃料に反応して温度を600℃まで上昇させPMを燃やす。この燃料はエンジンの膨張行程で噴射されるので、燃焼室内を素通りしてそのままDPFに到達する。

2008年日産はすでに「ポスト新長期規制」に適合したクリーンディーゼル「エクストレイル」20GT(マニュアル車)を発売しており、この分野での日欧の競合は熾烈なものがある。 

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 [13] 燃料電池の実用化はいつ?

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1965年米有人宇宙飛行ジェミニ5号で、炭化水素系樹脂を使用した固体高分子型燃料電池が採用された。また、アポロ計画からスペースシャトルに至る電源・飲料水源として、アルカリ電解質型燃料電池が使用された。

燃料電池の形式は、固体高分子型(PEFC)・リン酸形(PAFC)・溶融炭酸塩型(MCFC)・固体酸化物型(SOFC)・アルカリ電解質型(AFC)5種類に分類される。

通産省は省エネルギー政策として1974年「サンシャイン計画」に続き、1978年「ムーンライト計画」を発足させ、ここでPAFCMCFCSOFCの開発が始まった。この二つの計画は後に「ニューサンシャイン計画」に一本化された。

1991年東電五井発電所で、出力11000KWPAFCの実用運転が行われた。1994年ダイムラーベンツが燃料電池自動車の試作車を発表。1997年トヨタが東京モーターショウで燃料電池試作車を発表。2001年ソニー、日立、日電が携帯機器向けの燃料電池の開発を発表。2002年トヨタ(FCHV)、ホンダ(FCX)の電気自動車市販第一号を政府に納入。2003年トヨタ・日野自動車がFCHVを納入。2005年日野自動車が愛知万博に納入。

今日、次世代自動車として盛り上がりを見せているのは燃料電池車ではなく、電気自動車である。燃料電池自体コストが高く、燃料として使用する水素ガスが二酸化炭素を出さないで製造できる技術が完成していない。これに反し20097月三菱自動車が初の電気自動車「MiEV」の市販を開始し、201012月には日産自動車が「LEAF」の発売を予定している。どちらも最大走行距離は160kmで、使用するリチウムイオン電池の充電には時間がかかる(80%充電に1530分)。

燃料電池は、家庭用コ―ジェネとして実用化の可能性が高い。まず家庭に供給されるメタン(CH4)を主成分とする天然ガス(LNG; Liquefied Natural Gas)から水素を分離する。東北大大学院工学研究科が開発したその方法は、二つの化学反応工程を経て水素ガスを高効率で作り出すものだが、二酸化炭素の発生は阻止できない。燃料電池からは電気のほか、利用価値の高い高温の湯が排出される。

421日付中日新聞は、東邦ガスが次世代型燃料電池として開発中のSOFCの業務用に使える高い出力(5kw級)の実証機を本年度中に製作し実用化を急ぐ、と報じた。SOFCは電解質にセラミックスを用いるので電池内の温度を高くでき、酸素イオンと水素の反応が進みやすくなり発電効率は40~65%と高い。供給インフラは、まず水素ステーションを整備し、そこからパイプラインを伸ばして地域の水素ネットワークを構築したいとしている。ガス会社が電気会社に伍する絶好の機会だろう。

発電効率が最も高いとされるSOFCは、酸素イオンのみを透過する伝導性セラミックス(固体電解質)を多孔質の導電性セラミックス電極(空気極と燃料極9とで挟み込んだ構造となっている。固体電解質で仕切られた片側に空気、反対側に燃料ガス(水素や一酸化炭素を含んだガス)を供給すると、
1.
空気中の酸素が酸素イオンになる
2.
その酸素イオンが固体電解質内を移動
3.
燃料中の水素や一酸化炭素と反応して水になり、その際電子を放出するため起電力を生じ発電する

SOFC関連の日本企業は東京電力、中部電力、関西電力、九州電力、電力中央研究所、東京ガス、東邦ガス、大阪ガス、三菱重工業、NKK、三菱マテリアル、東陶機器、日本ガイシ、日本フアインセラミックスセンター等。

