インタビュー
弁護士・福井健策氏に聞く
著作権を活かすには デジタルコンテンツの功罪
―デジタルコンテンツに関する規制の動きも目立ってきています。2012年6月には、違法のコンテンツと知りながらダウンロードすると利用者も処罰される「違法ダウンロードの刑事罰化」に関する法案が可決され、現在施行されています。
福井氏:個人が私的にコピーし流通させることは、デジタルコンテンツの収益をどこまでなら伸ばし、どこまでなら害するのかという問題があります。「ほんのわずかな私的使用も許さない」というのはコンテンツが普及しませんし、逆に私的コピーが蔓延し過ぎれば、どんなものでも自由に使われてしまうだけで、収益化できません。
権利者団体は海賊版のダウンロードは害が大きいと働きかけ、議員立法でやや抜き打ち的に、違法ダウンロードを刑罰化する法案が通りました。それはそれとして、ここからは実験と検証が必要です。
前述のように著作権はビジネスモデルを守るためのツールに過ぎない。ビジネスモデルが変われば、著作権の考え方も変わるし、著作権のルールそのものが変わる可能性がある。その時大事なのは、ビジネスモデルがどんどん変わる時代だから、新しいことをやってみるという姿勢です。
しかし、「やってみてどうだったか」という事後的な検証を日本人はしないとよく指摘されています。1年たった今こそ「ダウンロード刑罰化で海賊版は減ったのか」「その結果音楽CDなどの売り上げは上がったか(あるいは下落に歯止めがかかったか)」という検証をやるべきなのではないでしょうか?
―それでは今後“交渉が苦手”な日本人が、デジタルコンテンツを販売し、海外で存在感を高めるにはどんなことが必要なのでしょうか?
福井氏:まずは専門家の育成です。“クールジャパン”と言われるなど、日本のコンテンツは海外で依然として人気があり、他国に売り込んでいくための人材育成がこれまでも求められてきました。しかしコンテンツの契約を国際的に交渉できる、あるいは国際的な流通のための著作権のアドバイスができるという人材が増えたという実感はまだありません。
米国企業はコンテンツ契約交渉や裁判対策に相当の金額を準備します。例えばGoogleはYouTubeの買収時におよそ200億円の訴訟対策費をあらかじめ準備していました。しかし日本にはこういった考えはありません。契約交渉をするのに交渉用の弁護士費用がプロジェクトの予算に組み込まれていないというのはよくある話です。こうした考え方を改めていくと同時に、権利に関して国際契約を交渉できる人材の育成が必要だと考えています。
また、情報発信の絶対量を増やすべきなのは間違いありません。いわゆる「大規模デジタル化」「デジタルアーカイブの構築」が必要となってきます。今後、オリンピック開催で日本と東京への注目度は上がるでしょう。その際、魅力的な日本の様々なコンテンツをデジタル化して、世界のどこからでも「試し聞き・試し読み」が可能な状態であるべきです。YouTube上に面白い日本発の動画の数が、今よりも10倍も100倍もあれば良いと思います。
それに関連することとして、私は「字幕無料化プロジェクト」を立ち上げたらどうかと考えています。どんなにおもしろい動画や音楽クリップでも、英語字幕を中心に相手国の字幕を選んで表示できるようでなければ、海外に訴求はできません。いくらYouTubeに素晴らしい動画があっても、外国の人に意味がわからなければ発信としては意味が乏しい。日本語の台詞や歌詞を十分把握できるファンは、ごく少数です。
そのためには日本語のできるファンがボランティアで字幕を付ける「ファンサブ」を作品ごとに権利者が公認するなど、民間の取り組みで出来ることも多い。同時に、「国立字幕センター」のような組織を作り、誰でもデジタルコンテンツを持ちこめば、ごく簡易な審査で全部に数ヶ国語で字幕付けをしてやるのはどうでしょう。翻訳家や各国の留学生をアルバイトで雇ってクオリティは中くらいでいいので、とにかく多くの人が見られる日本のコンテンツの数を増やす。そうすることで日本に魅力を感じる人を1人でも増やすことが大切です。
そして最後に挙げたいのが「著作権のリフォーム」です。著作権について従来のビジネスモデルをただ守る制度ではなく、どうすればデジタルコンテンツの流通を促進し、かつ収益を創作者側に還元できるかを考えて、著作権をカスタマイズしていくべきです。
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【福井健策氏 プロフィール】(ふくい けんさく) |
注釈
*1:Googleブックス
Googleが運営する書籍検索サービス。Googleが書籍データを紙の本からスキャンして取り込み、著作権の保護期間が満了した書籍は全文が公開される。満了していない本にはプレビュー(抜粋)が表示される。これに対して米国作家協会などが著作権侵害を訴える。2008年にGoogleが収益の一部を著作権者に対して支払うなどの和解案が提出されるものの、裁判所に承認されず、現在も係争中。
*2:いくつかの新しい制限規定
著作権改正法案に新しく設けられた規定。例えば漫画のキャラクターの商品化を企画する際に、社内の会議資料にキャラクターを掲載するなど、事前の検討のために複製などを行うことに対する権利制限(30条の3)や、テレビ番組の録画に関する技術を開発する場合にテレビ番組を録画するように、技術開発や試験のために複製を行うことに対する権利制限(30条の4)などのことを指す。