SPAIN “スペシャルワン”は何処へ... [THE JOURNALISTC]
リーガ・エスパニョーラ 《ヘスス・スアレス記者》
7年ぶりにリアソールを訪れた名将は、近寄り難い雰囲気を漂わせ、そして孤独だった。自らをスペシャルワンと称し、全知全能の神の如く振る舞うモウリーニョ。彼はいったい、何処へ向かおうとしているのか。
ポルト監督時代のCL制覇 そこを頂点に下降線を辿り
デポルティボ戦のドローが響き、27節終了時点でバルサとの勝ち点差は7に。スペシャルワンを自称するモウリーニョも後がなくなった。
【ジョゼ・モウリーニョ監督と最後に言葉を交わしたのは、2004年5月5日。それは、私が住んでいる街のクラブ、デポルティボ・ラ・コルーニャと、モウリーニョ率いるFCポルトが、チャンピオンズ・リーグ(以下CL)の準決勝第2レグで対戦した日だった。彼の方から声をかけてくれたのは、そのちょうど1カ月前にポルトで、私がこのポルトガル人監督にインタビューをしていたからだった。
最も、私が初めて『ワールドサッカーダイジェスト』の編集部にモウリーニョのインタビュー取材を売り込んだのは、更に1年半程前のことだった。長くタイトルから見放されていたポルトを率い、国内リーグで快進撃を見せていた02年末、
「この監督は数年後にとんでもないことをやってのけるはずだから」
と、インタビューの掲載を強く懇願したものだった。
結局のところ、「日本では知名度も注目度も高くないから」という理由で、当時は取材をすることが叶わなかったのだが、モウリーニョの指導力や采配力といったものは、世界的な名声を得る前に既に確立されていたと、私は考えている。
初めて言葉を交わした時に衝撃を受けたのは、彼のフットボールに対する見識の深さだった。ポルトガル国内のクラブ(リオ・アベ、ベレネンセス、ヴィトーリア・セッツバルなど)で監督を務めていた父フェリックス・モウリーニョの下で、15歳の頃からスカウティングの仕事を手伝っていたという話は聞いていたが、正直、筆者の想像を遥かに超えていた。
チームを掌握する術も熟知し、ポルト監督就任2年目の02ー03シーズンに、ポルトを国内のリーグ戦とカップ戦、そしてUEFAカップの三冠に導いた時点で、監督モウリーニョはほぼ完成していたと言っていい。
ただ、このコラムでも繰り返し書いてきたように、モウリーニョのフットボール・インテリジェンスは、その翌シーズンにポルトを率いてCL制覇を成し遂げたのを頂点に、そこから下降線を辿っていると、私は思っている。チェルシーやインテル・ミラノでは数多くのタイトルを獲得したが、ポルトを率いていた頃のような、知性を感じさせるフットボールはついぞ披露できなかった。
自らを“スペシャルワン”と称し、王や独裁者というよりは、全てが許された神の如く振る舞うその姿を目にするたびに、この天才はいったい何処へ向かおうとしているのかと、心配になったものである。
そんなモウリーニョと先日、私は7年ぶりに再会し、言葉を交わした。場所は7年前と同じリアソール・スタジアム。デポルティボ対レアル・マドリーの一戦がスコアレスドローに終わり、2位マドリーと首位バルセロナの勝ち点差が、5から7に開いた直後のことだった。
数十人の記者達が右往左往する会見場に、彼はいた。酷く憔悴し切っていて・・・少なくとも私にはそう見えた・・・、近寄り難い雰囲気を漂わせていた。だが、それでも私は、二人きりになれるわずかなタイミングを見つけて彼のもとに近づき、声を掛けた。
時間にすれば1分、あるいは30秒足らずだったかも知れない。何を話したわけではなかった。「久し振り」と声を掛け、「ああ君か、覚えているよ。元気だったか」と彼が返す。私はソレには答えずに言った。
「ミステル(監督)、間違いは誰もが犯すものだ。そして誰もが助けを必要としている。今の貴方はとても孤独に見えるよ、あまりに孤独に」
彼は数秒間、無言だった。そして、何かを言いかけて止め、私の左肩を三度強く叩くと、その場を離れてチームバスに乗り込んだ。
何をバカなことを言っているんだと、そう思う方はきっと少なくないだろうし、実際、単なる錯覚だったのかも知れない。それでも私にはあの時、モウリーニョが私の肩を杖代わりにしたように見えたのだ。
頂点だけを目指す者にのしかかるプレッシャーなのか。何かを支えにしていなければ、彼はその場に倒れ込んでしまいそうだった。
本来なら、誰かが肩を抱いてあげるべきなのだろうが、おそらく彼はソレを拒むだろう。そしてこれからも、自らのやり方で勝利を重ねて行くはずだ。しかし...。勝てば勝つ程孤独は深まって行き、いわんや負ければ、彼は自身の存在価値を失うことになる。かつての若き名将の歯車は、どこかで完全に狂ってしまったのだ。】
シャビ・アロンソ頼みの カウンターが諸刃の険に...
シャビ・アロンソの展開力を活かしたカウンターは抜群の破壊力を誇る。但し、この司令塔を封じられてしまうと...