Ceramic Fuel Cells(オーストラリア)は家庭用及び小規模業務用SOFCの量産工場をドイツに建設した(建設費約120億円)。

以上の経過から明らかなように、我が国の燃料電池の技術は世界の先端を切って実用化の時代を迎えようとしている。それが家庭用発電装置から広く普及して行くことに期待がかけられる。

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[14] ウオークマンとiPOD 

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ウオークマンはソニーが1979年に発売した携帯用ステレオカセットプレーヤーで、2005年アップルがiPOD の販売を世界中で開始するまでは独占をほしいままにしてきた。

ウオークマンを産んだソニーはオーデイオ技術を、iPODを産んだアップルはコンピュータ技術を背景とし、それぞれに得意な製品を開発した。音質の良さを売りにしたソニーは、コンピュータ技術の動向を見誤ったかMP3ファイルの再生への対応に後れを取り、ユーザの利便に対応できない製品の販売を続けたため、iPODにシェアを奪われることとなった。こうしてウオークマンは21世紀には縮退期に入り、今日国内では高音質音楽や英語教育などの分野を武器に対等のシェアを維持できたが、北米ではiPODの後塵を拝する状況になった。

iPOD nano 8GB(BLUE)PCに接続し、iTunesと同期させてCDから音楽を読み込んだり、iTunes Storeで新しい音楽を購入したすることができる。YouTubeから動画をiTunesにダウンロードし拡張子変換して、同期ボタンをクリックすればiPODに転送してくれる。歩数計が測定した結果はPCに接続するとNikeサイトに転送され、累積データを表示してくれる。一方ウオークマンにはSonic Stageがあり、音楽配信サイトmoraに直接アクセスできると言う。

ソニーは携帯型トランジスタラジオで世界の先駆となった。アップルはそれを抜き、今や二つ折りの財布に収まるくらい薄さ(6.2mm)と軽さ(36.8gr)を実現している。

PC愛好家の中で、WindowsよりMacを好む人がかなりいる。使ってみてMacはよりアナログ的で、人との親和性が良いように感じられる。PCを親機とし、これに機能の大部分を背負わせ、端末的なiPODを子機とする構成は優れている。PCiPODを接続し一体として使用すると、充電もしてくれ手間がかからない。

アップル社は、iPHONEに続きiPADを発売し、大好評を続けている。どれも「革新性」と「使いやすさ」が愛好家に認められたからだろう。これに対し、最新版のWindows7では、システムの不時停止が起らなくなったものの、Internet Explorerの不時停止が頻発する等、不便を感じざるを得ない。これから、Windows系からMac系への回帰が始まるかもしれない。

我が国のコンピュータ業界は革新性に欠けている。大企業の一部門に押し込められていたのでは、斬新な発想が産まれそうもない。iPHONEの模倣を公然と行っているのは恥知らずだ。昔サンノゼ(カリフオルニア州)にコンピュータ企業群が自然発生し、ソフトウエアが急速な発展を見せたように、奇想天外なアイデアを具体化しようとする若者達が大企業のくびきから解き放たれてIT会社を設立し、自由に活躍できる社会を実現せねばならない。

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[15] 液晶テレビも韓国に水をあけられた

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米調査会社「DISPLAY SEARCH」が発表した2009年全世界液晶テレビ出荷台数シェア(数字は%、カッコ内は前年比)
  1. サムスン電子()  23.3(+2)
  2.
ソニー()        12.4(-2.9)
  3.
LG
電子()     12.4(+2)

前年比37%増と好調な業界内でソニーは勿論、パナソニックもシャープも年々シェアを落している。

液晶パネルについてもシェアは:
  1.
LG
ディスプレイ() 25.2
  2.
サムスン電子()  24.6
  3.
AVO(
)            17.9
  4.
CMO(
台:奇美電子)   14.6
  5.
ハンスター()      3.5
  6.
シャープ()         2.8

