天安門車炎上:「人権弾圧」訴え狙う?
毎日新聞 2013年10月30日 07時25分
【北京・石原聖】中国・北京市中心部の天安門前で車が歩道に進入して日本人を含む43人が死傷した事件で、北京市公安局はウイグル族による犯行と断定し、複数のウイグル族を拘束して取り調べを始めた。北京のホテルには不審人物の宿泊の有無を照会する通知が送られており、組織的な事件かどうかが焦点となりそうだ。
◇ウイグル族、当局へ憤り
新疆ウイグル自治区では、2009年7月に最大都市ウルムチで大規模暴動が発生して以降も漢族とウイグル族の対立が激化。今年だけでも▽3月、ホータンで公安局の派出所を火炎瓶で襲撃▽4月、カシュガル地区で暴徒化した住民と警官隊が衝突し、計21人が死亡▽6月、トルファン地区などでナイフを持った暴徒が警察署などを襲撃し、警察官が10人を射殺−−する事件が起きている。
習近平指導部は6月下旬、新疆ウイグル自治区での対処を「テロとの戦い」と位置づけ、大量に武装警察部隊を投入、取り締まりを強化。米政府系放送局ラジオ自由アジアは今回の事件までに、ウイグル族が10人単位で毎月のように射殺されていると報じている。
また、新疆ウイグル自治区ではイスラム教徒が髪や顔などを覆うスカーフの着用が禁止されている。香港の人権団体「中国人権民主化運動情報センター」は、「6月26日に不法に宗教集会を開いたとして参加者が射殺された事件の死者の親族が今回の事件を起こした」と伝え、当局の締め付けに対する反発が事件の背景にあったと見られる。
ただ、新疆ウイグル自治区で発生している抗議行動は政府や派出所が対象で、市場など一般人や観光客を狙っているわけではない。
事件当日、天安門近くの人民大会堂で、最高指導部の政治局常務委員7人全員が出席していた会合が開かれていた。事件は11月の共産党第18期中央委員会第3回総会(3中全会)を控え、「人権弾圧」を国内外にアピールする狙いがあった可能性があるものの、北京の外交当局者は「独立運動そのものが過激化し、組織的に無差別テロを行ったとは考えにくい」と指摘した。
中国では29日、事件を伝えるニュース番組が遮断されたことを報じるNHKニュースが再び遮断された。当局が神経をとがらせていると見られるが、中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)副報道局長は同日の定例会見で「社会の安定を図るためテロ事件は制圧する」と述べるにとどめた。