公式HP 2012年4月18日OPEN!
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 竜徹
 堀愛里
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青葉 千歳(19歳・女性)
背の低さをコンプレックスに持ち、考えるより先に手が出てしまうじゃじゃ馬娘。
困った人間を見捨てられない性格から、ゼクスの脅威に対して何ら手を打てない自衛隊を見限り、独自の行動を起こしている。
情にもろく、敵であるゼクスをも救おうとする彼女の咄嗟の行動は、少しずつ人間とゼクスの距離を縮めてゆく。

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刀の武人 龍膽(ホウライ・男性)
植物に浸食され滅び行く緑の世界のすべてを受け入れ、共に滅ぶ覚悟でいた。
しかし、小さな身体で懸命に誰かを救おうとする千歳の姿に心動かされ、再び愛刀を手に立ち上がる決意をする。
千歳とは逆に落ち着いた風貌と物腰であり、たびたび親子に間違われてしまう。

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剣淵 相馬(19歳・男性)
捕らえたプラセクトを売りさばいて日銭を稼ぎ、「なるようになる」を信条としているお気楽な青年だが……。
その正体は対ゼクス用兵士創造のため、緑の世界の植物因子を埋め込まれた元自衛隊員の改造人間である。千歳とは同期の関係にある。
人でもゼクスでもない者としての数奇な宿命を背負う彼は、持ち前の明るさで逆境を跳ね除け、フィーユとともに新たな一歩を踏みしめる。

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樹海の乙女フィーユ(猫のライカンスロープ・女性)
危険な目に遭っても決してめげることなく、次の獲物にまっしぐら。相手が何であれ興味を持ったものには近づかずにいられない、好奇心の塊。
ブラックポイントの側をうろつく相馬に興味を抱いて観察していたところ、彼が仕掛けた罠にうっかりかかってしまう。
自身の好奇心を満たしてくれそうな彼になつき、以降は行動を共にしている。

それは何の前触れもなく現れ、破壊と殺戮の限りを尽くした。
人類繁栄の象徴だった主要都市は瞬く間に壊滅状態へ追いやられ、
世界中から笑顔が消え去ってゆく。

わずかに生き延びた人々は、
異世界へ通ずる門《ブラックポイント》から無数に現れる異形たちを、
こう呼んだ。

Zillions of enemy X 《数えきれない正体不明の敵:ゼクス》と……。

あまりに強大な力を持ったゼクスに対抗する術はなく、
人類が滅亡へ向かう未来を、誰もが予感していた。

・ ・ ・ ・

東北に発生したブラックポイントからほど近いところに住んでいた青葉千歳もまた、
当たり前だった世界が、ある日突然自分たちに牙をむく姿を目の当たりにしてしまう。
かけがえのないものが、壊され、亡くなっていく。
ただ見ているだけで、何ひとつ出来ない無力さに涙を流した。

あれから3年の歳月が流れ――

誰かを助けられる人間になるため自衛隊に属した千歳は、日々鍛錬を積んでいた。
そんな彼女が、入隊してからの1年間で痛感させられたことがある。
首都・東京を失い統率力を失ったこの国に、在りし日の奪還など到底不可能ということ。
自衛隊東北方面隊もまた、発生したブラックポイントから遠く離れた北海道まで撤退し、
現状を維持することしか考えていない。

上に立つ者たちの消極的なやり方に幻滅した千歳は、
部隊に少数配備されていた《カードデバイス》を奪い、脱走した。
ゼクスを捕獲・使役できる、不可思議な技術を用いたこのアイテムさえあれば、
独力で未来を切り開けると考えたからだ。

・ ・ ・ ・

千歳には知っておかなければならないことがあった。
ずっと立ち入りを禁じられ、決して近づくことは出来なかったが、
いまこの瞬間、彼女を縛るものは何もない。
時たま見かけるゼクスから身を隠し、数日かけて深い森を抜けた先。
千歳は周辺一帯を望める高台から「諸悪の根源」を見下ろした。

眼下にすべてを飲み込む漆黒の空間が広がっている。
事実、清く澄んだ水をたたえ子供の頃から千歳を見守ってきた十和田湖は見る影もない。
3年前、ここから這い出してきた異形たちは、すべてを奪い去っていった。
どこへ繋がっているのか、何の目的でやってきたのか、考えも及ばない。

黒い。
どこまでも黒い。

あの日の恐怖が蘇る。
たとえ1匹だけだとしても、力でかなう相手じゃない。
そんなのが、この巨大な漆黒から無数に飛び出してきた。
分かっていたはずだった。

無理。
ぜったいに無理。

人間ひとりがどうにかできるレベルを超越している。
深い絶望を前にして、必死で考えまいとしていたことを思い出してしまった。
……帰ろうかな。
もうあの場所には何もなくなってしまったけれど、せめて最期は思い出と一緒に――

「……! ……!!」

そんな折、どこかから誰かの声が聞こえた気がした。
耳を澄ませてみると、自分が歩いてきた森の奥から微かな声が聞こえる。
こんな場所に自分以外の人間がいるのだろうか?

