公開日:2013.08.23
混迷の先を読む経済・経営・社会観相学
常に環境の変化が続く自然界に生きる動植物は、それに積極的に適
応することで、ゆっくりながらも進化しつつ、自らの特性を発揮して
生存し続けてきた。また逆に、恵まれた環境に甘んじ、自らの変化へ
の適応努力を欠いた種族は、衰退の途を辿り、自然淘汰されるという
宿命を背負ってきた。
それゆえに各種族は、それぞれなりの鋭敏な感覚機能や生殖能力を
発達させ、体力や体質を改良・進化させてきたのだが、その中でも霊
長類の自認する人類は、視・聴・触・嗅・味覚といった5感覚機能以
外に、他の種族より格段に優れた知能を発達させ、それで更に道具や
機械の発明など物質文明の発展により、優れた主役としてこの地球を
支配する存在になったといえる。
しかしその反面で、天性の動物的・本能的直観力(俗に言う第6
感)や感覚機能、自然環境への適応能力といった面では、他の生物よ
り退化して劣るようになり、たとえば視・聴・触・嗅覚の全ては、鳥
や犬、兎、昆虫類の方が人間より数十倍も鋭いし、動体視力、走力や
跳躍力、バランスの調整などという身体運動能力、病疫や気温の変化
など環境変化への適応力や自己治癒力などといった体質面での強化や
進化では見劣りすることになったといわれる。
知性では人間に劣る弱い動物ほど、危機を早く察知する遠視力や多
角的視野が広く、聴覚も鋭敏で逃げ足も速いなどといった自己の特性
を保持し、無謀な競争を避け、生存領域の棲み分けと他者領域の不可
侵を心得ており、ハント力が強い猛獣といえども、全てを独占欲に収
奪し尽くすという愚かなことは決っしてしない節度をもって共生共存
の自然界の秩序を維持している。
唯一、味覚だけが、人間の方が他の原生動物より優れているとはい
え、この面でも、毒性を感じ取ったり、耐毒・解毒力では劣っている。
いずれにしろ人間も、科学技術の発展や物質文明の進歩、便利さや
快適さ獲得の一方で、それを万能と過信せず、今後とも、動物的本性
としての鋭敏な先見性と直観力、周囲の環境変化や異常を敏感に感知
する感覚機能と危機管理能力、自然環境適応能力まで退化させないよ
うに練磨することも必要であろう。
洋の東西を問わず、古典にある諸賢の名言は、現代にも通じる示唆
に富んでおり、しかもそれらは単なる机上の理論でなく、国家や自身
の命運をかけた争乱や苦難の実際体験から発せられたものであるだけ
に、重みがあり、説得力も強いが、政治、軍事、経済、人生などいず
れの場合においても不可欠な要点として指摘していることは、このよ
うな動物的感覚での環境や状況変化への鋭敏な認知感覚と先見力、素
早く的確な判断と対応力、進歩・進化への旺盛な挑戦欲と努力の結集
であるから、これを尊重・遵守することの重要性である。
但し先賢達は、「万変を処するに、一敬を主とせよ(変化への挑戦
や先取りが重要とはいえ、その際には一抹の謙虚さと慎重さ、周到な
準備と計画性が必要である)!」とか、「知・仁・勇の3大道徳は、
物事達成の基なり(指導的立場にある者の、知性・理性、仁徳・慈悲
心、勇猛・断行といった三大要素の道徳性と正しい言動の率先垂範こ
そが、物事達成に不可欠な要件である)」とか、「物には本来あり、
事には終始あり、その先後・上下するところを知れば、即ち道に近し
(何事にも、始めと終わりがあり、いかなるものにも、本末、先後、
上下の関係や、原因と結果があり、人生においても、基本とすべきも
のと、してはならないことがあるので、それをよく理解して、その本
末、先後、上下などの自他の位置関係を誤らないなら、物事に成就す
る正しい近道となる)」などといった貴重な警告も忘れてはない。
先見力や多角的思考力が大切といえば、わが国では、交通事故対策
行政の例を考察しても、政治・外交・経済・産業活動、社会生活など
のあらゆる場面においても、どうもこの正しい「①認知、②判断、③
操作の手順」を間違って、後追いの泥縄行政であったり、根本対策よ
り小手先の彌縫策に追われているといったケースが多いようである。
また昨今のような混迷期になると、わが国では特に、空元気だけの非
合理的根性論教育がうけ、安直な自己催眠的アプローチの「信念の魔
術」、「成功への自己暗示術」などといったハウ・ツーものの書籍が
よく売れるようだ。
しかし本稿で以下に述べる「経済・経営・世相観相学」は、そのよ
