論点:ヘイトスピーチ規制

毎日新聞 2013年11月01日 東京朝刊

 日本は人種差別撤廃条約を批准したが、差別扇動を法で禁じるよう求める第4条は、表現の自由に抵触するとして批准を留保している。その理由について政府は国連報告や国会答弁で「法規制を必要とするほどの民族・人種差別は国内にない」としている。

 民族差別は「在特会」として現にこの国に存在する。しかも、彼らの活動はエスカレートし続け、京都地裁判決につながった。さらに深刻なのは、その背後に、私たち日本人の在日コリアンに対する差別意識が広がっていることだ。むしろ、日本社会に存在する差別意識が「在特会」という突出した形で可視化されている−−と言うべきだろう。こうした現実が、「ひどい民族・人種差別はない」とする政府見解で隠されてきた。

 「ヘイトスピーチ規制法」を作っても、実際の効果は疑わしい。それでも、立法化により「社会は差別を絶対に許さない」という姿勢を広く示すことに意味がある。私たちが自らの差別意識と向き合うきっかけにもなるだろう。新法ではなく、威力業務妨害罪や侮辱罪、名誉毀損(きそん)罪など現行法で対処すべしとの意見もある。しかし、その方が司法当局による現行法の拡大解釈や恣意(しい)的な適用を許すことになり、危険ではないか。

 少なくとも、法規制を巡って活発に議論していくことには意味がある、と考える。【聞き手・井上英介】

 ◇独立機関による救済も−−田中早苗・弁護士

 京都地裁の今回の判決は、ヘイトスピーチが特定の人たちに向けられたケースであれば現行法でも対処可能であることを示したもので、妥当な内容だと思う。和歌山県太地町のイルカ漁を取り上げた米映画「ザ・コーヴ」を巡っても、上映を妨害する街宣活動に対して損害賠償が命じられたり、映画館周辺での活動を禁止する仮処分が認められたりしてきた。裁判所の判断の積み重ねなどにより、許される表現と許されない表現の境目が徐々に形成されていく過程にある。

 今回は民事裁判の判決だが、威力業務妨害、脅迫などの刑罰を適用する際、人種や出自、民族などを理由にした差別、憎悪を目的にした表現が伴っていれば刑を加重してもよいという議論に影響を与える可能性がある。加重罰であれば、ヘイトスピーチという表現自体を直接罰するわけではなく、より制限的な規制であることから、憲法上も許されると考えることもできる。

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