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先日、社会保障の専門家である学習院大学の鈴木亘教授が興味深い記事を公表した。
アベノミクスの「女性の活躍で経済成長」を真に受けてはいけない
アベノミクスで語られる女性活用のおかしさについては、「女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由」や「出生率は景気の遅行指数だ ~絶望的に勘違いをしている女性手帳の導入について~」などで、これまで自分も繰り返し批判してきた。だが、女性の活用自体を否定するつもりは全く無く、今後の経済成長に必須であると考えている。しかし、鈴木氏はそんなに単純な話ではないと言う。■女性の活用はマイナスの経済効果を生むのか?
本文を読めば分かるとおり、鈴木氏に女性を差別する意図は無い。女性の活用なんて無理に進めても無能な女が跋扈するだけだ、といった匿名コメント欄にあるようないい加減な批判でもない。鈴木氏が指摘するのは女性の活用によって発生するデメリットがメリットを上回ってしまう可能性で、これは重要な指摘だ。しかし、女性の雇用について現状維持がなされるのであれば、これは差別的な雇用環境が続く事に他ならない。
以前、日本の不景気は女性差別が原因だでも書いたが、女性差別によって経済がグングン成長するのであればそれは一つのやり方なのかもしれないが、倫理的に間違っている上に経済的にもマイナスであれば、差別的な状況を放置する理由は無い
■メリットはデメリットを上回るか?
鈴木氏が指摘するデメリットとは何か。それは女性が働く事によって男性の労働時間が減る事、そして従来のやり方を大きく変える事による摩擦(いわゆるスイッチングコスト)の2点だ。それぞれ以下のように説明されている。
『男性が家事や育児に時間を取られて就業時間が少なくなれば、その分だけ男性の収入が減少し、一国のレベルでもGDPが減少するのである。男性の中には、生産性の高い責任のあるポストから外れざるを得なくなったり、コース転換や、正社員から非正社員を選択せざるを得ない者もあらわれよう。』
『日本企業は、こうした性別の役割分業を前提とした人的管理を行って生産を最適化している。個人ではなくチーム単位で労働し、組織内・組織間で高度なすり合わせを行うために、長時間労働・長時間拘束は不可欠であるし、最適な人的配置を迅速に達成する為に、煩瑣な転勤や出向等が行われる。しかし、これらは、配偶者が家事や育児に専念し、転勤の際には家族ごと移動するために、配偶者が定職を持たないことを前提とした仕組みなのである。』
※いずれも『アベノミクスの「女性の活躍で経済成長」を真に受けてはいけない・上』より
女性の活用について、冷静に考えてみれば鈴木氏が指摘するようなデメリットは確かに発生するだろう。その点については自分も含めて女性活用によるメリットを強調する人は無邪気に賞賛しすぎていたかもしれない。しかし、それでもなお女性活用を推進するメリットは大きいはずだ。これら2点の問題は楽天の英語公用語化を考えると分かり安い。
■楽天の英語公用語化によるメリットとデメリット
楽天が英語公用語化を発表した時、英語が出来るだけの無能な人間が重用される、と多くの批判がなされた。自分はこれに対して「楽天の英語公用語化に反対する人がいまだに誤解している事」で英語の公用語化によって海外の優秀な人材を取り込むことが出来る、日本の現場で培ったノウハウをシームレスで摩擦無く海外に展開できる、と書いた。
英語の公用語化が原因でおかしな問題が発生しているとも報道されているので、この制度にリスクやデメリットが無いとは思わないが、将来楽天がアマゾンのようなグローバル企業に成長すれば英断だったと賞賛され、潰れてしまえばあんなことをやったからだと批判されるだろう。要するにリスクを取って将来の成長にかけたというだけの話だ。
これは女性の活用にもまったく同じ事が言える。今までと違う事をやるのだから、摩擦もあるだろう。女性の働き方が変われば男性の働き方も変わらざるを得ない。それを否定・批判する人もいるに違いない。だが、現状に問題が無ければ変えなくてもいいのかもしれないが、決してそうではない。
女性は出産で半数が退職を余儀なくされ、それまで培ってきた能力・経験がリセットされてしまい、教育で投じられた税金も無断になる。その一方で男性は本来の能力・体力以上の働きを要求され、うつ病は国民病として指定されるまでになった。
これは「ブラック企業という「グレーな存在」について」でも書いたように、過酷な長時間労働が法的に許されている結果として生まれた、間違った状況だ。それにもかかわらず、鈴木氏が長時間労働や転勤・出向など、従業員にとって大きな負担を仕方の無い事と受け入れている点も納得できない。
これを是正するには、女性に働いて貰う一方で男性を働きにくくする必要がある。鈴木氏は「一般論として、男性の方が仕事の能力が高く(賃金が高く)~」と書いているが、これも間違った現状をあまりに無批判に受け入れていないだろうか。男女の賃金格差は女性が働きにくい環境が放置されている結果であって、決して能力によって決まっているとは思えない。
かつて「ヤバい経済学」という書籍で相撲の八百長が統計データによって見破られる事があったが、男性に比べて女性の給料が低い事は、能力差の証明ではなく差別的で非効率な労働環境の証明になるのではないか。給料は本来個人差が強く反映されるはずで、性差が反映されているのなら差別と考えるのが自然だ。
■女性の活用は経済成長につながる
英語公用語化によって外国人でもスムーズに職場へ入る事が可能になったように、長時間労働の抑制や育児休業や時短勤務の取得など、女性が働き続けられる環境が整えば優秀な人材がより活躍できるようになるはずだ。日本人オンリーの状況から外国人も含めて雇用の幅が広がったように、男性だけが酷使される状況を解消する事は経済成長でプラスに働くのではないか。
男性ばかりが過剰な労働に駆り立てられる状況から、男女ともホドホドに働く環境に移行する事は急務で、これが経済成長にマイナスになるとは到底考えられない。男性の労働時間が減るデメリットは当然あるだろうが、それを女性がカバーし、過酷な労働から解放されることによって能率も上がれば、うつ病が減って医療費も削減できるだろう。鈴木氏が指摘する家庭にいる女性が担っていた家事労働や子育てをだれがやるのか?という問題についても、一部を男性が担って女性の給料が上がれば大きな問題になる事は無いだろう。
女性の雇用や働き方については以下の記事を参考にされたい。
■女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。
■ブラック企業という「グレーな存在」について~第二の過払い請求になるか?~
■ワタミ会長の参院選出馬を歓迎する~「ブラック企業」議論に終止符を~
■サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~
■日本の不景気は女性差別が原因だ
女性を活用すべきかどうか、という議論はすでに終わっている。今後は「どのように」を考えるべきだ。個人的には「クオータ制」と呼ばれる、管理職や政治家など責任あるポストに一定の比率で女性を割り当てる制度を導入しても良いと思うが、これが劇薬である事は間違いなく、否定的な意見も多数ある。
従来の議論はメリットとデメリット、リスクとリターンが冷静に指摘されているとは到底言えない。鈴木氏のような建設的な批判も受け入れながら、今後はどうやって女性活用をしていくか、着実に進めていく段階に入ったといえるだろう。
中嶋よしふみ
シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー
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(中嶋 よしふみ)
アゴラ 2013/8/4(日)