時論公論  「北欧に学ぶ 原発ごみ最終処分」 2013年02月06日 (水) 

水野 倫之  解説委員

北欧フィンランドで建設が進む、世界初の原発の使用済み燃料を最終処分する、巨大な地下トンネル。
計画では7年後に使用済み燃料の搬入が始まることに。

安全になるのに10万年とされる放射能レベルの高い原発ごみ。日本ではその最終処分が先送りされたまま原発の運転が続けられてきた。福島の事故では使用済み燃料をプールで大量貯蔵することの危険性も。今後も原発に頼るかどうかにかかわらず処分を急ぐ必要。
なぜフィンランドは世界に先駆けて処分場を決めることができたのか、今夜の時論公論は原発ごみ最終処分の課題について水野倫之解説委員。
 
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世界初の使用済み燃料の最終処分場は首都ヘルシンキから北西に250キロのオルキルオト島に。
名前は「オンカロ」、フィンランド語で「洞窟」を意味する地下施設を先月取材。
車でトンネルを下っていくと最も深い420mの地点に到着。
深さ7mの処分用に試し掘りされた縦穴。フィンランドは使用済み燃料を直接処分する方針で、使用済み燃料を入れた場合の熱の影響などを調査中。
一部の竪穴の底には水。亀裂から地下水がしみ込んできているということで、こういう穴を避けて処分する。
坑道は40キロまで広げられ、100年かけて9000tの使用済み燃料を受け入れた後、封鎖される計画。
ここは20億年前にできた厚さ60キロの岩盤の中、これまで大きな地震はなくほとんど変化していない。

エネルギーの70%を輸入に頼るフィンランドは、自給率を上げるため80年代までに4基の原発を導入し、電力の25%。
オンカロの近くでは2基が稼働中で1基が建設中、さらに1基増設計画。
地元の町・エウラヨキ。人口6000人の農業中心の町の議会は2000年に20対7の賛成多数でオンカロの受け入れ。
町長は原発の恩恵があることと規制機関への信頼を強調。
交付金はないものの、町の税収の4分の1は原子力関連で雇用も確保されるなど恩恵も受けていることから引き受けを考えた。
また、当時の議会の副議長も、規制機関への信頼と、最終的には政府・国会が責任を持つ制度ができていたことを挙げた。
フィンランド政府は原発の運転を続けるにはごみの最終処分にめどをつける事が不可欠として、初の原発稼働から6年後には地下の最終処分場の選定計画。最終的には政府が決定し国会の承認を得ることなどを明記。そして100を超える候補地から電力会社が地盤の安定したエウラヨキに申し入れ。
元副議長によると、原発にトラブルがないこともあって住民の信頼が厚かった規制機関が安全だとする報告書を出したことを受け、賛成に傾いていった。
規制機関の放射線・原子力安全センターSTUKは完全に独立した組織、職員の多くが大学の修士課程を出て最後まで規制に携わるなど専門性が高いことから、国民からの信頼も厚い。
 
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最終的にオンカロは、国会で、脱原発の政党も賛成して最終処分地として承認。
強固な岩盤に恵まれたフィンランドは当初から政府が前面に立ってごみ問題と向き合い、信頼される規制体制で最終処分場の建設にこぎつけた。
 
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今の日本で実現するのは難しいのでは、環境や制度の違いが大きすぎる。

日本では高レベルの廃液をガラスで固め、300mよりも深い岩盤に埋めることが法律で決まっている。
地下深くは水の動きが緩やかで、活断層や火山を避ければ安全は十分確保されるという90年代に研究機関がまとめた報告書が根拠。
 
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フィンランドと比べると、地下の様子が違う。日本では基礎的なデータを得るために岩盤を調べているが、大量の地下水も確認されており、震災前から安全性への不安も。
 
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震災後も、電力会社が動かないとしていた断層が動いたことが分かり、日本学術会議は安全に地下処分できるところを探すのは難しいとして、地上などで暫定保管することを提案。
政府は震災以降得られた知見を集め、あらためて地下処分が可能かどうか再検討が必要。
 
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さらに規制機関の信頼度にも大きな差があります。
原子力規制委員会は原発の放射能拡散予測では、電力会社のデータをチェックせずにミスを連発し体制が弱い事が露呈。
また敦賀原発の活断層問題を巡って、審議官が専門家が協議中の文書を公表前に電力会社側に渡していたことが発覚。国民の信頼回復には程遠い。規制委員会は組織全体の問題ととらえて、外部からの評価を受けるなど規制機関としての信頼を高めていかなければ。
 
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政府は3年で原発の再稼働に結論を出すと。フィンランドに学び、最終処分のめどがないまま原発の運転だけが続くことのないよう、ごみ処理の具体策の見直しを求めたい。

(水野倫之 解説委員)