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■ストレスと記憶障害・認知障害・うつ病
         と
脳の可塑性
                        「ストレスに負けない脳」
                      早川書房刊より 一部抜粋
                           詳細については本書で

                                                        
※ 慢性のうつ病患者は、
記憶喪失をはじめとする認知障害に発展することがある
                          
■慢性のうつ病患者や一部の「心的外傷後ストレス障害」の患者は、
  記憶喪失をはじめとする認知障害に発展することがある。
     ※「心的外傷後ストレス障害」 (PTSD)
        恐怖を体験した(交通事故等で)後のストレス障害

■うつ病や心的外傷が、脳の一部を萎縮させるという証拠もある。

■「記憶と感情」は、大脳皮質ではなく、辺縁系というところで作動する。
辺縁系のうち、とくに二つの部分が
感情や記憶に大きく関り、ストレス反応と密接につながっている。 
それは「海馬と偏桃体」である。

■「海馬と偏桃体」は。
 ストレス対応や免疫反応の調節に重要な役割を果たすだけではなく
         記憶などの高尚な思考機能とも密接に関っている

■海馬は偏桃体と連動して、感情的出来事を顕在意識として貯蔵する。
そして、全身に張り巡らされた神経網を通じて、
ストレスホルモンを活性化する。

■海馬は、コルチゾールが過剰分泌されたり、慢性的に高いと、損傷を受けやすく、その結果
記憶をはじめとする認識、つまり思考のプロセスが悪影響をうける。


※海馬はストレス反応の停止に関連している
■私達の研究所で、繰り返しストレスをうけたラットの場合、
     ストレスを6週間与え続けると、
一部の海馬の神経細胞が減少することを発見した。

■海馬が損傷を受けると
   ストレスがなくなったと認知する能力が衰え、
       その結果ストレスがさらに高まるという結果をもたらす。

■海馬の萎縮によって、海馬にあるストレス反応停止メカニズムが損なわれ、
  その為ストレスホルモンのレベルがさらに上昇し、
それがさらに海馬に危害を加える

■慢性うつ病患者や一部のPTSD患者は、コルチゾールの異常分泌に加えて
 脳のふたつの重要な部分「海馬」と「偏桃体」の活動が活発になりすぎ
 脳細胞の萎縮をもたらしたり、さらに恒常的な損傷を及ぼしかねない。

■ストレスが極端に強かったり、長期にわたると、脳の回復力が破綻し、
シナプスの再構築も、神経細胞の形成も低下し、あるいはその両方が恒常的になって海馬が
縮小する可能性がある。

■ラットが年をとると、海馬が正常に機能しなくなることを発見した

■若いラットを高レベルのストレスホルモンにさらすと、海馬の老化を加速
することを発見した。



※海馬の萎縮の度合いと、記憶喪失の度合いは
           コルチゾール産生の度合いに比例している
■若い時、トラウマを体験した人の海馬は小さいことがわかった。

■海馬の萎縮の度合いは、たとえ10年前のことでも、うつ病だった期間に
比例している。

■うつ病やトラウマのずっと後で、「海馬の萎縮」がみられる理由の一つは
  「ストレスホルモン」コルチゾールが神経細胞の新生を妨げることから、
  ストレスによって「海馬」の神経細胞の新生が通常のように行なわれなくなることだ、という
ことが、ツバイの実験で分かった。

■ツバイというリスに似た霊長類の動物を使って実験した。
  ツバイが慢性の心理的ストレスの下に長く置かれると、
  海馬の神経細胞が萎縮して形を変え、歯状回で新しい細胞が形成されるのが抑えられる
のを私たちは確認した。

■1996年ワシントン大学で、慢性うつ病の人達にも同じようなパターンが見られるのを確認し
た。(うつ病の人の多くは、血中のコルチノイド値が高い)





※過度のストレスの下に置かれると、
脳はまさに引きこもり状態になる。

■トラウマやうつ状態が長期に及んだ時、
海馬がダメージを受けやすいこともわかった。
      
■うつ病やトラウマのずっと後で、海馬の萎縮がみられる理由のひとつは、
  「ストレスも、コルチゾールも神経細胞の新生を妨げることから」
  ストレスによって神経細胞の新生が通常のように
行なわれなくなるということだ。

■これはツバイの実験で分かった。

■ツバイというリスに似た霊長類の動物を使って実験した。
  そして、動物が慢性の心理的ストレスの下に置かれると、
海馬の神経細胞が萎縮して、
  新しい神経細胞の形成が抑えられるのを、私達は確認した。