シャープは、2004年世界初の液晶テレビ一貫生産工場を三重県亀山市に建設し、2008年第二工場も稼働させた。更に2009年大阪府堺市に新工場と、次々に生産規模を上げているのにシェアを失う訳は、工場集約などのコスト削減に追われ積極的な販売攻勢に出られなかったことによるものとされる。パナソニックも液晶パネル工場を兵庫県姫路市に建設し、生産ラインは4月に前倒しして稼働を始めている。

韓国では、LG電子がサムスン電子より5ミリ薄い厚さ24.8ミリの超薄型LEDテレビを発売した。韓国勢はLED液晶テレビを本格的に投入して、ウオン安を背景に新興国向けに販売を拡大している。

サムスン電子は、米国で3Dテレビ(液晶・LED液晶・プラズマ)を20103月から7月にかけて販売を始めている。パナソニックも3DVIERA)プラズマテレビを4月に、ソニーも3DBRAVIA)液晶テレビを6月に発表する。こうして、主戦場は3Dテレビに移りつつあるが、用途は3Dテレビ対応番組に限られるという制約がある。

シャープは、自然界に存在する物体色を99%以上表示可能な液晶ディスプレイを開発した。RGB(赤・緑・青)3原色にC(シアン)Y(イエロー)を加えた5色のカラーフイルター化に成功した。プリンターの4色カラーを、7色に増やしたのとはわけが違う。RGB3色を一つの画素で表わして来たのを5色にするには、現在の凋密度とされる100ppi(pixel per inch)を更に上げることが必要になる。この液晶ディスプレイと、専用の信号処理装置で構成される「マルチプライマリーカラー技術」が、やがて次世代液晶テレビとして登場して来るだろう。現に、シャープはそれに先だって4原色技術(RGB+Y)を採用した液晶テレビ「AQUOS クアトロン」をこの7月に発売するとしている。

こうして日本勢が次世代テレビの先端を切りつつあるが、昨今いつの間にか後発に追い越され、挙句は販売量で大差をつけられてしまうのは納得しがたい。特許戦術が不十分とか、技術・生産・販売の各方面で齟齬を来たすとか、新興国などへの海外販売が不得手とかで、他国に付け入るすきを与えているのではないか?

重工業は海運不況で新造船の建造が減れば、「海から陸(おか)に上がって」発電所の受注に取組むことで社業の安定化を図って来た。この傾向は電気業界でも同じで、重電と弱電の境界が崩れて原動機から家電まで間口を広め、却って各事業の活力を失わせてしまった。製品間口が比較的狭いシャープは成長分野へ資源を集中して投入できる。ボッシュと競合するデンソーはデイーゼルエンジン用コモンレールの開発に巨額の投資を敢えてした。限りある資源を思い切って将来の成長分野へ充当する経営の決断力が、会社の死活を担っている。

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[16]
世界的な原発ブームの波に乗れるか

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主要国の原子力発電量、発電所基数(運転中)及び全発電量に占める割合は次の通り(200512月末現在)。
   米 国:
10,274.5KW, 103基、19.3%
   フランス:
6,602.0KW  59基、78.5%
   日 本: 
4,822.2KW  54基、29.3%
   ロシア: 
2,355.6KW  31基、15.8%
   ドイツ: 2,137.1KW  17基、31.0%
   韓 国: 
1,771.6KW  20基、44.7%

フランスは「入原発」、ドイツは「脱原発」と対照的な電力政策を進めている。

全世界で建設中の原発は3,140.5KW36基(うち日本4、ロシア3、韓国4)、計画中は4,006.0KW39基(うちフランス1、日本9、ロシア2、韓国4)である。