【何故モウリーニョ率いるマドリーは、リアソールで格下のデポルティボ相手に勝ち切れなかったのか。
「火曜にチャンピオンズ・リーグを戦ったチームは、その疲れを癒せるよう、土曜ではなく日曜にリーグ戦が組まれるべきだ」
指揮官は過密スケジュールをその原因とし、問題をすり替えようとしていたが、マドリーの選手達のコンディションは、言う程悪くはなかった。それに、同じくCLに参戦しているバルサやバレンシアも前の週、全く同じ“中3日”という条件でリーグ戦に臨んでいたのだ。従って、日程の問題を理由にすることは出来ない。
マドリーの攻撃が十全に機能しなかったのは、モウリーニョのプレーコンセプトに致命的な欠陥がアッタからに他ならない。
今シーズンのマドリーで攻守の軸となっているのは、司令塔のシャビ・アロンソだ。取り分け攻撃においては、このバスク人司令塔の展開力が、大きな鍵を握っている。彼を起点としたカウンターの切れ味と破壊力は、まさしくリーガ随一と断言していいだろう。
しかしながら、結果的にそのシャビ・アロンソ頼みのカウンター戦術が、諸刃の剣になっている。
デポルティボのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督はマドリー戦で、大型MFのファン・ロドリゲスをシャビ・アロンソのマークに付けた。起点を不自由にすることでマドリーの屋台骨をぐらつかせ、猛攻を凌ぎ切ったのである。ホームチームにほぼプラン通りの戦いを遂行され、逃げ切られたマドリーは、決定機こそ何度か作ったものの、シュートがゴールポストやクロスバーを叩く不運もあり、貴重な勝ち点を失っている。
モウリーニョはフットボールに、スピードとパワーを求め過ぎたのではないかと、私は考えている。今回のデポルティボ戦でも、クリスチアーノ・ロナウドやエマヌエル・アデバヨールらが次々にゴールに襲い掛かるシーンは、さすがに迫力がアッタが、結局のところ、最後までゲームを支配することは出来なかった。
ゲームを支配する...。ソレは攻守に渡り、自分達のリズムで試合をコントロールすることを意味する。最大のライバルであるバルサは、ほぼ全てに試合においてこれを実践しているが、マドリーはゲームを支配せずとも勝てる方法・・・カウンター戦術・・・を選択してきた。攻撃の流れがぶつ切りになり、プレーに連続性も一貫性も見られないのは、そのためなのだ。】
カカのような有能な選手も フィジカルが整わなければ
不振のカカに代わって前線をリードするエジル。後方からのサポートが得られれば、彼の特別な才能は更に輝くはずだ。
【フットボールをしているというより、トップアスリートたちがフィジカルの優劣を競い合っているかのような印象を受けるのも、今シーズンのマドリーの特徴の一つだ。そうした中で、故障により長期欠場を強いられ、復帰後も今一つコンディションが上がってこないカカが機能しないのは、ある意味当然のことだった。
今のカカは、強さと巧さを兼備し、チームの大黒柱として攻撃陣を牽引していたACミラン時代の彼では、もはやナイ。どんなにテクニックが優れていても、スピードとパワーに乏しく、更に90分間走れる体力がなければ、モウリーニョのチームにはフィットしないのだ。
もしマドリーが、もう少し個より組織を重んじるチームであったなら、あるいはカカも持ち前の賢さや知性を発揮出来ていたかも知れないが、今ソレを望むのは現実的ではない。フィジカル面で劇的な進化を遂げるか、指揮官が交代でもしない限り、カカが今後マドリーで輝きを取り戻すのは難しいだろう。
また、今や世界最高のファンタジスタの一人に数えられるまでになったメスト・エジルの才能も、現在のチームでは、その半分も生かされていない。この若きドイツ代表MFは、パスセンスだけでなく、ドリブルでの局面打開やゴール感覚にも優れている。彼が中盤で自由を享受し、FWの選手達と上手く連係を取れれば、チームのゴール数がサラに増えるのは間違いない。だが、ここで足枷となっているのが、シャビ・アロンソのパートナー役を務めるピボーテ(ボランチ)の選手の動きだ。サミ・ケディラを初め、このポジションで起用される選手の多くは、守備に回った時に最終ラインに吸収される場面が少なくない。これによって攻撃と守備が分断されてしまい、後方からのサポートを得られないエジルは、前線で“日照り”の状態に陥ってしまうのだ。
7年前の04年5月5日、ポルトが1ー0でデポルティボを下し、CLファイナル進出を決めた直後、モウリーニョは私にこう話し掛けてきた。
「どうだ、最高に楽しめただろう!!フットボールが心から愛おしくなるような、そんなゲームだったはずだ。君も良いモノを見せてもらったと、そう思っているんじゃないか」
今私は、改めてその言葉の意味を考えているが、いつか又彼にインタビューする日は来るのだろうか。
先日のモウリーニョとのやり取りを、私は友人であるジョセップ・グアルディオラにメールで伝えた。翌日に届いたバルサの指揮官からの返事の一部を抜粋して、紹介しておこう。
「孤独ではないと思い込み、強がっている時こそ問題は深刻なのさ」】
《ワールドサッカーダイジェスト:2011.4.7号_No.336_記事》
{{月2回刊:第1・第3木曜日発売_全国書店・コンビニ}}
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