TORIGOE
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鳥越俊太郎の「あのくさ こればい!」

第1262回


10月29日のニュースから

まず3紙の見出しから見てくださいね。
スポニチはこういうふうに白抜き黒凸版で
結構目立つ記事だ。
「天皇陛下が国旗国歌問題に発言 
 強制にならないことが望ましい」

「秋の園遊会」
次に毎日新聞はこうだ。
「『国旗国歌 強制でないのが望ましい』天皇陛下
 園遊会で米長氏に」

で、朝日新聞はどうか?
3段見出しで割と目立つ扱いだねえ。
「米長さん『学校で国旗・国家、私の仕事』
 天皇陛下『強制でないのが望ましい』
 秋の園遊会でやりとり」


皇室のことになると最近の新聞もテレビも
ヘッピリ腰になるとですもんね。
扱いはどこも控えめ。
ばってん、これはやはり大ニュースなんで
扱わないちゅうわけにはいかん。
そこで各紙とも苦労の跡が忍ばれる
そんな小さからず大きくもなくという記事だ。
事実関係を先ず見て行こう。
3紙を総合すると28日、
東京・元赤坂の赤坂御所で開かれた秋の園遊会で、
天皇陛下と東京都教育委員を務める
将棋の米長邦雄永世棋聖(61)との間で
国旗・国歌をめぐって
ちょっとしたやりとりがあったらしい。
で、それはこれまでの我々一般庶民からしても、
皇室の常識からしてもかなり驚くべき内容の
天皇陛下の発言内容だったようだ。
毎日新聞などは
「天皇陛下が『日の丸・君が代』問題について
 発言するのは極めて異例」
とまで論評しているほどだ。
やり取りを出来るだけ正確にここに再現しておこう。
先ず天皇陛下がずらりと並んだ園遊会への招待者に
一人づつ言葉を掛けて行くシーンでの出来事だ。
天皇さんが米長さんの前に立った時、
米長さんがこう言った。
「日本中の学校で国旗を揚げ、
 国歌を斉唱させることが私の仕事でございます」
米長さんは東京都の教育委員だから日本中に・・・・・
というのは少し行き過ぎというか、気負い過ぎというか、
まあ、天皇陛下の前だから、
私の仕事は・・・・と
精一杯力んで発言されたんでしょうね。
そのお気持ちはよーく分かりますたいね。
日本では国旗・国歌に反対する
けしからん輩がおりますけど、私
が将棋で天下を取ったように力でねじ伏せますから・・・
どうぞご期待ください・・・
と思ったかどうかは私は知らない。
が、東京都の一教育委員が「日本中に・・・」
と言ってしまったあたりにその力みは伺える。
米長さんは天皇さんにそう言えば
喜んでもらえるという期待もあったとでしょうたい。
ばってん、ばってん、うーむ、
天皇陛下の口から出て来た言葉は
これは米長さんどころか周りにいた人々を、
特に記者たちをぎょぎょっとさせるものでした。
天皇さんはこう言ったのだ。
「やはり、強制になるということではないことが望ましい」
朝日も毎日も語尾は「望ましい」と
バサリと切って捨てたように書いているが、
スポニチによれば天皇さんの正確な語尾、
つまり言葉遣いですたいね、それは
「強制になるということではないことが望ましいですね」
「望ましい」

「望ましいですね」
では発言者の性格と言うか
人格までが違って見えてくるので、こ
うした語尾にはしっかり気をつけて取材メモを取り、
正確に再現すべきなんですが、
新聞記者というのは日頃から語尾に神経を使わず、
趣旨さえ取れればいいと思っているんですね。
だからこういうことになるんです。
私のこれは見解ですが、園遊会で天皇陛下は
「望ましいですね」
と語りかけるように言われたんだと思う。
確かテレビで見た時にもそういう風に聞こえたんですばい。
で、その天皇の発言ですが、
回りくどい言い方になっているが、
平たく言えば朝日新聞が見出しで要約しているように
「強制でないのが望ましい」
という意味ですたいね。
いやもっと筑後弁ではっきり言うと
「国旗や国歌を強制的に揚げさせたり
 歌わせたりせん方がよかですばい」
東京都教委は昨年秋都立校の式典での
「日の丸・君が代」の取り扱いを細かに規定し、
職務命令に従わない教職員を大量に処分した。
つまり天皇の意思に反し「強制的に」従わせたんですね。
そして米長さんは教育委員として
こうした方針を推進する発言を繰り返して来たんだそうだ。
うーん、困ったぜえー、臣・米長邦雄としては
公衆の面前で自分が推進して来たことをあろうことか、
皇室のトップ天皇陛下さまにやんわりとではあるけれど、
たしなめられたっちゅう訳ですたい。
この時の米長さんの困惑ぶりが目に見えるようだ。
米長さんは天皇に向かってこう答えたんだそうだ。
「もうもちろんそう、
 本当に素晴らしいお言葉をいただき、
 ありがとうございます」(朝日新聞)
「もちろんそれはそうです」(毎日新聞)
朝日の記事が正確に
米長さんの言葉を再現しているとすれば、
確かに米長さんのうろたえぶりが伺える。
だって、今天皇さんに向かって
「日本中の学校で国旗を揚げ、
 国歌を斉唱させるのが私の仕事でございます」
と大見得を切ったばかりなのだ。
それを天皇陛下はやんわりと
「強制的にやるのはいかんよ」
と本人に諭されたんですから。
これは弱るよねえ。
米長さんのこの時の気持ちを是非聞いてみたいねえ。
なぜ、天皇陛下はこういうことを
「敢えて」とも思えるほどの言い方で発言されたのか?
誰もが首を傾げているんでしょう。
でも私は知っています。
天皇陛下は皇太子の頃より、
つまり戦後間もなくアメリカのクエーカー教徒、
バイニング夫人に教えを受けて以来、
民主主義というものをしっかりと
身に付けておられるんですばい。
日本の世の中は、というより世間は
時代が進むとともに戦後間もなく
アメリカから直輸入された民主主義の基本も
次々と脱ぎ捨てて行こうとしています、
そう言う中で皇室と言う世間から
隔絶とまではいかないまでも、
少し離れた温室の中でこうした考え方は
純粋培養されて来たような気がします。
この記事、ニュースについては
色んな考え方があるんでしょうね。
これは私の解釈ですたいね。
そう思って読んでください。
私も強制はしたくはないんですけん!!

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2004-10-30-SAT

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