論点:ヘイトスピーチ規制

毎日新聞 2013年11月01日 東京朝刊

 一方、不特定多数に向けられたヘイトスピーチに対しては、どのような対処方法があるだろうか。判決を機に差別的な表現をそもそも法律で認めるべきではないという主張もでてきているようだ。例えば、そうしたスローガンを掲げる恐れがある人たちには、デモを許可しないというわけだ。表現を事前に規制するもので、差別表現は未遂でも違法だというのだろうが、それは行き過ぎだろう。

 海外では今なお、宗教や習俗的な理由で女性を差別し、低い社会的地位を強いているような国がないわけではない。女性の人権を守る活動をする市民団体メンバーが、こうした国々の男性らを、憎悪するような表現で批判した場合はどうなるのか。違法かどうかの区別は難しいが、表現自体が認められなければ、人権団体の活動まで制約を受ける可能性がある。

 戦時中の「鬼畜米英」というスローガンは差別を助長する表現にあたる恐れがあるだろうし、昨年10月の発行号で同和地区名を記した「週刊朝日」も処罰対象になりかねない。刑事罰が設けられれば、捜査機関がこうした表現内容の違法性を判断することになる危険性があり、あくまで慎重に考えるべきだ。

 それではどのような救済方法があるだろうか。あえて問題提起するとすれば、政府から独立した行政委員会が申立人と相手方の間に入って仲裁したり、場合によっては申立人の側に立って勧告を出したり、それでも問題が是正されなければ相手方名を公表するような仕組みが考えられる。

 刑務所や入国管理施設で、公務員による収容者への差別や虐待が問題になった際に、こうした人権救済機関の設置が求められてきた。ただし、日本に先駆けて救済機関を設置したカナダでは、行き過ぎた規制への反省から見直しが進んでいる。日本政府も、人権擁護法案(2002年)や人権委員会設置法案(12年)を国会に提出したが、審議未了のまま廃案になった。

 これには、表現の自由と規制をどう調整するかについて、社会的合意が得られていないという背景がある。やはり表現を禁止したり、救済機関を設けたりする前に、まずは市民社会が不特定多数に対するヘイトスピーチをなくしていくための工夫と努力を尽くすべきだ。法規制は最後の手段である。【聞き手・臺宏士】

 ◇規制、対症療法にすぎず−−阪口正二郎・一橋大学大学院法学研究科教授

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