米国は1979年スリーマイル原発事故以来、原発を作って来なかったが、このほど東芝が総事業費6,000億円で最初の原発の受注を果たした。

原発を作って来なかった米国に代わり、最新式原発を作る技術を養成してきた企業は下記の日本の三社しかない、と言われる。
  
日立製作所:ゼネラルエレクトリック
   東芝:ウエスチングハウス
   三菱重工:アレパ(仏)と提携

WH
は以前、三菱重工と提携していたが今回、東芝に買収された。

20基の原発の運転実績のある韓国国営企業は、アラブ首長国連邦(UAE)に設置する原発4基を200億ドル(約19200億円)で受注した。しかし、その基幹技術(原子炉冷却技術・原発計測システム等)を提供するのは、東芝(WH)になるだろう言われる。

韓国が輸出に強い一般的理由は、下記のごとくとされる:
  1.
ウオン安:2年前に比べて円建てで、3割下がっている
  2.
法人税安:課税標準の22%と、日本の30%より安い
  3.
価格を国内は高く、輸出は安く誘導している

20102月ベトナム中部に建設する原発第1期工事(原発2基)を、ロシア国営の原子力企業が受注した。軍事や資源協力を武器にしたロシアのプーチン首相のトップセールスが成功し、フランス勢と日本勢(三菱重工)との競り合いに勝利した。プーチン首相は、原油・天然ガスや潜水艦( 6隻)を含めた包括提携を打ち出し、ベトナム側がこれを受け入れた。日本としては、2期工事以降の受注に向け、同業同士の足の引っ張り合いを止め、従来以上の国家戦略的攻勢を強める必要がある。

世界で新たに原発の導入を検討・計画している国はアジアや中東、アフリカ等で20カ国以上あるとされる。1986年旧ソ連チェルノブイリ原発の事故以降、世界的な脱原発の流れが続いたが、最近では火力発電等の温暖化への影響が懸念され、再び「原発ブーム」に火がついている。

インドは今後十年間で原発を二十基以上建設する計画をしている。英語圏に属し、民主主義の同国とは地政学的見地からも友好関係を深めねばならない。米国、フランスなど大規模な原子力発電企業を抱える国は既にインドと原子力協定を結んでいる。インドは核拡散防止条約(NPT)未加盟のまま核開発を続けてきた経緯があり、被爆国である国内から反対する声が上がるのを恐れて、我が国は原子力協定締結交渉に入れなかった。少しでも反対の烽火が上がると委縮してしまう政治家の弱腰が、大型国際案件逸注を招いているのである。

韓国やロシアのように、国家元首等が進んで受注活動の先頭に立つ様を我が国は見習わねばならない。バブル期以降、産業界に広がる無力感を国が助長してはならない。企業の海外受注活動を支援すべき通商産業省も気を取りなおし、本気になって受注戦略を立て推進しなければ、国家の斜陽化がますます進むだろう。今日の閉塞状態を打破する起爆剤になることが期待される。

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[17] 宇宙開発競争に勝ち残れるか 

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我が国の宇宙開発は、
  固体ロケットによる科学衛星(文部省宇宙科学研究所:
ISAS)打上げ
  液体ロケットによる商業衛星(科学技術庁宇宙開発事業団:
NASDA)打上げ
の二本立てで行われて来たが、
2003年この二機関が統合されて、独立行政法人「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」となった。宇宙開発は国家の重要課題なのに、これを行財政改革の一環とはいえ国家組織から外れた一法人に任せてよいのだろうか。上部に宇宙開発委員会(文部科学省)、宇宙開発戦略本部(政府)があるとはいえ、我が国には米航空宇宙局(NASA)のような中核的存在はない。

惑星探査機「はやぶさ」を宇宙に送り出したM5ロケットはその後高価と言う理由で退役し、淵野辺のキャンパスに身を横たえている。先人はこの固体ロケットに我が国が有事の際、弾道弾としての使命を託したのだが今日、その退役に誰も異を唱えないのは誠に残念なことである。太平洋を越え北米に向かうICBMを追跡し破壊できる唯一の抑止力なのだが。

