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生活保護で育った若者 素顔伝える雑誌
11月1日 10時6分

生活保護で育った若者 素顔伝える雑誌

生活保護を利用する人の「顔」が見えないために伝わるマイナスイメージを変えていこうと、生活保護から自立した若者などの素顔を伝えようという雑誌が創刊されました。
雑誌の名前は「はるまち」。
編集に携わる社会活動家の湯浅誠さんは、テレビなどで流す匿名映像が生活保護への不信感などにつながってきたと指摘し、「生活保護を利用した人が顔や実名を出すことは大変勇気がいることだが、『顔が見える』ことで信頼の基礎を築いていく挑戦としたい」と話しています。

「はるまち」創刊号の表紙を飾ったのは、北海道の大河原航さん(21)と上出慎吾さん(21)。
大河原さんは、事務員などの仕事を掛け持ちしながら生活保護を受けていた母親に育てられ、高校卒業後は奨学金とアルバイトで短大に通いました。
現在、上出さんと共に障害者の社会参加などに取り組むNPO法人で働いています。
上出さんも、アルバイトをしながら生活保護を受けていた母親のもと、定時制高校を卒業して今は畑仕事などに取り組んでいます。
2人は5ページにわたるインタビューの中で、小学生のときから食事を作っていたことや友達の家で新しいゲームソフトを見たときの思い、「自分はできなかったから」と母に言われて部活動を始めたことなど、これまでの体験を語っています。
中には「うちお金ないんだよね」と友達との話題のネタにしていたとのエピソードも。
インタビューをした湯浅誠さんは「生活保護の家庭で育った若者には、生活が厳しかった一方で当然明るい面もある。『はるまち』ではむしろさわやかさや明るさを出し、イメージ転換につなげたい」と話しています。
「はるまち」は全24ページで、生活保護からの自立支援を積極的に進める自治体の取り組みや、安い食材で栄養の豊富な料理を作るレシピなどが紹介されています。

生活保護で育った若者も編集に参加

生活保護で育った若者も編集に参加

「はるまち」編集部のスタッフは14人。
生活保護の家庭で育った若者もいます。
出版社でアルバイトをしながら通信制の大学で学ぶ小林さよさん(22)は、高校時代などに、生活保護の不正受給などが問題になると、「自分も責められている気がした」と複雑な思いで受け止めていました。
中学時代から社会問題に強く関心を持ち始め、「はるまち」では1つのコーナーを任され、創刊号でペットの命にスポットを当てたコラムを書きました。
「生活保護は普通に生活している人にとっても何かあったときにセーフティネットになる、だれにも関係のある制度だと思います。興味のあるテーマを積極的に取材して原稿を書きながら、生活保護の利用者のありのままも伝えていきたいです」と話しています。

湯浅さん「冷静に議論できるとき」

湯浅さん「冷静に議論できるとき」

「はるまち」創刊の背景には、生活保護を巡る政府の動きもありました。
全国で受給者が215万人を超え、年間の生活保護費が3兆7000億円に上るなか、政府は3年間で約670億円を段階的に引き下げることや、不正受給の罰則などを強化する生活保護法改正案をまとめるなど、受給者への風当たりは強まっています。
湯浅さんは「こうした状況に行き着いたことで、これで本当にいいのかと、逆に生活保護を落ち着いて議論する機会になると考えた」と語ります。
湯浅さんによると、生活保護を巡っては、不正受給が問題化すると利用者が締め付けられ、その結果、餓死者などが出ると役所が批判されるというサイクルが繰り返され、こうした悪循環を断ち切る議論につなげたいと考えたと言います。
さらにメディアで生活保護を取り上げる際に流される、役所に並ぶ受給者の顔にモザイクがかかった映像や、パチンコ店などの資料映像が、一般の人が抱く生活保護の負のイメージにつながってしまったと指摘します。
「生活保護に別のイメージを思い浮かべてもらえないか」。
こうして生まれたのが「はるまち」でした。
「生活保護を受けた若者たちには、もちろん名前があり、顔があり、人生がある。喜怒哀楽を持った普通の人としてぜひ見ていただきたい」。
「はるまち」は季刊で毎号5000部発刊され、10号まで出す予定です。
1冊200円。
現在、東京・池袋の書店など都内の17の店で取り扱われています。
購入申し込みは、メールでも(info@harumachi.org)で受け付けています。

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