原発:トルコ輸出 セールス加速、批判も 国内政策定まらず
2013年10月31日
三菱重工業などの企業連合が29日、トルコ政府と原発建設の受注で実質合意し、東京電力福島第1原発事故後、日本の原発輸出が初めて実現することになった。新興国を中心に原発需要が増す中、国際的に高い技術水準を持つ日本の積極関与を求める声は根強く、安倍政権は今後も輸出を推進する考え。一方で、自国の原子力政策が定まらないまま海外セールスを加速させる姿勢には批判も多く、功罪相半ばするとの評価になっている。【大久保渉、浜中慎哉】
「福島の事故の経験と教訓を共有し、世界の原子力安全の向上を図っていくことは我が国の責務。原子力協力を求める国には制度整備や人材育成の支援を通じ、安全確保を促していく」。トルコ訪問中の安倍晋三首相は29日夜、エルドアン首相との共同記者会見で、原発専門家育成など安全対策を強化しながら、今後も日本企業の原発輸出を後押ししていく考えを表明。共同宣言では、トルコに共同で科学技術大学を設立する方針も盛り込んだ。
三菱重工などの企業連合は、安倍首相が5月にトルコを訪問した際に優先交渉権を獲得しており、今後、トルコ議会の承認を経て、正式に契約を結ぶ。国際原子力機関(IAEA)によると、2030年までに世界の原発は東アジアや中東などを中心に最大で370基程度増加する見込み。日本の事情に関係なく、世界の原発需要は高まっているのが現実だ。
一方、世界の主要な原子力プラントメーカーは協力関係が緊密な日米仏のほかは、価格の安さをセールスポイントに売り込みを図るロシア、韓国、中国のみ。過酷事故(シビアアクシデント)が起きれば国境を越えた大惨事になる恐れがあるだけに、「環境意識の薄い国ではなく、日本が積極的に安全基準を作っていくべきだ」(米戦略国際問題研究所のジョン・ハムレ所長)との国際的な要請は強い。日本国内で原発建設が当面は見込めないこともあり、経済産業省幹部は「日本メーカーの技術基盤を維持するためにも、海外での受注が必要だ」と指摘する。
とはいえ、日本国内では現在稼働している原発がゼロ。原発の安全性に対する国民の不信感が根強く、将来の原子力政策も宙に浮いたままの状態だ。