うな非論理的な占術や魔術の技法を説くものでなく、先賢の貴重な体
験からの鉄則や、学問的・論理的に裏付けられた原理・原則であるか
ら、是非、時代の先取りや景況予測、ビジネスの実際場面での計画策
定、生活設計などの場面で参考にしていただきご活用願いたい。
(1)将来を正しく先読みする基本姿勢
1.飛行機の安全運行はまず気象予測の重視から、名船長ほど自
分の操船技能を過信せず計器のデータを重視し、危機を予見
し事前に回避する。
2.設計された調査により得られた結果の数値には感情が入り込
まず、正確で正直だが、その入り口(調査の設計段階)と出
口(結果の分析と評価、公表の段階)では人間が関与し、調
査や結果数値を扱う当事者の意図や人為的操作が入り込む余
地があるものと知れ。
3.先見・予測をするために重要な要素の一つである資料を得る
調査の設計や実施、分析・評価などの処理の任を担う為政者
や有識者にも、それぞれが所属する立場上からの意図や判断
・評価の癖があることを理解し、そのデータを利用しようと
する者は、その点を斟酌・調整した賢明な読み取り方や活用
が肝要である。
概して、官僚や金融機関の調査担当者は、保守・保身的で、
世論形成への影響や配慮への関心が強く、慎重だが無難さを
願う傾向があり、証券業界や市場関係者の場合は、常に強気
で相場煽りの傾向が強く働き、財界・企業関係筋は、各自業
界の利益志向が強く働き、学者筋は、過去データの延長線か
らの視点と思考法の域を出ず、冷静・客観的といえるが無機
質で、自己の本音の判断をぼやかし勝ちといえ、日本を代表
するシンクタンクの予測的中率はほぼ3割弱程度であり、
「ヨソウ」は後で振り返って確認すると「ウソヨ」なること
も結構ある。
それほどに精度の高い予測をするには、コストがかかるし、
高度な知識と幅広い情報収集力、豊富な人生体験と現場観察
の思考感覚、冷静・中立的なデータの読み取り方の習熟、多
角的判断力と技能が要求されるといえ、永遠に完全と絶対と
いうことがない、責任だけは重いが、地味な下支えの存在で
あるが、反面、「風が吹けば桶屋がなぜ儲かるのか?」とい
った知的連想ゲームのような興味深さと、多少、一般人より
先が読めることによる優越感と面白味がある。
(2)さまざまな要素面からの先読み法
フランスの教育思想家ルソーは、「歴史と自然は最も良き教科
書である」と称し、ドイツの公法学者イエルネクは、「国がま
さに滅びようとする時には、下らない法令が次々とたくさん制
定されるようになる」とし、古代中国の賢哲である荀子も、社
会荒廃の兆しとして、「その装(服装)は華(華美、装飾過剰)、
その容(男性の外観や立ち居振る舞い)は婦(婦女子のように
弱弱しくなること)、その欲(欲望や志)は利(利益本位、拝
金主義)、その声(音曲の詞や歌唱法)は奇(奇妙)…」など
と指摘しており、まさに現代の世相そのままといえようか。
1.人類悠久の歴史的推移や文明の変転から将来を読みとる。
…歴史は繰り返す!。愚者は失敗に懲りず、同じ過ちを繰り
返すが、凡人は体験から学び、賢者は歴史に悟り、危機を
未然に察知する。
2.過去の流れの延長線上から未来を類推する。
…過去の数値実績の延長から、将来の傾向を読み取るシュミ
レーション法であり、この場合、最低3年度分以上のデー
タ蓄積が必要である。
3.過去の因果関係と、現状の中から未来の予兆を嗅ぎとる。
…因果応報の思考法。前記した荀子の警告もこの手法であり、
過去と現状の中に貰いの予兆が潜んでいることを示唆して
いる。
4.「離見の見」と、「鳥の目と虫の目の考察」から、未来を予見
する。
…現場の渦中から少し離れて見た方が、現場の渦中に身を置
くより、むしろ冷静で客観的に物事の実相を正しく見るこ
とが出来るということと、物事の観点では、常に鳥の目線
での大局的な俯瞰視と、虫の目線で、現場や底辺の実態を
足で見て肌で感じ取るきめ細やかな小局的、分析的視点の
観察の両方が必要ということである。
ここでいう「見る」は、ただ映像的に目でものの形だけを
外観的に見るだけでなく、意識して心と頭を用いて、物事
の内面と本質を見抜くといった「観察、洞察、診察、看破
力」の大切さや、望遠鏡・顕微鏡・拡大鏡・多面鏡といっ
た多角的な視野の重要性を意味する。
5.常に「なぜ?」といった新鮮な興味を抱き、心して見よ!