科学技術庁の液体ロケットは、それまでの防衛庁の液体ロケット技術を引き継ぎ、防衛庁新島試験場(東京都)を借りて打ち上げられたLS-Aロケットから始まる。その後、第1段に液酸・液水エンジンを用いたHUロケットを開発し19941号機の打ち上げに成功した。しかし、その打上げ費用は欧州連合のアリアンロケットより高価であるとされ、低価格化を進めたHUAの打上げは二度にわたって失敗した。

失敗原因の究明が進み、連続して打上げが成功するようになって、JAXAはロケット組立担当の三菱重工に、種子島での打上げ作業も任せることにした。200991段ロケットを二本束ねたHUBロケットに、国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)へ物資を搬入する宇宙ステーション補給機(H-UTransfer Vehicle: HTV)を積んだ初めての打上げが成功して自信を深めた。

衛星打上げビジネスは、韓国から1機受注したに留まる。種子島(北緯3 024分)から打上げられた衛星は、ギアナ宇宙センター(北緯53分)から打ち上げられるアリアンロケットに比べて赤道上へ移動するために燃料を消費するので寿命が短いと言われるが,ならばロケット側で衛星を赤道上まで運搬してはどうか、と知恵を絞っている。

20105月韓国はロシアと開発した人工衛星打上げロケット「羅老号」の打上げに失敗した。その1段目はロシア、2段目を韓国が開発したが、爆発は1段目に起こったと見られる。昨年8月に行われた1回目の打上げでも衛星の軌道投入に失敗した。

1995年中国は長征2E型の爆発事故で地元住民6人が死亡、1996年長征3B1号機が地元の町に飛び込んで500人以上死亡する事故を起こした。2008年中国の威信をかけた有人宇宙船「神舟7号」を打ち上げ、宇宙空間で船外活動を行った。

長征シリーズの第1段は、発がん性のある非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)を使用している。北朝鮮のノドン・テポドンも同じ推進剤を使用している。中国は、無公害の初の液酸・液水エンジン「長征6号」を2013年に完成すると発表した。2006年には推力50トンクラスの液酸・液水エンジンの燃焼試験を成功したとされており、長征6号にこれを搭載するものと見られる。摂氏マイナス二百度以下の極低温状態にある液酸・液水を昇圧し、燃焼室に送り込む超低温タービン技術を会得することができたのだろうか。

宇宙開発の最大の目標は、有人月面着陸であろう。米国と中国も名乗りを上げ、その争いが始まっている。我が国も無人探査機技術や、ISSの利用等で中国に断然先んじており、近い将来この競争に割り込むことだろう。特にISSは月旅行の中継基地として、利用価値が高いと思われる。それもこれも、借金漬けの我が国の財政が改善の兆しを見せ始めてのことだが。

打上げ用ロケットにも次世代エンジンの出現が待たれる。SCRAMJET (Supersonic Combustion Ramjet) がその第一候補である。空気を超音速のまま吸入しジェット燃料と混合して燃焼させ推進力を得るもので、20105月米空軍はその飛行試験に成功した。これをロケットの代わりに使用すれば、酸化剤を満載したタンクを搭載する必要がないだけ、小型軽量・低価格化が実現できる。 我が国は液酸・液水エンジンの開発を成功して以降、新型エンジンの開発が行われて来なかった。この際、SCRAMJETの開発に取組み、我が国の宇宙開発技術を更に前進させるべきである。

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[18] 超高速度カメラは世界一 

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高速シャッタ我が国を代表する精密機器メーカー「島津製作所」が発表した超高速度カメラ「HPV-2A」の主要諸元は、
  1
秒当りコマ数 100万〜30コマ
  画素数     
312×260ピクセル(モノクロ)
  撮影枚数    
100
である。用途は、研究用・教育用等と考えられる。

米国AMETEKグループのVision Research社が発表した「Phantom V640」は、
  1
秒当りコマ数 最高30万コマ(通常1,500コマ)
  画素数     
2,560×1,600ピクセル(カラー)
で、一般撮影家向けと考えられる。

