Bamboo Bike Studio (designer)

『竹で自転車をつくる。~経験をシェアすること~』
(a dialogue with Marty Odlin, Bamboo Bike Studio)

2009年12月5日、ニューヨーク。雪まじりの冷たい雨が街路樹を静かに濡らしている。アッパーイースト、セントラルパークのすぐ隣にあるクーパーヒューイットデザイン美術館のワークショップルームでは、ブルックリンから来た青年3人組、Bamboo Bike Studioによるレクチャーが始ったばかりだ。みんなどこかそわそわしながら彼らの話に聞き入っている。そう、今日はみんなで竹をつかって一緒に自転車をつくるのだ。会場に集まった人々を見渡しながら、共同創業者Marty Odlinは嬉しさが隠せないような様子で、彼らのプロジェクトがどのようにスタートしたのかについて話はじめた。

Marty: 僕の出身はメイン州、沢山の樹々や自然に囲まれた町で育ったんだ。その後、プロダクトデザインの仕事のためにシアトルに引越したんだけど、大都市のオフィスでの仕事は、何かがいつも欠けているという感覚が付きまとっていた。そんな時、中国や香港に仕事で行くことになり、そこで建築現場の足場などで沢山の竹が使われているのを見て、これだ!って思ったんだ。僕は自転車によく乗るし、いつも自分でつくりたいなって思っていた。でも道具や材料が高くて叶わないままだったんだ。でも竹なら安くて、しかも強い。簡単に組み立てられる。何より自然からの恵みだし。実際に、竹の自転車はしなやかで乗り心地もいいんだ。それでさっそくプランを練りはじめたんだ。その後、ニューヨークに移って、仲間達と出会い、一緒にスタジオをつくったんだ。

マーティが共同創業者のショーンと出会ったのは、2008年9月。彼らが出会う1年半ほど前、マーティはたった一人、手探りでこのプロジェクトに格闘していた。

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Marty: ショーンとの出会いはパーフェストだったね。その前は本当に何もなかったんだ。竹を手に入れて、当時住んでいた1ルームのアパートで、週末を使ってはじめてバイクをつくりだした。ショーンは自転車についてなんでも知っていた。本当に何でもだよ!それに彼は素晴らしいバイクライダーだし、しかも高校教師なんだ。自転車、工業デザイン、教育。僕たちの才能を全部合わせたらパーフェクトになったんだ。いいチームだと思うよ。すごい幸運だと思う。今は毎日どうやっていい自転車を安く作れるかってことに挑戦しているんだ。

レクチャーの後は、さっそく竹をつくったフレーム作りが始った。指導するのは、共同創業者であるショーンだ。ワークショップでは、フレームや部品のつくり方、解体の仕方、壊れたときの修理方法、街中での自転車の乗り方や安全な乗り方などを学ぶことが出来る。実際の自転車づくりは、何の経験もない人でも、1~2日でつくりあげることが出来るそうだ。Bamboo Bike Studioについて、「人々の経験を価値として商品に付け加える仕事」、そして「経験をシェアすることで価値を生み出すというビジネスモデル」だと マーティはいう。

Marty: 広告は新しいニーズをつくって仕掛けがそれを埋め合わせる。でもそれは数ヶ月でどこかに消えてしまうものなんだ。ニーズを掘り起こすためにインスタントな価値が商品に付け加えられ続ける。Bamboo Bike Studioは、プロダクトにとっての価値、人々にとっての価値とは何かを考える実験であり、その新しい挑戦なんだと思う。ただ何かをお店から買うだけじゃなくて、どうやったら経験をシェアできるモデルをつくれるのか。僕らはそのことに挑戦したいと思っているんだ。

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こうしたワークショップの他にも、Bamboo Bike Studioでは、自然素材を用いたパッケージングや材料についてリサーチしたり、竹やヘンプ素材のファブリックについても研究を進めている。高校生を対象にした教育プログラムも計画中だ。また発展途上国で自転車を増やすための活動もスタートした。現在は、アフリカのガーナに新しいスタジオを作る準備中だ。 自転車があるだけで、行動範囲が飛躍的に広がる。1日に10時間歩くとして、徒歩だとせいぜい往復5マイル。しかし自転車なら1時間に10マイル移動可能だ。移動範囲はざっと徒歩の25倍に広がる。物資を運ぶ能力も高まるし、井戸や医療機関に行くことが困難な人々の暮らしを支えることも出来る。こうしたプロジェクトは、国連やコロンビア大学等と協働で進めている。

Marty: 僕は一生ものづくりをしていきたいんだ。それで、工業デザインの道に進んだけど、世の中に溢れている大量生産品をデザインしたりつくったりする仕事はあまり楽しくなかった。僕がデザインしたものは、その製品を買う人にとってどうでもいいってことを知っていたから。そして、彼らに関心をもってもらう方法は全然ないってことも知っていた。オフィスで働いている時は、毎日毎日、こんな仕事ももう今日で終わりにしようって、そんなことばかり思っていたんだ。僕が人生の中で大好きな物って、たくさんの「コネクション」(つながり)があるようなもの。お店で商品を買う代わりに、ちょっとしたインタラクションや、その商品とのつながりを感じさせてくれるようなものなんだ。コネクションを感じることで、その商品がお客さんの人生や暮らしの中で、もっと大切な意味を持つようになると思う。それがBamboo Bike Studioの哲学だと思う。僕はいつも人々がエンジョイできるようなものをつくりたいし、どうしたら人々を幸せにできるかという方法を探し続けたいだけなんだ。
このプロジェクトをはじめて手に入れた一番重要なことは、みんなが自分でつくった自転車に乗って幸せそうな表情をしてるのを見ること。みんなが嬉しさのあまり、叫びながら外に飛び出して、出来上がったばかりの自転車でストリートを走りだすのを見ること。みんなほんとに幸せそうなんだ。僕たちもいつも興奮してしまう。そして、その瞬間にこそ、とても大きな意味があるんだ。

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※取材: 2009年12月5日 (Cooper-Hewitt National Design Museum)
※掲載: 『広告』2010年4月号




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