茂みに潜み様子をうかがっていると、やがて声の主がけたたましく駆けてきた。
一見、鹿のようだが、違う。二足歩行の鹿などいやしない。
あれはライカンスロープという種類のゼクスじゃないだろうか。
聞いた話と比べて小柄なところを見ると、子供なのかもしれない。

背中に大きな薔薇を咲かせた、巨大な赤いカブトムシのようなものに追われていた。
あっちは植物と昆虫が融合したゼクス、プラセクトに違いない。
自然界の摂理よろしく、彼らの間でも生きるための争いは起こるのだ。

あの子供が殺され、少しでもゼクスが減るならそれに越したことはない。
無視を決め込んだ千歳だったが、
気がつけば足元に転がっていた小石を、思い切りプラセクトに投げつけていた。
硬い装甲に阻まれ傷ひとつ与えられなかったが、気を引くことはできたようだ。
きびすを返し、千歳が隠れている場所目掛けてプラセクトが飛来する。

「あー、もう! 何で先に手が出ちゃうかなぁ… あたしは」

身の安全を確保してから行動に移せばいいものを……。
愚痴りながらも、千歳の胸に後悔の気持ちなど微塵もなかった。
どんな姿をしていようと、誰かを助けるために生きていこうと決めたのだから。

茂みから姿を現した千歳は、弱気になった自分が立ち直るきっかけを与えてくれた
ライカンスロープの子供が逃げ去った方向へ感謝の敬礼をすると、
空を切り裂き向かってくるプラセクトへカードデバイスを差し出した。
だがしかし、硬質で冷たいデバイスは何の変化も示さない。
当然、プラセクトが怯む様子もない。

「……さすがに都合良く使えたりしないか」

きっとあのツノに貫かれたら死ぬよね。
避けれるかな。
伏せれば間に合うかな。
いや、あいつ速い。
もう間に合わないって。
あー……終わったかも、あたし。

うっすらと死を覚悟したその時――

「命を護れる者が、生きることを諦めるのか?」

頭上からの野太い声の後、千歳とプラセクトの間に何者かが立ちはだかった。
精悍な風体の男が横に構えた刀は鋭いツノを正面から受け止め、火花を散らす。
衝突の瞬間、プラセクトの背中から輝く粉状の何かが飛散した。

「吸い込んではならぬ!」

しかし、行動が遅れた千歳は直後、強烈な睡魔に襲われることとなった。
全身から力が抜けてしまい、ふらふらと背後の木にもたれながら、ようやく理解する。
たったいま、ふたりの脇を高速ですり抜けて行ったプラセクトの花粉は、催眠毒だったのだ。
この男が現れなければ、仮にプラセクトの突進を避けられたとしても毒で意識を失い、
確実にトドメを刺されていただろう。

千歳の窮地を救った男もまた、異形の様相を呈していた。
ぼんやりした視界でもはっきりと分かる、燃えるような赤い髪の間から覗いた2本の角。
詳しくは分からないが、彼もまたある種のゼクスであることに間違いはないだろう。

「うぅ……ん……」
「何故、異形を助けた?」

武人のようないでたちのゼクスは振り返ると、千歳を見下ろしながら険しい表情を向けた。
着物の上に重ねた武者鎧がカチャリと音を立てる。
半ば放心状態だった彼女はその無機質な音で我に返った。
両手で頬を叩いて活を入れると、千歳は目の前のゼクスに臆することなく言い捨てる。

「誰であろうと、困っている人は見捨てられない!」

抗いようのない位置関係にむっとした千歳は、さりげなく背伸びすることも忘れなかった。

「不器用なのだな」
「ほっといてよ」
「だが、真っ直ぐだ」

ほんの一瞬だけ口元を緩ませ、
武人のようなゼクスは千歳の頭に武骨な手を置くと、乱暴に髪をかき回した。

「…………! おいこら頭なでるな! あと見下ろすな!
 それからっ! その! あっ、ありがとう…………」

訴えを無視し、千歳を制するように後ろへ回った彼は、今度は縦に刀を構える。
やがて、森の奥からまたあの音が聞こえてきた。
風を切り裂く羽音。
プラセクトが戻ってきたのだ。

「我が名は龍膽。拙者、その志を徹す刃とならん!」
「ココロザシ……? テッス……?」
「人間風に言えば、よろしくということだ」
「よ、よろっ……ええええ!?」

ゼクスを守ろうとした千歳、
そして、千歳を守るために剣を振るおうと決意する龍膽。
いま、この時から、ふたりの戦いは始まった。


ゼクス・ゼロ 我武者羅の交響曲 <がむしゃらのシンフォニー> 了