最近、話題を呼んでいるナック社の「ULTRA Cam HS-106E」は、
  1
秒当りコマ数 125万コマ
  画素数     
360×410ピクセル(カラー)
  撮影枚数    
120
と、傑出した性能を誇る。同社は昔から防衛庁技術研究本部の研究開発に光学機械の分野で参画してきた。この超高速度カメラは、
NHK放送技術研究所と近畿大学理工学部江藤剛治教授とが共同で開発したISIS(In-Situ Image Storage)-CCDイメージセンサー(画素周辺記録型撮影素子)を採用し、製品化は()日立国際電気が、()ナックイメージテクノロジーがシステムを担当した。今までの出荷台数は、僅か10台に過ぎないと言う。当該製品の国外持出しをする場合はリスト規制対象貨物に該当するか否かを判定する必要がある。

江藤教授は語る:
ISIS
は例えば10万画素の撮影素子であると、10万個すべての画素の中に100個のメモリーを作り込んだ素子を言う。撮影中は画像信号を外部に読み出すことなく、各画素で発生した信号はその画素中の記憶要素に順次記録する。このようにして10万画素で一斉に並列的に画像信号を記録する。すなわち通常の撮影素子のように、一本の読み出し線で順次画像信号を外部の記録領域に読み出す場合に比べて10万倍の撮影速度を実現できる。

超高速連続撮影で問題になるのは感度不足で、非常に強い照明が必要になる。今後の課題は1,000万枚/秒で、光の粒子を11個感知できるほどの超高感度を持つISISを開発することである。

戦時中に投下された爆弾が不発のまま発見される事件が未だに続いている。着発信管の不作動と考えられるが、高速で落下してきた爆弾が構造物や地面に衝突した時、内部でどんな現象が起るか、当時は予測する術がなかった。今日では高速衝突現象を数値的に模擬する技法が発達したほか、超高速度カメラで現象を目視できるようになった。

我が国の光学技術と半導体技術が融合して、独自の新分野を拓いて行く姿勢は、誠に頼もしい限りである。物欲に飢えた他国が、この特殊分野に食指を動かしてくることは当分ないであろう。

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[19] 核融合技術は進歩しているか?

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LHDの真空容器1942年夏、オッペンハイマーがバークレー(カリフオルニア州)で催した核物理学の会議で、エドワード・テラーが熱核兵器のアイデアを持ち出した。彼はその後開設されたロスアラモス研究所で核融合にのみ関心を抱き戦後、原爆を起爆剤にした水爆実験に成功し「水爆の父」と呼ばれた。

太陽の内部で起っているとされる核融合反応は次の通り:
■ 重水素
(D)2個結合させると、陽子と三重水素(T:放射性物質)ができる(DD反応)
■ 不安定な三重水素
(T)は再び重水素(D)と結合してヘリウムと中性子になる(DT反応)

この二段階を経る間に質量が減り、代って膨大なエネルギーが放出される。

DD反応を実現するには6億度と言う高い温度が必要なので、6000度で済むDT反応が実際的である。重水素(D)は海水中に無尽蔵に存在する。三重水素(T)は、DT反応の際発生した中性子をリチウムに照射するか、または原子炉内で中性子をリチウムに直接照射して造り出すことができる。

原発では半減期の長い放射性廃棄物ができ、その長期保存が課題だが、核融合では高速中性子が放射されるので、その被爆対策を講じたり中性子が外部に漏れないよう遮蔽するなどしなければならない。

我が国には、二つの核融合研究機関がある:
日本原子力研究開発機構「那珂核融合研究所」核融合研究開発部門
国際熱核融合実験炉
(International Thermonuclear Experimental Reactor: ITER)EU、ロシア、米国、韓国、中国、インドの七極と共同開発中である。この実験炉はドーナツ形状のトカマク型、核融合出力500MWで、2018年ごろ運転を開始する予定。ITERの設置場所は、フランスと我が国の間で争われたが20056月、フランスのカダラッシュに決まった。この時、日本はITERプロジェクトのスタッフの20%を提供し、欧州は調達の5分の1を日本に委譲することで合意した。また、ITER後に核融合実証プラントを我が国に建設するために必要な諸計画が含まれることになった。
自然科学研究機構「核融合科学研究所」(岐阜県土岐市)
名古屋大学プラズマ研究所が中核になって設立された研究所で、大型ヘリカル装置
(LHD)を備え、年間予算約130億円を投じ、超高温・高密度プラズマの定常的な維持を研究目標にしている。現在、LHDが稼働している厚さ2メートルのコンクリート製の大型建屋に将来、核融合実証プラントを誘致し、世界の核融合発電のメッカになることが期待される。