…何事も、意識して観察しつつ、仕事に結びつけて考察し、
市場や仕事の現場を「頭で歩いて、心の目で観て回り、足
で情報を嗅ぎつけ、皮膚感覚で国民や消費者のニーズを的
確に感じとること。
こういう感覚と視点で現場を観察すると、その中に潜む未
来の予兆に気づき、現実的な改善すべき事項や、新しい仕
事のネタを拾うことも出来るし、目にするもの手に触れる
ものの全てが、自己の知識や成長のエネルギーとなり、新
しい発見や、現実的に役立つ情報、アイデア、仕事の素材、
儲けのネタとなる。
商売上手といわれた関西商法の真髄である「ガメツイ」の
真意も、たとえば、街の家並みや雑踏する歩行者を見ても、
単なる住宅密集地だ、暇な歩行者が群れて歩いているだけ
と見過ごさず、全て自分の仕事に結びつけ、豊かな数百億
円のマーケット規模だ、有望な潜在見込み客だと感じ取る、
積極的なものの見方や感じ方にあったのである。
6.全て物事を、静止的な1次元でなく、多次元的に捉えよ。
…現時点の状況だけを静止的に「点」で捉えるだけでなく、
常に「過去・現在・未来」あるいは「短期・中期・長期」
の「線と面」といった多次元で捉える習性を身につけるこ
と。
最近は、政治的配慮優先や大手投機筋の思惑からの情報や
市場操作の影響が大きくなり、過去の常識的な理論がその
まま当てはまり難くなったきらいも、変動周期の短縮化傾
向も窺えるが、依然として根強く、世界文明の移転や経済
の変動にも、潮流変動の波動や、その循環の周期性が見ら
れることは事実である。
そうすれば明日が見通せ、更に視野が広まり、将来を予見
する能力も、動物としての本能的直感的に第6感も鋭くな
る。
この流れから読めば、人類の精神文明と経済の焦点が、2
0世紀までの欧米中心から、今世紀前半には、北東アジア
に移行し、後半にかけては、漸次、東南アジアから、さら
に末期には、中南米大陸とアフリカ大陸に焦点が移行する
傾向を辿るであろうと予測し得る。
7.公表される諸種の統計資料や、報道ニュースの裏と奥を見通せ。
…前記したように、金科玉条と思えるような公的公開資料や、
官庁番記者の垂れ流し情報には、多分に政治的意図などか
らの作為が入り込む余地があると知り、その洗い直しと調
整評価をする必要があるが、そのためには、資料に付記さ
れた調査要項の質問事項、回答の記入や回収方法に関心を
持ち、不明な点はホームページのデータなどに頼らず、官
僚の記者会見段階の現場を見聞きしたり、役所に直接足を
運び、担当者と面接し、その応対振りや顔色から実態を嗅
ぎ取り、更にその裏づけを実際調査してみること。
但しこれは一般的には容易なことでなく、またこのような
実直で良心的な評論家は、官庁筋やマスコミからは歓迎さ
れずに敬遠・抹殺され勝ちになるので、著名タレント評論
家として世に出ることも、お金儲けも出来ないというのが
現実の厳しさであろうか。
各種の統計資料をただ一つ見るだけでなく、複数以上の資
料を組み合わせると、更に新しい情報を得ることが出来る。
たとえば日本のある時点のGNPは約500兆円、総人口
は約1億2700万人だと知るだけで満足せず、これらの
数期間の推移を時系列で知れば、経済成長率や将来の人口
予測が出来るし、その構成比の推移を調べると、近い将来
の少子高齢化時代の到来予測や労働力人口低下の深刻化が
容易に読み取れ、早くからその対策が取れたはずである。
更にこれらに、世帯数や国土面積、国民総所得などといっ
た他の資料数値を組み合わせると、人口密度や、国民一人
当たりGDPといった経済の質を理解し得て、わが国の弱
点や長所、未来の姿を先読みすることが可能になり、無限
の情報が追加的に得られることとなり、経済や公共福祉へ
