大阪・門真市再開発:補償額妥当性、検討せず 元担当部長天下り、市長「まずい」
毎日新聞 2013年11月01日 大阪夕刊
補償の対象となったのは、築40年以上のスーパー旧店舗や駐車場棟などで、不動産鑑定に詳しい複数の専門家は「実際の売買では、取引価値はなく、解体の必要から、むしろ減額要因になる」と指摘する。土地が広いことなどから、同社は国土利用計画法などに基づき、物件の取得価格などを市を通じて大阪府に報告しており、市は取引内容を知り得る立場にあった。
国の「公共用地の取得に伴う損失補償基準」30条は、移転補償費が建物の実勢価格を上回る場合、行政が建物を買い取ることができると定め、補償の専門家によると、過去には大阪や奈良、長野などで30条を適用して自治体が建物などを取得した例がある。しかし、市は実勢価格を調べるなどして補償額が妥当かどうか検討することなく、約29億円の補償を決めていた。この専門家は「通常は補償額の妥当性についてまず検討する。検討なしに補償するのは問題だ」と指摘する。
この不動産会社に再就職した元部長は再開発事業に精通し、今年3月まで事業の責任者だった。元部長は取材に対し、30条を適用しなかった理由について、「建物の取得という方法はとっていない。買い取るという概念はなかった」と繰り返すのみだった。
今後、スーパー跡地に体育館建設の予定があるなど事業は進行中で、園部一成市長は取材に「事業の関係先に再就職したことは知らなかったので驚いた。まずいのではないかと思った」と話す。市人事課は「国の再就職の規制の考え方からみて問題はないが、今後は職員の再就職の在り方を検討したい」としている。市議会で公費の無駄遣いを長年追及してきた吉水丈晴市議は「時価を大きく上回る巨額補償を決めた後に、責任者が相手先に天下れば、事業の信頼性を疑われても仕方がない。市民の誤解を招くようなことはしてはいけない」と指摘する。【田中謙吉、向畑泰司】