物質には固体、液体、気体があり、これに続く第四の状態がプラズマである。プラズマは原子核と電子がバラバラになった状態で、通常まぶしい光や時として不気味な音を発する。これが空中で古典的運動力学では説明不能な不可解な動きをするUFOとして人の目に映るというのである。 このプラズマの温度と密度を上げて行き、ある限界を超えると原子核同士の融合が始まる。

実証プラントの我が国への誘致には、政府が過去の経緯を踏まえ必達の構えで取組まねばならない。

*********************

[20]
炭素繊維は世界一

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ボーイング787(写真提供 ボーイング社)1959年ユニオンカーバイドの子会社ナショナルカーボンが「レーヨン系炭素繊維」を2,500°Fで延伸すると結晶化し強い強度が得られることを発見した。このレーヨン系の炭素繊維は今日廃れている。1961年通産省工業技術院大阪工業試験所(現産業技術総合研究所)の進藤昭男博士が「PAN系炭素繊維」を発明した。

我が国の炭素繊維商業生産は1970年代初頭から「PAN系」(石炭タール)と「ピッチ系」(石油ピッチ)で本格的にスタートし、1980年代後期から「異方性ピッチ系炭素繊維」が加わり、国内メーカーが技術改良・事業拡大を図ってきた結果、現在では日本の炭素繊維生産は品質、生産量共に世界一の実績を誇るに至った。その特性値は「PAN系」を例にとると、密度1.741.96グラム/立方センチメートル、直径57ミクロン、長繊維である。

国内メーカーは、
PAN系:東レ、東邦テナックス、三菱レイヨン、HexcelCytechSGLカーボン
ピッチ系:三菱樹脂、クレハ、大阪ガスケミカル、日本グラファイトフアイバー

2006年東レがボーイングと7,000億円の炭素繊維を供給する大型の契約を締結した。三菱重工はボーイングから次期輸送機B787用の世界で初めての炭素繊維製主翼を受注し、名古屋航空宇宙システム製作所大江工場に大規模な一体翼製造工場を展開した。20106月までに25機分の主翼を出荷・納入済である。

何故我が国が炭素繊維の生産と製品化で圧倒的な強みを誇っているのだろうか?それは、世界的に未だ大量の需要がないからで、市場規模がまだ小さいから、後進国がそれを食い荒らそうとする食指を動かさないだけなのだ。需要が増え、技術も手の届くところに来ると、政府が後押しして無理押しして来るのは目に見えている。

この構図は米国を追った当時の我が国に例えられるかもしれない。だが我が国は高価なライセンス料を支払いコア技術を導入し、その上に高度な自前技術を培ってきた。

今日の韓国・中国等後進国は、コア技術は我が国から輸入し、周辺部を自作して製品を完成させて売るという儲け本位の政策を基本としている。こうした、高等技術を生み出す基盤を欠いた国の、将来の展望は期待できないだろう。

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有機ELディスプレイも他国に?