の興味と関心が一層深まり、経済学を学ぶことが楽しくも
なる。
8.世界的な政治・軍事・外交の動きから将来を先読みする。
…政治や軍事、外交は経済に優先するし、国民の日常生活に
も直結する影響力が強いものであり、また国家の財政や予
算の配分方法や税制は、時代の変化を後追いするもので、
その反応は鈍く、間接的な景気調整のための軌道修正用補
助エンジンの役割であるべきであり、この主導に頼る政策
は、あくまでも一時的緊急避難の、いわば麻薬投与治療と
いうべきものであり、したがってその反動・副作用が怖い
ものとなるから、この常用と恒例化は避けないと国家破綻
の原因となるので、厳格に慎むべきであると悟ることが出
来よう。だからこそ財政や税制に、その国家の現実の姿勢
と品性、未来の姿が最もよく象徴されるといえる。
ここにアベノミクスが、「あかんベーのミクス」にもなり
かねないと心ある有識者が危惧する所以がある。
9.群集心理の暴走による多数勢力は、必ずしも正義にあらず。
…世俗の群集心理は、権威筋の言動や甘い言葉に単純に乗せ
られ、それに迎合する無定見なマスコミの宣伝に騙されや
すいので、周囲の情勢を窺いながら付和雷同し、勝ち馬に
乗ろうと雪崩れ込むので、大きく左右に振れがちとなるが、
確固たる定見を持たないので、熱し易いが冷めて雲散霧消
するのも早いものであり、必ずしも良識ある多数者の正義
を反映するものとは言い難いし、愚集政治やフアッショ化
を招きかねないので、その巧みな舵取りと良導が肝要であ
る。
従って、一頃流行った戯れ句の「赤信号、皆で渡れば、怖
くない」のように、ただ多数の圧力に流され委ねることだ
けが、民意を反映した正しいことdも民主主義でもなく、
たとえ少数の異質な見解でも、傾聴に値する貴重な見解に
は、真摯に耳を傾け、それを増幅させること、良識の復元
力を保持していることこそが、真の自由民主政治であり、
成熟した民主主義国家の姿であると心得るべきであろう。
10.世俗の伝承文化、先人の生活体験側の知恵を参考に、先を読
みとる。
…風が吹けば桶屋が儲かるとは、空梅雨後の夏期には、水不
足になり、電力料金や生鮮野菜は値上がり、時化が3日続
けば鮮魚価格は高騰する、ミニスカーが流行る時は好景気、
反対にくすんだ色彩の小さな模様のだぶだぶルックやロン
グスカート、女性のスラックス姿の増加は不況の象徴、高
級大型外車や大型ダンプカーの通行量増加は好況、タクシ
ーの駅待ち行列増加は不況、気温が25度以上となればア
イスクリームが、28度以上になれば途端にシャーベット
やカキ氷にとって変わり飛ぶように売れるなどといった、
庶民の伝承文化や生活の知恵の結集というべき事柄は、誰
でも知っている立派な経済学的常識であり、経済や世相を
読み取る有効な判断要素となるもんである。
このように考えると、ちょっと意識して注意深く観察さえすれば、
経済や世相の予測は、誰にも出来ることであり、経済学は、決して庶
民には疎遠な難しいものではなく、連想ゲームのようなものだからな
じみやすく、万人必須の常識として興味と関心が一層高まり、それが
ひいては、日本の再興隆にも役立ち、永遠の繁栄や国際貢献にも連な
る。
著者プロフィール
経済評論家・ビジネスドクター 芦屋 暁(あしや さとる)
幼少期の貧苦体験から「十分な教養があれば民族も国家も企業も個人も安泰」との信念を抱き、一生涯を人間能力の開発と日本経済・産業の発展に捧げる1本の杭になろうと決意し、都市銀行勤務を中退してフリーの経済評論家・経営コンサルタントの道に転身、大学の教鞭やマスコミ出演を経つつ、過去通算で全国約3千市町村を講演歴訪した実績を持ち現在に至る。庶民派で皮膚感覚の簡明率直な解説がモットー。
禁・転載・複写
|
||
その他コンテンツ |