元ＮＨＫアナ・羽佐間正雄さん「Ｖ９は俺一人の仕事じゃないが口癖だった」…川上哲治さん死去

　現役時代から川上哲治さんを取材してきた元ＮＨＫキャスターの羽佐間正雄さん（８２）は３０日、突然の訃報に「ただただ、驚いてます。本当に残念です」と声を落とした。

　最後に会ったのは約２年前。「（私のことを）伝え、残してください」。面会した羽佐間さんの目を見て、こう言った。いつもの「大音量の声」ではなかったが、背中を押されたような気がした。取材ノートをひっくり返し、カセットテープに残してある川上さんの肉声を繰り返し聞いた。今年１月と４月に「打撃の神様川上哲治」、「巨人軍Ｖ９を成し遂げた男」（ともに１４７０円、ワック出版）を出版。２冊の本は、川上さんの自宅の居間に置かれていた。

　川上さんは禅の道に、ある種の憧憬（どうけい）を抱いていた。西鉄に３年連続で日本一を奪われた１９５８年オフには、岐阜県美濃加茂市の正眼寺を訪ね、座禅を組んだ。時に４時間に及ぶ座禅は川上さんの心を支えた。８３年には、現在楽天の監督を務める星野仙一氏が訪ねてきて、こう言った。「監督さん、座禅をやりたいんです」。川上さんは他チームで育った星野氏が訪ねてきたことを喜んだが、星野氏は１週間で断念した。「（寺から）１週間で下りよった。がっはっは」。川上さんの豪快な笑い声が羽佐間さんの脳裏に焼き付いている。

　「オレ一人の仕事じゃないよ」。ＯＮを中心とした伝説のＶ９時代の話が話題に上ると、決まって羽佐間さんにこう言った。川上さんは監督時代の６１年に、中日で活躍した牧野茂さんをコーチとして招へい。当時、他球団からコーチを招くことは異例だったが、米大リーグのロサンゼルス・ドジャースで実践された組織的な戦術「ドジャース戦法」の中心に牧野さんを据えた。

　その後、巨人は黄金時代を迎え、Ｖ９（６５～７３年）を達成。勝つためにはあらゆる手を尽くす―。川上さんの執念を垣間見たという羽佐間さん。「ゴルフでも、何でも勝つまでやる。大の負けず嫌いだった。そして、部下を上手に使い、勝つ。負けたくないという強い思いが、常勝巨人軍を支えた」。プロ野球史に残る「最高の指揮官」だった。

　◆羽佐間　正雄（はざま・まさお）１９３１年１０月２９日、東京都生まれ。８２歳。法大卒業後、５４年にＮＨＫ入局。スポーツキャスターとして五輪やサッカーＷ杯などスポーツのビッグイベントを担当。８８年にＮＨＫ退職後は、ジャーナリストとして活躍。担当した実況は「東京五輪（６４年）、棒高跳び９時間７分の死闘」「全米オープン（８０年）青木・ニクラウス決戦」など多数。８７年、全米スポーツキャスター協会賞国内部門賞を受賞し、殿堂入りした。

（2013年10月31日06時03分スポーツ報知）