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有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display)とは、電圧をかけると発光する物質を利用したディスプレイのこと。

発光体をガラス基板に蒸着し、510Vの直流電圧をかけて表示する。発光体にジアミン類などの有機物を使うので有機ELと呼ぶ。 有機ELは低電力で高い輝度を得ることができ、視認性、応答速度、寿命、消費電力の点で優れ、 液晶ディスプレイのように薄型にすることもできる。従来は硫化亜鉛などの無機物を発光体に使う「無機ELディスプレイ」が主流であったが、カラー表示が難しいなどの問題があり、用途は限られていた。有機ELはカラー化が容易で、無機ELよりはるかに低電圧の直流電流で動作するなどの特長があり、携帯端末の表示装置などへの応用が期待されている。200712月ソニーは、世界初の11型有機ELテレビXEL-1を発売している。

我が国の各社も有機
ELの開発に取り組んでいるが、商品化できるようになると他国がそれを先取りしてしまうのは目に見えている。部品レベルでの発明のその後の運命は投げ入れられた餌に似て、目先の利く鯉共が先を争うように奪い合う結末に至るだけである。
 

2010814日付中日新聞に次の記事が掲載されている:
今年上半期の韓国から日本への輸出額は
12824百万ドル、輸入額は3095百万ドル。日本からの輸出額の増加は韓国が世界に輸出する工業製品が拡大し、日本製の部品・素材輸入が増えたのが主な要因。反面、日本向けの製品輸出の伸びは相対的に小さかった。 

日本の電気メーカは韓国にICや液晶パネルを輸出し、韓国は携帯電話や薄型テレビに組み込んでウオン安を武器に、主に市場が拡大しつつある新興国に輸出する。日本の代表的電気メーカは韓国企業の下請に堕している。 

20基の原発の運転実績のある韓国国営企業は、アラブ首長国連邦(UAE)に設置する原発4基を200億ドル(約19200億円)で受注した。その基幹技術(原子炉冷却技術・原発計測システム等)を提供するのは、東芝(WEC: Westinghouse Electric Co.)になるだろう言われる。東芝は韓国企業の下請に入ることになる。

世界最高の原発技術を持つと言われる日立、東芝、三菱三社が海外の原発を逸注したのは、裏で各社間の足の引っ張り合いがあったからではないかと言われている。もしこれが真実なら国益優先で直ちに合併させて一つの企業体にし、無用な内部摩擦を廃するべきであろう。

造船不況の折、造船会社は陸(おか)に上がって火力等発電所事業に取組み、陸海いずれの不況に際会しても会社が存続できるようにした。電気会社も、間口を強電から弱電に至る幅広い分野に広げ、社業の安定を図った。その結果、どの会社も同じ品種を取りそろえ、それぞれのセクターで競争を繰り広げるようになった。社内の資源配分は総花的となり、画期的な製品が産まれる可能性が減った。国内の熾烈な競争に精力を使い過ぎて、海外へ進出する余裕を失った。電気会社も例えば強電・弱電・家電・コンピュータと分野別に再編し、国内での競合で精根を擦り減らさずに海外進出できる体質に改めるべきであろう。

スパコン開発は三社共同で進められてきたが、社内事情を抱えるNEC・日立が脱落した。妥協の産物としての技術拠出体制は、親元の思惑ひとつで国家的プロジェクトの運命が左右される不安を抱えている。

今日、企業群の頂点に立つ世界的優良企業を挙げると:
 
トヨタ自動車(日):ハイブリッド車
 
シャープ(日):薄型液晶、太陽光発電
 
ボーイング(米):中型輸送機B787(炭素繊維製機体構造)
 
アップル(米):iPODiPHONEiPAD(先進アプリケーションソフト)
 
ヴァージン・グループ(英):宇宙旅行
これらの企業の共通点は百貨店型ではなく、一つの基幹技術からの発展型である。中でもアップル社は特異で、ハードではなく、ソフトだけを武器にして市場を席巻している。

我が国では、三菱重工が小型輸送機
MRJを開発中で、いずれボンバルディア(カナダ)、エムブラエル(ブラジル)を凌ぐ新型機を世界に送り出すであろう。
部品・材料レベルでの発見・発明だけでなく、小惑星探査機「はやぶさ」のように世界が目を見張る大規模開発を連発して行きたいものである。(以上)

あとがき:
本書は、E-Magazine「史跡探訪」に2010年3月6日から9月5日の間、掲載した評論をまとめたものである。

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