■この霊長類を使った実験で、コルチゾールの増加と慢性ストレスが
             神経細胞新生を抑えることを発見した




※うつ病では、
コルチゾールが慢性的に上昇していることが多い

■これはストレスが長く続いているか
           又はストレスが無くとも、
ストレス反応を解除するプロセスが解除されていない
 そのいずれかの理由で、コルチゾールが慢性的に上昇していることが多い。


■学習性無力感はいろいろな動物で研究され、人間のうつ病のモデルになると考えられてい
る。
うつ病の特徴の一つは、何をやっても同じだと思い込んで、自分の生活を改善できなくなること
だ。
学習性無力感に陥ったラットも、一部のうつ病患者も、何に対しても無関心であり、コルチゾー
ルのレベルが高い。




 ※コルチゾールは海馬経由で取り込まれる
■コルチゾールの上昇とうつ病的な行動という二つの結果を見て、
 私はストレスホルモンが脳内で作用するとすれば、どのように働くのかを知りたいと思った。
■視床下部がストレス反応の要であるが、コルチゾールは視床下部よりも、
海馬と言う別の部位にかなりの量取り込まれ、保持されていることが分かった。

■海馬にはコルチゾールレセプターがたくさんあり、ストレス反応の際には
コルチゾールを使って、チェックアンドバランスを行なっている。

■コルチゾールの分泌が慢性的に多いと、インスリン効果を押さえることがある。 疲労感、い
らだち、敵対的行動、エネルギーの欠乏、意気消沈などとして現われる。



※海馬にコルチゾールがあふれると、海馬が疲労し、
消耗して正常に機能しなくなり認知機能も損なわれる。

■ストレスホルモンは、正常なレベルだと記憶の保持を促進するが
    長期間レベルになると海馬が萎縮し、記憶障害をもたらしうる。

■コルチゾールの上昇で、損傷を受けるのは海馬だけである。

■海馬にコルチゾールがあふれると、海馬が疲労して消耗して
(ストレス反応をコントロールする)「H・P・A軸」が正常に
機能しなくなり脳の認知機能も損なわれる

■海馬の萎縮によって、海馬にあるストレス反応停止メカニズムが損なわれ、
その為ストレスホルモンのレベルが上昇し、それが海馬にさらに危害を加える。

■PTSDの人の多くのは、記憶テスト、とりわけまとまった文章や一連の
  言葉を思い出すという、海馬の記憶を調べるテストで低スコアーを出す。

■脳は、ストレス反応を引き起こすだけではなく、
その標的になりうることが判明した。



※しかし、たとえそうなっても
元の状態に戻せることも立証した。
        ■脳の可塑性

■わたし達は、ストレスによる海馬の萎縮は、脳が、可塑性と神経発生を中断した結果ではな
いかと推測した。

■ツバイにストレスを与えると、ストレスホルモンであるアドレナリンと
                      コルチゾールを分泌した。
一時間この状態に置くだけで顕著な変化がみられた。

■これを毎日一時間一ヶ月続けたところ、ツバイの体重は減少し、
コルチゾール値とアレナリン値が毎日上がり、歯状回は小さくなり
神経細胞の新生は極端に抑えられた。
■普通ならほかの動物と同じようにツバイも成体になってからずっと
歯状回で神経細胞が作られるはずである。

■そのツバイもたった一時間ストレスを与えただけで新しい神経細胞の形成
が抑えられた。
そしてストレスから解放してやると、神経細胞が再び形成された。
■私達は、この現象を樹状突起の再構築と呼んだ。
■なぜなら、明らかに萎縮ではなかったからだ。私達の研究で、
これらの樹状突起の変化は元に戻せることが可能であることがわかった。
■コルチゾールは単に脳に害を及ぼしたわけではないことは明らかだ。
ラットに見られた変化は、脳への損傷ではなかった。
■むしろ脳が回復してゆく為に活動が一部中断していることを表していた
■ストレスに反応して脳が脳を守る処置として可塑性と神経細胞の
新生を一時的に止めるのではないかと私達は考えた。
■そしてこれが多くの研究者が観察した海馬の萎縮の実体ではないかと。

■脳が可塑性臓器であることが分かり始めたのは1980年代末である。
脳は順応性を持ち、回復力に富み、
刺激に反応するという意味で可塑性がある


■慢性の心理的ストレスの下に長く置かれると海馬の神経細胞が萎縮して
形を変え、歯状回で新しい脳細胞が形成されるのが抑えられることを
私たちは確認した。
さらに、たとえそうなっても元の状態に戻せることも立証した。

■脳はその可塑性ゆえに、外からの刺激に対して、己の構造を変え、
成熟した脳で、新たな神経細胞をつくり出せるのである。

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