近江秀味(Ohmi Hidemi) |
大成建設・ボスポラス海峡
横断鉄道建設工事作業所常務役員工事長 |
イスタンブールはローマ帝国、ビザンチン帝国、オスマントルコ帝国の首都としての豊かな歴史に彩られたトルコ共和国最大の都市である。アジアとヨーロッパがボスポラス海峡へ隔てて出会う街でもある。このプロジェクトはボスポラス海峡を横断する海底鉄道トンネルにより、イスタンブールのヨーロッパ側とアジア側を鉄道交通で接続するものである。ボスポラス海峡にはすでに二本の橋がかけられており、自動車交通の用に供されているが、近年の経済発展に伴う交通量増加により慢性的な渋滞とそれによる大気汚染に悩まされている。当プロジェクトは鉄道開通により渋滞解消を目指すものであり、イスタンブール市民にとってはその早期完成が待ち望まれている。
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プロジェクト平面図 |
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プロジェクト全体はマルマライ・プロジェクトと名称され、総事業区間は海峡を横断する13.6kmの区間と既存設備を改良する63kmの郊外区間に分けられる。ボスポラス海峡横断鉄道建設工事は前者区間であり、工事概要は海峡を沈埋工法により結ぶ海峡横断トンネルを含む全長約13.6kmの鉄道トンネルである。工事内容は海峡部の長さ約1.4kmの沈埋トンネル、陸上部の総延長約10.1kmの複線シールドトンネル、NATM(山岳)トンネル駅舎一つ、開削駅舎二つ、地上駅舎一つの建設と全線の設備工事一式が含まれる。工事は2004年8月に着工され、当初2009年4月完成予定であったが、工事エリアの遺跡調査長期化による遅れ(契約外)の影響で、現在では2013年の完成が予定されている。
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プロジェクト縦断面図 |
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工事の最大のポイントは世界有数と言われる海流速度(最大5ノット)の海峡下で最深部60mという沈埋トンネルとしては前人未踏の領域で最大長135m、幅15.3m、高さ8.6mの巨大な沈埋函を11函、海底で水圧接合してトンネルを施工する作業であった。技術センターでのシミュレーション等を含んだ周到な計画を経て2008年9月には全函沈設を無事完了した。沈埋函の両端に、シールドマシン4台が、海峡部海底下でドッキングする作業がさらなるポイントであり、2010年初頭に最初のドッキングが予定されている。
アジアとヨーロッパの間に位置するイスタンブールは、世界でも有数の多彩な歴史が刻まれた街である。特にヨーロッパ側プロジェクト路線が走る旧市街と呼ばれる地区は世界遺産ともなっており、地下にはギリシャ、ローマ、ビザンチン、オスマントルコ各時代の遺跡が幾つもの層をなしている。文字通りどこを掘っても遺跡につき当たると言っても過言ではない。開削駅舎イェニカブ駅エリアでは2004年10月に開始された遺跡調査が約4年半以上経過した現在でも続けられている。ビザンチン時代の主要港湾跡に当時の沈船が数多く発見され、考古学関係者の間では「世紀の発見」とも言われているらしい。さらなる発掘により港湾面下に7000年前と目される人間や馬の骸骨、陶器片等が発見され、前史時代よりイスタンブールに人が住んでいたことも分かった。
しかし、車の渋滞に悩みつつプロジェクト完成を待ち望むイスタンブール市民にとって工事の遅れは好ましくないだろう。都市開発と歴史保存の間で関係者は苦悩している。
経済発展に伴う大型プロジェクトがひと段落し、建設事業規模が縮小しつつある日本の建設状況を鑑みると、建設会社の海外工事への進出は時代の趨勢と考えられます。日本人技術者にとって国内工事と海外工事の垣根はますます低くなっていくことが予想されます。海外工事が特別な領域ではなく、通常働くべき場所という意識を持つことが必要になるかと思います。
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